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051 偵察4

 


 突然現れた龍——暗黒龍ダークネスドラゴンとその上に乗った、強大な力を持つ存在。おそらく其奴が魔王ゼノフィリウスなのだろう。というのも、存在感や威圧感というものが通常の魔族イビルよりも桁違いにあるからだ。少なくとも、今まで会ったことがある者の中で、まず間違いなく一番強い。それは最早疑いの余地はないだろう。



 《マスターとどっちが強いですかねー》



 そこは我だ! ……と言いたいところだが、実際戦ってみないことにはなんとも言えない。迷宮ダンジョンを攻略して以来、勝てると断言できないような相手とはついぞ会わなかった。確かに爆炎龍エクスプロードドラゴンは強敵ではあったが、負ける気は全くしなかった。まぁ実際、危ない場面はあったが……。



 しかし、此奴と戦うとなると“勝てるのだろうか?”と思う自分がいる。無論、戦っても負けてやる気はない。だが勝つにせよ、それは辛勝になるだろう。



 少なくとも今言えることは、まだ戦うべき相手ではない、ということだ。



『クックック。諸君らは勝った、とでも思っているのか?』



 魔王ゼノフィリウスが話し出した。不思議なことに、話される言葉は直接頭に響いてくる。“世界の声”が頭の中で聞こえている状態と似たような感じだ。これは……スキルだろうか? それとも魔法か?



 《【念話】という魔法ですね。この辺一帯が全て効果範囲になっています》



 便利な魔法があるのだな。それにしても、数万の軍全てを覆う範囲に、その魔法の効果を及ぼせるあたりは流石魔王といったところだ。



『初めまして諸君。余はゼノフィリウス・アークロードという者だ。……いや、諸君らにはこう言った方が分かりやすいかな? 余は魔王(・・)ゼノフィリウス・アークロードだ』



 ほぼ確信していたが、やはり本人だったようだ。まぁ、こんなのがポンポン出てくるわけもないから当たり前か。それにしても今更何をしにきたのだか……。



『残念だが、諸君らが勝ったと思っているそれは単なる幻想に過ぎない。これから余が見せてやろう。完全無欠な勝利を。そして、圧倒的な実力差というものを。……まあ、安心するが良い。余には弱者を痛ぶる趣味はない。せめてもの情けに一思いに殺してやろう。



 ……だがその前に、だ。諸君らには冥土の土産にいいものを見せてやろう。これは今からほんの一時間ほど前に記録した映像だ。諸君らにとっては中々に楽しんでもらえる内容となっているはずだ。クックック』



 魔王ゼノフィリウスは懐から魔石が嵌ったもの——おそらく魔道具だと思われるものを取り出した。話し振りから察するに、それが映像を記録した魔道具とやらみたいだ。



 《アレは人間の魔導師が作り出した映像を記録する魔道具ですね。音までは記録できませんが》



 ほう、そんなものがあるのか。いつか人間の魔導師を仲間に引き入れるのもありかもしれんな。



『さあ! ショーの始まりだ!』



 魔王ゼノフィリウスのそんな声が聞こえたかと思うと、上空に何かの映像が投影された。



 映像は端的にいえば都市の破壊映像だった。【イプシロンザ王国】の王都らしいが……見るも無残なことになっている。見せられている兵のことを考えれば、少しだけ可哀想に思えてくるほどだ。建物は崩れ、人は死に、王城までもが破壊されている。



 態々このようなものを見せつけるあたり、魔王ゼノフィリウスは中々にえげつない性格をしているようだ。我なら破壊するにしても、そこまでしかしない。それを記録して見せつけるなんてことは絶対にしないだろう。



 《流石にコレはどうかと思いますね。……マスター。なんかアイツ気に入らないので戦った時にはコテンパンでお願いします》



 どんだけ嫌いになったのだ。お前は……。



 我が【知恵神ソピアー】とそんなやりとりをしていると、やがて魔王ゼノフィリウスは兵たちを攻撃し始めた。攻撃は【フレイムスピア】という、一般的には“弱い”部類の魔法であった。しかし、魔王ゼノフィリウスが放ったものは強力で、兵たちが発動した【防御障壁】をいとも容易く貫通していた。



 その辺は、やはり魔王だと納得させられる魔法の練度である。【知恵神ソピアー】の話では、魔王ゼノフィリウスは混沌の大賢人(カオスリッチ)という、魔族イビルの中でも魔法能力に長けた種族らしい。しかもその種族系統では最上位種に当たる。



 そんな者にとって有象無象が使った結界魔法など、最早あってないようなものだ。故に、いかに“弱い”部類の【フレイムスピア】であろうと、兵たちが使用した【防御障壁】を破ることは当然の帰結と言える。



 そして、引き続き二発目の魔法——【流星群メテオストリーム】が放たれた。それはかなりの規模を攻撃できる魔法だ。先ほどの【フレイムスピア】を防げなかった兵たちには、この魔法を防ぐ手段はないだろう。放たれれば、まず間違いなく軍は壊滅する。



 我は“ここまでかな”と思ったが、そうはならなかった。帝国の例の凄腕魔導師が【流星群メテオストリーム】を全て防いだのだ。



 ……やはり、人にしておくのが勿体無い逸材だ。しかし、まだ“人の範囲”にいると言わざるを得ない。魔王ゼノフィリウスには絶対に勝てないだろう。生物としての“格”が違いすぎる。



 亡くすのは非常に惜しいところだが、この状況では致し方ない。仮に救おうとすれば、我が魔王ゼノフィリウスと戦う必要が出てくるからな。



 例の魔導師はその後、魔王ゼノフィリウスの攻撃——【雷神の鉄鎚(サンダーボルト)】を食らって地に倒れ伏した。……本当に惜しいと思う。



『ふんっ他愛もない。所詮は人間か。……もう飽きた。遊びは終わりだ。……【風鋭刃ウィンドスライサー】』



 そして、魔王ゼノフィリウスは数百もの【風鋭刃ウィンドスライサー】を発動し、生き残っていた全ての兵を次々と倒していった。



 そして……戦場が静まりかえった。全員倒されたようだ。少なくとも我の眼下で動く者はいない。



「ゼノは敵にはえげつないな。まぁ、そんなとこが良いのだがな。それで? もう良いのか?」



 魔王ゼノフィリウスを乗せていた暗黒龍ダークネスドラゴンが彼に尋ねていた。



 距離は離れているが、戦場が静けさに包まれているため、非常によく聞こえるのである。



 彼は暗黒龍ダークネスドラゴンの問いに一つ頷いてみせると——



「うむ。帰るぞ」



 と何故か機嫌良く言っていた。



 そして、暗黒龍ダークネスドラゴンに乗って戦場を飛び去っていった。



 というか何故上機嫌? ……もしかしてアレか? 敵を天国から地獄に叩き落として、その様子を楽しめたから、とかか? もし、そうだとしたら悪趣味もいいところである。



 まぁ、何はともあれ、魔王ゼノフィリウスの実力の一端を知れたのは僥倖であった。では、そろそろ帰るか。



 うん? 今微かに下の方で何かが動いたような……。



 《マスターから見て40m斜め下前方のやや北側に辛うじて生きている者がいるようですね》



 ほう、まだ生きている者がいたか。……ふむ。興味が湧いた。あの攻撃を受けて生きている者がいるとはな。



 我は気配を感じた方向へと飛び、地面へと降りた。



 すると、そこには身体中に火傷を負いながらも辛うじて息をしている者がいた。



 というか此奴はアレではないか。 人間にしては凄腕だった魔導師の……名前は知らんが。



 《はい、“爆炎の魔女”と呼ばれていた者です。名前はエレンミアだったかと》



 ……仲間に引き入れようと思うのだがどう思う?



 《そうですね。人の身でここまでの実力を持つものはそうはいないでしょうし。マスターの【眷属化】で仲間に引き入れることができれば後々役に立つでしょう》



 決まりだな。まぁ、拒否されたらどうしようもないが。



 そうと決まれば早速——



「おい、魔導師。お前はここで死ぬには惜しい人材だ。人間を捨ててでも生を望むか? 生きる覚悟があるか? あるなら我に従え。……で? どうする?」



「……わ……たしは……まだ……死にた……くない……」



「そうか。ならばこれを飲め」



 我は手首を切って血を出す。そしてそれを魔導師の口元に持っていき飲ませる。



 すると、魔導師の眼が下から上へと徐々に赤く染まり出し、それと同時に存在感が増していった。【眷属化】完了である。



「しばらく寝ているがいい。起きたらお前はもう人間ではないがな」



 魔導師——エレンミアはそれを聞いたか聞いていないか分からないが意識を失っていた。



 我が血を飲ませて吸血鬼にした効果が早速出てきたようで、徐々にだが体が回復し始めた。この調子なら起きた時には完全に回復しているだろう。



「さて帰るぞ、ティターニア」



「はい! 承知いたしました!」



 そして、我はエレンミアを小脇に抱えると【飛翔】のスキルを使用。背中に生えた翼で空中へと飛び上がり、拠点がある【帰らずの森】へと向かった。



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