003 ボスとの戦闘
先手はボスモンスターたちだった。
スケルトンメイジがカタカタカタカタと口を鳴らし始める。おそらくは魔法を詠唱しているのだろう。だが、所詮は骨だ。声帯はない。よって、ただカタカタと骨を鳴らしているようにしか見えない。それを少しだけ不憫だと思ってしまう我はおかしいのかもしれないな。
何はともあれ、その魔法を喰らうわけにはいかない。何故なら、スケルトンメイジが使おうとしているのは火魔法なのである。乾燥している我には効果抜群だ。すでに骨しかないが火葬はお断りである。
我はとりあえず敵陣の側面に回り込むことにした。まず狙うはスケルトンメイジだ。彼? 彼女? は危険だ。近距離戦闘中に後ろから攻撃されたら目も当てられない。
我がスケルトンメイジを倒そうと動き出したタイミングで魔法が放たれた。放たれたのは火魔法の【ファイアーボール】。その魔法はそんなに速いようには見えないが、あまり速く動けない我にとっては十分に驚異的な速さだ。
我は【ファイアーボール】をかろうじて避ける。我が避けたことで行き場を失った【ファイアーボール】は、そのまま部屋の壁に当たり、そして霧散した。
——ボフッ! シュー
スケルトンメイジは我に避けられたことが悔しいのか、カタカタと顎を鳴らして憤慨している……ように見える。まあ、一発避けられた程度で怒り出すなど底が知れるというものだ。
我は棍棒を握り直し、スケルトンメイジに駆け寄る。まぁ実際は早歩き程度だが……。
そして、スケルトンメイジに向かって棍棒を振り下ろした。だが、我の攻撃は横から出てきたスケルトンナイトの剣によって防がれてしまった。
やはり、前衛と後衛がいるというのは非常に厄介だ。前衛を倒さないと中々後衛に攻撃できそうにない。これは第一討伐目標をスケルトンナイトに変えるべきか?
我がそんなことを考えていると、今度はハイスケルトンが後ろから鞭のように腕をしならせながら振り下ろして攻撃してきた。
本来のハイスケルトンはそのように戦うのか。初めて知ったな。
我は自分の種族について少し理解しながら、その攻撃を身をよじってかわす。
我が避けたことでハイスケルトンの攻撃は空を切り、バランスを崩した。そして、そのままスケルトンナイトに覆いかぶさる形で地面に倒れた。
——ガンッ! ガシャン!
我は思う。こいつらアホだ、と。やはり知性というのは偉大だ。我は自らが知性を宿して生まれたことを天に感謝した。そして、棍棒を握り直し、スケルトンナイトの上に転がっているハイスケルトンの頭目掛けて振り下ろす。
——バキッ!
ハイスケルトンの頭は抵抗なく粉砕することができた。そして、スケルトンを倒した時と同じようにハイスケルトンはバラバラになった。
残るボスモンスターはあと二体。
我はそのままハイスケルトンの下にいるスケルトンナイトに棍棒を振り下ろそうとしたが、そのタイミングでなんとなく身の危険を察知したので、横に飛ぶ。
すると、案の定、スケルトンメイジの攻撃——【ファイアーボール】が今まで我がいた場所を直撃した。
やはり遠距離攻撃はいいな、としみじみ思う。我もゆくゆくは手に入れたいものである。今はまだ魔法を使えぬらしいので無理だがな。
スケルトンナイトは、我が後ろに飛んでスケルトンメイジの攻撃を避けた直後に起き上がった。そして、再び我に接近してくる。
彼? 彼女? は肉弾戦をご所望のようだ。まぁ、 スケルトンナイトなのだから当たり前だが……。だが、そうとなれば我も肉弾戦で挑もうじゃないか! まぁ今の我には肉弾戦しか戦闘手段がないがな!
スケルトンナイトが剣を振り下ろしてくる。我はそれを左手で受ける。剣は我の腕の骨を1/3ほど斬り裂いた地点で止まった。あまり斬れ味が良くないと踏んでいたのだが、多少上方修正した方が良さそうだ。
しかし、これは思惑通りにうまくいった。我は内心ニヤリと笑う。これぞ”肉を切らせて骨を断つ”作戦だ。いや、この場合は”骨を切らせて骨を断つ”が正しいかもしれんが……。
我は相手の剣を封じつつ、右手に持った棍棒でスケルトンナイトの左側頭部を殴打する。
——バキッ!
スケルトンナイトの左側頭部は陥没した。そしてスケルトンナイトはそのままバラバラになった。スケルトンナイトが身につけていた剣と鎧はカランカランと音を立てながら地に落ちる。
ふう。他愛もない。
我はすぐさまスケルトンメイジの方へと向き直る。スケルトンメイジはちょうど詠唱を行なっていた。相変わらずカタカタ言っている。少しうるさいな……。
我は詠唱を止めるために棍棒を投擲する。頭を狙った棍棒は、狙いを外れ肋骨部分へと直撃した。
——バキバキッ!
投擲した棍棒はスケルトンメイジの肋骨部分を破壊した。しかし、スケルトンメイジは未だ健在だ。だが、詠唱を止めることはできた。
我はそれをみると、スケルトンナイトが持っていた剣を拾い、スケルトンメイジへと接近する。スケルトンメイジは詠唱を止められたことを悔しがるように、タシタシと地面を踏みしめる形で地団駄を踏んでいた。
このスケルトンメイジがやけに感情表現豊かだと思うのは我の気のせいであろうか?
まぁ、何はともあれ、とりあえず攻撃だ。我は地団駄を踏むスケルトンメイジの頭目掛けて突きを放つ。
——バキッ!
我が放った突きはそのままスケルトンメイジの頭を貫き破壊した。そして、スケルトンメイジはバラバラの白骨死体……って元々死体みたいなものか。まぁ、とりあえずバラバラとなって絶命した。後に残ったのはボロボロのマントと杖、そしてただの骨だけである。
ふう。終わった。
我は文字通り粉骨砕身し、ボスモンスターとの初戦闘を勝利で飾ったのだった。