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041 開戦!王国軍VS魔王軍

 


 ここ——【グラム峡谷】の中央付近にはポッカリと出来た平野部が存在している。その平野部はかなりの広さがあり、十万にも及ぶ軍隊ですら展開ができるだろう。真ん中には東西に広がる峡谷地帯を分けるかのように小川が流れ、それは峡谷地帯に住む動物や魔物たちの生命線となっている。しかし、今この時に至っては水を飲みにくる動物や魔物は皆無であった。



 なぜなら、その小川を挟んで【イプシロンザ王国】の軍である“王国軍”と、【死霊国デルタリウム】の軍である“魔王軍”が、西と東に分かれて対峙しているからだ。



 現在の時刻は朝七時五十五分。天気は快晴で、東の空には昇りかけの太陽が爛々と輝き、大地を、そして世界を照らしていた。吹く風は穏やかで草木をかすかに揺らしている。しかし、そんないい天気でありながら、【グラム峡谷】には一触即発のピリピリとした重い空気が蔓延していた。言わずもがな、それは戦争を目前に控えているからである。



 西に展開するのは【イプシロンザ王国】が動員した兵力——およそ15000。常駐兵力であった騎士6000に、有事の際だけ召集される準騎士が4000。国民から召集した民兵が5000という構成だ。



 6000の騎士は全員がBランク以上の実力を持ち、強い者だとAランク上位にも匹敵する力を持つ。準騎士は全員がCランク上位からBランク下位程度だ。民兵は強い者でもCランク程度、平均ならDランク下位といったところだろうか?



 そして、それに対峙するのが東に展開されている【死霊国デルタリウム】の兵力——およそ4000だが、そのほとんどが(・・・・・)死霊である。前方に展開されているのは動物型魔物の死霊——およそ3000。それぞれの実力はおよそBランク上位といったところだ。



 残り1000は人狼ワーウルフ蜥蜴人リザードマンといった魔族イビルの死霊混成部隊が後方に配置されていた。実力は全員がAランクからAランク上位だ。



 そして、魔王軍には三人ほど死霊ではない者も混ざっていた。彼らの種族は死の賢人(リッチ)。魔王ゼノフィリウス・アークロードから、軍隊の指揮を任されている。



 東と西。小川を挟んで東西に展開している両軍は睨み合い、開戦のきっかけを待っていた。



 そんな中、死の賢人(リッチ)の一人が手に持った魔道具に魔力を注ぎ始め、とある命令を下した。



「やれ」



 その一言を受けて、魔王軍は動き出した。まず、動物型魔物の死霊の1/3——およそ1000が一斉に走り出す。



 やがて、魔王軍は東西を分断する小川を越え、王国軍と衝突した。



 王国軍は、魔王軍が走り出した時から魔法と弓矢による遠距離攻撃を仕掛けていたが、それらはあまり効果がなかったようだ。無論、それで倒せた死霊もそれなりの数いるのだが、打撃を与えるような数ではなかった。元が高位の魔物——Bランク上位の魔物なので当たり前といえば当たり前の結果ではあるが……。



 魔王軍は王国軍前方に展開されていた騎士と衝突した。平均的な強さで言えば、魔王軍——動物型魔物の死霊——の方が多少上だが、王国軍にはそれを補って余りあるほどの数の利があった。



 魔王軍の死霊一体に対して騎士二人以上で対応していく。



 これにより、大きな損害無くして1000もの第一波を退けることができた。まだ完全に倒しきれているわけではないが、倒しきるのも時間の問題だろう。



 王国軍の最高指揮官である騎士団長のアレックスは、司令室にて伝令兵からその状況を聞き、近くに控えている二人の伝令兵に指示を出す。



「南北に展開している部隊に、攻撃を開始するよう伝令を出せ。それと合わせて、敵一体につき二人以上で戦うことの徹底、深追い禁止を改めて伝えておくように。では頼むぞ」



「「承知いたしました!」」



 二人の伝令兵はアレックスの指示に従い、南と北に展開されている王国軍の別働隊に伝令に向かった。



「戦況は今のところはこちらに分があるか。だが、未だ死霊しかいない、か。魔王や幹部が出てこないのは何故だ? ……まさか別働隊か? ……いや、そんな報告はなかったな。それに魔王や幹部なら正面から挑んでくるか。……とすると、今はこの場にはいないのか?」



「どうしました? 団長?」



「……エレーナか。いや、魔王や幹部がいないのが気になってな」



「そうですね。今のところは私も死霊しか見ていません。報告にもそれしか上がっていませんし……」



「……まぁいないならいないで今のうちに敵を叩いた方が良いだろう。すでに一斉攻撃の通達は出しているから、十数分後には攻撃が始まる」



「分かりました」



 アレックスは考える。魔王や幹部が何を思い、どうしようとしているのかを。しかし、考えども考えども理由は分からなかった。



(このまま出てこないならそれに越したことはないが……いや! 俺は一体何を考えているんだ! それでは意味がないだろうが!)



 アレックスは魔王や幹部が出てこなければいいな、と思っている自分がいたことに内心で叱咤する。結局のところ、それはただの問題の先送りに過ぎないと気付いたからだ。



 魔王が王国に宣戦布告してきた以上、魔王には何かしらの目的があって王国の何かを欲している。ということは、王国を護るためには、いずれ魔王と対決する必要があるということだ。故に、先ほど魔王や幹部が出てこなければいい、と思ったのは問題の先送りに過ぎず、未来において全く意味がないことなのである。むしろ、兵達の気力がまだ残っている早い段階で決着をつけた方が良いと考える方が正しいだろう。



 そして、それから十五分ほど経過したのち、王国軍による三正面作戦が開始された。



「団長。攻撃が始まったようです」



「分かった。状況を逐一報告するように伝令を出せ。些事でも構わない」



「承知しました」



 この王国軍による三正面作戦展開以後、戦況は大きく変わっていく。



 時間を増すごとに、確実に魔王軍の数が減っていき、こちらが、より数で勝るようになっていった。現在では敵一体に対して三人以上で対応できるまでに数の利がある。このまま進めば(・・・・・・・)王国軍がじきに魔王軍の殲滅を完了できるだろう。しかし、三正面作戦が展開されてから三十分ほどが経った頃、その状況が一変し始める。それは——



「団長! 南に展開する指揮官からの伝令です! “敵軍に新手の部隊を確認。現在交戦中。至急応援を求められたし”とのことです!」



 三正面作戦を展開する際に南軍へと行かせていた伝令兵が司令室へと戻ってきた。なんでも魔王軍に新手の部隊が現れたようで、その報告のために戻ってきたようだ。



「新手だと? どんな奴らだ?」



魔族イビルと思しき死霊が中心となって構成された混成部隊とのことです!」



「チッ。厄介な。……魔族イビルの死霊だと精鋭騎士をぶつけるしかない、か。……南軍と北軍は撤退。のち本体と合流させろ。敵軍の新手部隊には騎士の精鋭達を差し向ける」



「精鋭達を?! よろしいのですか?!」



「構わん。本当に魔族イビルの死霊が相手なら普通の騎士では太刀打ちができないからな。精鋭騎士が抜けた穴は数で埋めろ」



「承知いたしました!」



 戦況は、時間を追うごとに目紛めまぐるしく変わっていくのであった。



 ♦︎♦︎♦︎



 視点は王国軍最後方のとある部隊に移る。



 最後方に配置されていたルーベンス所属の民兵中心の部隊は未だに戦闘行為をしていなかった。思っていたよりも魔王軍の数が少なく、彼らよりも前方に展開されている部隊だけで十分対処ができていたからだ。しかし、現在。その状況には陰りが見え始めていた。



 三方から同時攻撃を仕掛けて三十分ほどは、まだ王国軍が優勢であった。だが、魔王軍のとある部隊の参戦以降は、徐々にではあるが、戦場が後方へと移動しつつある。これがこのまま続けば、いずれは後方に展開されている彼の部隊にも戦闘の必要性が出てくるだろう。



「諸君! 戦況はあまり芳しくない! よって諸君らにも戦ってもらうことになるかもしれん! そのことを心しておいてくれ!」



 前方に展開されている部隊からの伝令が、ルーベンスが所属している部隊にも届いた。その伝令を聞いた部隊長の騎士は戦況を知り、民兵たちに、戦闘をする心の準備をしておいてほしい、と呼びかける。



「おいおい! マジかよ?!」


 

「ヤベーな」



「やっぱ魔王軍だからなぁー」



「装備確認しとこう」



 反応は様々だが、落ち着いてその事実を受け止めている者の方が多いようだ。



「……やっぱ戦うことになるのか。……だが、落ち着いて全員で対処すれば多少の数ならなんとかなるはずだ」



 ルーベンスもまた、落ち着いてその事実を受け止めている者の一人であった。彼は不幸体質故に、今までの人生で数多くの修羅場を潜り抜けてきた。おそらく、潜り抜けてきた修羅場の数なら、今第一線で活躍している騎士たちにも引けを取らないだろう。



 そんな彼だからこそ冷静に考えることができたとも言える。



 彼がいる部隊には騎士が一人に準騎士が二人配属されている。そして、彼と同じ民兵が五十人。あまり、大きな戦力ではないが、Bランクの死霊二体までなら十分に対処できるだろう。それに彼がいる部隊は最後方に配置されている部隊だ。それ故に、交戦するにしても、それはあまり多くはならないだろうと予想を立てる。



「よし。大丈夫だ。十分対処できるはずだ」



 だが、彼のこの予想は後に大きく外れることになる。



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