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053 人狼2

 


 ——人狼ワーウルフ



 それは数が多くない魔族イビルという枠内にあって、その中では比較的数が多いとされる種族の一つである。分類されるランク帯はA。進化はしないが、生まれながらにAランクの能力を有している種族だ。



 身体的な特徴としては、頭の上の獣耳、そして臀部上部から生える尻尾だ。



 そんな彼らは、見た目こそ人間種に分類される獣人族ビーストにそっくりではあるが、相違点が二つほどある。



 一つ目の違いは、魔族イビルや魔物といった“魔の者”の特徴——“赤眼”を有していることだ。よく似た見た目を持つ獣人族ビーストには、基本的に(・・・・)赤眼を有する者がいないので、この身体的特徴は人狼ワーウルフ獣人族ビーストを見分ける上での大きな要素となっている。獣人族ビーストに“赤眼”がいる場合の例外としては、フィリアのような染色体異常による、先天的な病気の場合のみである。



 二つ目の違いは、【獣化】と呼ばれるスキルを有していることだ。人狼ワーウルフは皆が皆、例外なく【獣化】というスキルを有している。このスキルは、使用すると、巨大な狼の形態をとることができる。この形態では人の形態よりも高い身体能力を誇る。



 そんな人狼ワーウルフは数百人からなる大きな集落を形成し、主に森林地帯の中で暮らしている。性格は比較的温厚で、魔族イビルには珍しく争い事を好まないのが特徴だ。



 しかし、常にそうだというわけではない。



 人狼ワーウルフは元来、非常に仲間意識が強い種族なのだ。よって、自らの仲間が危険に晒されようものなら、上記のそうした性格は一変する。他の仲間の安全を確保した上で、後に、能力の全てを以ってその原因の排除を行うのである。



 そうなった時の人狼ワーウルフは、普段の温厚さは鳴りを潜め、非常に獰猛な“肉食獣”と化す。



 また、“受けた恩には必ず報いる”、という非常に義理堅い側面を持っているのも特徴の一つだろう。



 “恩には恩を、仇には仇を”。



 それを体現した種族こそが人狼ワーウルフという種族であると言える。



 ♦︎♦︎♦︎



 《——が人狼ワーウルフという種族です》



 なるほど。それ以外の特徴といえば……皆が皆、灰色の髪色を有していることだろうか。だが、これは人狼ワーウルフという種族の特徴なのか? それとも地域によって異なるのか?



 《いえ、先ほど言い忘れましたが、人狼ワーウルフは灰色の髪色を有した者しかいないようですよ? ちなみに【獣化】を使った後の姿も灰色の毛色を持った狼です》



 そうなのか? ……って、聞いた我が言うのもなんだが、そんなことはどうでも良かったな。



 《なら何故に聞いたのですか……。折角、懇切丁寧にお教えしましたのに……》



 悪かった悪かった。



 さて、今差し当たっての問題は目の前にいる人狼ワーウルフたちをどうするかだ。仲間に引き入れたいところではあるが。さて、どう切り出したものか……。とりあえず傷を負っているようだから、それを治してやるか。話はそれからだ。



 傷は……切り傷、打撲、火傷とかか。この程度なら範囲回復魔法で問題なく治せるな。



 我は急にここ——我が作った街——に強引に(・・・)連れてこられて警戒している人狼ワーウルフたちに近寄った。そして、広範囲の者の怪我を治す——といっても治せるのは軽症のみだが——回復魔法【範囲回復エリアヒール】を使い、傷を回復させる。



 人狼ワーウルフたちは回復魔法を使われたことに驚き、その眼を疑問の色に染めるが、幾らか警戒心は解いてくれたようだ。どうやら悪意はないのだと気付いてもらえたようである。



「感謝します。森の主よ」



 森の主? どちらかといえば、この森はレアハのものだと思うのだが……まぁどちらでもいいか。現に今管理してるのは我だし。彼奴は相変わらず寝てばかりだからな。今日だって城の屋根で寝ておるし。



 そうして、レアハがいる屋根をチラと見てみた。そこには狼の姿となったレアハが、グースカピースカと寝ていた。何故か、妖精たちも一緒になって寝ているが……。このまま“昼寝倶楽部”が設立されないように目を光らせておかねばな。



「この程度ならなんてことはない。だが、アレだ。一つ謝らせてくれ。我の部下が失礼した。確かに“連れてきてくれ”とは言ったのだが、あんなに強引に連れてくるとは思わなかったのだ……」



 当時の状況はこうだ。たまたま人狼ワーウルフたちを見つけた妖精の一人が、そのことを我のもとに報告しにきた後、人狼ワーウルフたちを街に案内するようコウガとティターニアに指示を出した。だが、彼らに任せたのが間違いだった……。“連れてきた”と言うから見にきてみれば人狼ワーウルフ全員が胴に木の枝を巻かれて宙に浮いた状態だったのだ。



 それを見て、天を仰いだことはまだ記憶に新しい。あの後、コウガとティターニアに注意し、妖精たちにも“敵でないなら【草木操作】はあのような使い方をするな”と言っておいたのだが……大丈夫だろうか?



 ……心配だな、うん。今後同じようなことがあればフィリアとガハクに頼むことにしよう。あの二人なら仕事を、我の望む形で(・・・・・・)遂行してくれるだろう。



「いえ、お気になさらず。こうして傷を治していただけたのですから、あの程度は些事なことです。……子供達は喜んでおりましたし。……それに何故か極一部の者も」



 確かに子供達は“キャッキャッ”と喜んでいたな。それに極一部の者も。其奴らは何故か恍惚とした表情をしていたな。まぁほとんどの大人はこの世の終わりだと言わんばかりの顔をしていたが……。アレはなんだったのだろうか? 解放された後に残念そうな顔もしていたし……少し気になるところである。



「……色々話したいことはあるが、まずは一つ聞きたい。この森には何しにきたのだ? 差し支えなければ話してほしいのだが?」



「……我らは逃げてきたのです。あの……あの憎っくき人族ヒューマンからッ!」



 その人狼ワーウルフ——おそらく人狼ワーウルフたちの“長”だと思われる壮年の男が“ギリッ”っと歯軋りしながら憎々しげに告げた。人族ヒューマンと何かあったようだ。だが——



人族ヒューマン? そんな者たちがお前たちの敵になり得るのか?」



 我は純粋に疑問に思った。我が見た人族ヒューマンといえば、魔王ゼノフィリウスと戦っていた兵たちだけだが、そんなに“強い”という印象を受けなかった。少なくとも、今、目の前にいる人狼ワーウルフたちが遅れをとるとは思えない。



「貴方様がどのような人族ヒューマンをご想像されているかは存じ上げませんが、少なくとも国が抱える兵よりは強い者たちです。……我らを襲ってきた集団。彼らは俗に“冒険者”と呼ばれているそうです」



 冒険者は兵よりも強いのか……。そういえば、我が生まれた迷宮——【亡者の峡谷】も我が攻略する前までは、冒険者なる者が到達した第四十三階層が最高到達階層だったな。ということはスケルトンワイバーンを倒していたということか。それもおそらく少数で。



 《冒険者の強さはピンからキリまでいますが、高位の冒険者たち——とりわけSランク以上の冒険者ともなれば、国が抱える兵よりも遥かに強く、そして厄介なようです。



 騎士は基本的に“対人戦”というものに重きを置いて訓練をしている集団ですが、冒険者は違います。冒険者が相手取るのは魔物。そして、魔族イビルです。そういった事情から、イレギュラーな事態に対する対応力や純粋な強さは国が抱える兵とは比べるまでもありません。



 それに冒険者というのは腕さえ良ければ相当に稼ぐことが可能ですので、給料が固定の騎士よりも実力者が集まりやすい傾向にあるようですね。実際、この世界の実力者の大半は、冒険者として活動しているようです》



 冒険者とはそんなに厄介なのか……。



 一応、国を作るなら防備を整えておいた方がいいかもしれないな。……いや、整えておかねばなるまい。いつまでも冒険者がこの森には来ないと楽観視はできないからな。だが、その前に——



「これからお前たちはどうする? 住む場所の“当て”はあるのか?」



「……ありません」



「そうか。……なら、ここに住む気はないか?」



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