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049 偵察2

 


 我が拠点を構えている【帰らずの森】から【グラム峡谷】までは道なりに進めば(・・・・・・・)多くの時間を要する。進むルートによって多少は異なるが、どう向かっても複数の、森や山を越えていかなければならないだろう。また、深い谷や切り立った崖があるルートもあるため、万が一そんなルートを選んでしまえば、更に時間がかかるのは想像に難くない。



 だが、空を移動できるなら話は別だ。



 空路なら森や山といった物理的な障害を完全に無視して進める上に、魔物に遭遇することも格段に少なくなる。



 と、いうわけで我とティターニアは陸路ではなく、空路によって【グラム峡谷】を目指すことにした。妖精であるティターニアはもちろんのことながら、我もまた【飛翔】のスキルがあるため、飛行能力を有している。【飛翔】は誠に便利なスキルだ。今後も重宝することになるだろう。



 ……あっ。今思ったんだがレアハ以外はみな、空を飛べるんだな。今まで気にしたことがなかったが。今度全員で移動することになったら、レアハだけ陸路、とかになるかもしれん。



 レアハが陸路で森を越え、山を越え、魔物と戦い苦労している中、我たちは悠々と空の旅か。……いや、それは流石に酷というものか。……レアハがいる時は陸路で行ってやるとしよう。



 それはそうと、ティターニアは大丈夫だろうか? かなりの速度で飛んでいるのだが……。一応、聞いておくとしよう。



「ティターニア、問題ないか? もし、速度が速過ぎるなら言うといい」



「大丈夫です! お気遣い、ありがとう御座います!」



 我の質問に、ティターニアは少しの疲れをその顔に滲ませながら答えた。



 空路は陸路と違って障害物がないため、いくらでも飛ばすことが可能だ。よって、つい速く飛んでしまう。



 ……少し速度を落とそう。まぁ、そこまで急ぐ必要はないからな。



 だが、少し早く着いておきたいという気持ちがあるのは事実だ。



 というのも戦場となる場所は【グラム峡谷】で間違い無いと思われるのだが、具体的な場所までは分からないのだ。【グラム峡谷】は世界最大の峡谷地帯であり、その範囲は広大となっているため、戦場となる場所を一から探すのは骨が折れるだろう。



 おそらく、戦場となる場所の近くには王国軍が陣地を作っているので、まずはそれを探すのが確実だろうか?



 現在の時間は夜半過ぎ。王国軍の陣地では、松明などで火を焚いていることだろう。もし、そうであるなら割と早く見つかるかもしれない。



 我は【暗視】のスキルを持っているので周囲が暗くてもよく見えるが、それはあくまで、昼間と同じように見えるだけに過ぎないのだ。夜の暗い世界の中で火を焚いているのなら、発見もしやすくなるというものである。



 さて、そんな我たちの現在の状況だが、今いる場所は【帰らずの森】の拠点を出てから、およそ一時間ほどが経過した地点だ。すでに道程の半分ほどまでは来ていると思われる。



 というのも、眼下にこそ真っ暗な森が広がっているが、前方には峡谷地帯と思しき地形が見て取れるからだ。おそらくそこが【グラム峡谷】なのだろう。このくらいの距離感なら、時間にして一時間も経たないくらいで到着できるのではないだろうか? どうだ【知恵神ソピアー】?



 《はい。前方に見えるのが【グラム峡谷】で間違いありません。そして、この速度で進めば、マスターが言うように一時間弱ほどで到着できるかと思います》



 そうか。それは上々。



「ティターニア。あと一時間ほどで到着する。あと少し頑張ってくれ」



「はい! 承知いたしました!」



 そして、我とティターニアは前方に見える【グラム峡谷】を目指して、残り半分以下となった道程を進むのであった。



 ♦︎♦︎♦︎



 ここが【グラム峡谷】か。……なんというか、よくこんな場所に国を作ったものだな、魔王ゼノフィリウスは。我なら絶対にお断りだな。



 ここ——【グラム峡谷】が見えた地点から空を飛ぶこと約一時間。



 我の目の前には見渡すばかりの赤茶色の岩場が広がっている。むしろ、それしかないと言えるだろう。緑成分などはほとんど皆無である。【知恵神ソピアー】が言うことには、魔王ゼノフィリウスが作った国——【死霊国デルタリウム】はそんな場所の西域某所にあるらしい。が、このような場所に国を作るあたり、魔王ゼノフィリウスはよっぽどの捻くれ者であるようだ。少なくとも我はこんな場所に住みたくはない。



「……何にもありませんね。私たち妖精が住むには適さない土地ですし、住みたくはないですね」



「確かに妖精が住むのは適さないだろうな」



「はい。木々が全くありませんので……」



 妖精たちは固有スキルで【草木操作】というものを持っている。だが、こんな何もない場所では、そのスキルは全く効力を及ぼさない。妖精の戦闘能力、及び防御能力が大幅に落ちることになるのは自明の理というものだ。



 また、妖精たちは森とともに生きてきた種族でもある。故に、こんな場所では住むに住めないだろう。



 さて、それでは王国軍の陣地を探すとしようか。あるとすれば、【イプシロンザ王国】がある東域だろうから……ここからだと左方向だな。



「ティターニア。王国軍の陣地を探すぞ」



「はい!」



 そして、我とティターニアは王国軍の陣地探索へと向かった。



 ♦︎♦︎♦︎



 うん? 前方が明るくなっているな。ということは、あそこが王国軍の陣地か。



 峡谷地帯の東域を隈なく探すこと一時間。我は王国軍の陣地を見つけることができた。



 陣地に松明が焚かれてあったのは僥倖であった。まぁ、何かしらの方法で明るくしているだろうとは思っていたが……。もし、それがなければ陣地を探し当てるのは、かなり骨が折れただろう。余計な苦労をせず何よりである。



 我とティターニアは王国軍の陣地上空へと向かう。眼下には、無数に立ち並ぶテントが見えた。それらのテントはおそらく、宿舎や武器庫、食堂などの機能を果たしているのだろう。言わば簡易的な”街”のようなものだ。



 現在、その陣地を出歩く人影は見当たらない。一つの巨大なテントから喧騒が聞こえてくることから、現在の時間は食事でも摂っているものと思われる。



 テントの数から想像するに、かなりの数の兵が動員されているらしい。つまり、それだけ多くの食料が必要になるということだ。我のように食事が不要なアンデッドであればその分戦費は大分浮くであろうし、身軽になる分、行軍も早くなるだろう。しかし、人間はそうもいかない。



 アンデッド以外の他の魔族イビルも、人間のように食事が必要ではあるが、魔族イビルは個体個体が強い。よって、戦争をするにしても人間より大分少ない兵で済むだろう。その分、戦費も時間も浮くというものだ。兵を動かせば金と時間がかかるからな。兵の数が多いなら尚更だ。



 その点で言えば、食事が必須で、能力が低い人間という生き物は、数だけは多いが、言ってしまえばそれだけだ。誠に難儀な生き物である。せめて食事が不要な存在ならまだマシだったがな。



 まぁ我にとってはそんなことはどうでも良いことか……。人間の事情など知ったことではない。



 ……うん? 一人だけテントから出ている者がいるな。この位置だと月明かりで、あの者の近くに影が差すかもしれんか。……もう移動しておくとしよう。魔族イビルは恐れられているらしいから見つかったら面倒だ。それに騒ぎが大きくなれば、潜んでいるかもしれない魔王ゼノフィリウスの手下に見つかるかもしれない。



「ティターニア。今日の目的はもう達した。あとは明日を待つのみだ。……とりあえず地面に降りるぞ」



「承知しました」



 我とティターニアは陣地上空から移動し、夜闇に染まる峡谷地帯へと降り立った。そして、身を隠すに適した場所を探す。すると、ちょうど良いところに身を隠せそうな岩場があったので、そこに腰を落ち着かせ、その場で翌日の朝を待つことにした。



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