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034 水晶の洞窟3

 


 第十階層ボスモンスターのミスリルゴーレムを倒した日から一週間が経過した。



 コウガたちは今、【水晶の洞窟】の第四十九階層まで来ていた。この階層まで来ると、出現する魔物は最低でもBランク上位で、Sランクの魔物もチラホラと出現するようになった。迷宮ダンジョン挑戦当初の一週間前の彼らなら、Sランクの魔物と戦闘になれば、束になって掛かっても勝てなかっただろうが、レベルが大幅に上がった今なら多少苦戦しつつも倒すことができるようになっていた。無論、一対一ではないが……。



 何はともあれ、迷宮ダンジョンに挑戦した理由であるレベル上げについては概ね順調と言っていいだろう。



 もちろん、ここに来るまでは、それなりの苦難や困難には直面していた。特に第四十階層で戦ったクリスタートルはその最たる例だ。



 Aランク上位に分類されるクリスタートルは、その名の通りクリスタルのような甲羅と二本の牙を持った亀の魔物だ。かの魔物は、Aランクでありながら、Sランクの平均を遥かに超える高い防御力を有し、地魔法を巧みに操ることができる。



 ミスリルゴーレムの時のような弱点という弱点はなく、高い防御力を突破する方法を持っていなければ勝つことは難しいとされる。



 コウガたちは、クリスタートルに遭遇するや否や、剣や魔法で様々な攻撃を仕掛けたが、そのどれもが弾かれてしまった。



 最終的には数時間にも及んだ戦闘の末に、シュリとフィリアの魔法によって倒すことができたものの、満身創痍によりボス部屋で一日休むことになったことはまだ記憶に新しい。



 しかし、この戦闘では得るものもあった。それはクリスタートルにとどめを刺した魔法だ。クリスタートルにとどめを刺した魔法。それは一般に“合成魔法”と言われている魔法である。



 合成魔法とは、異なる属性の魔法を合成し、新たな効果を生み出したり、より大きな効果を及ぼしたりする魔法のことだ。リヒトが爆炎龍エクスプロードドラゴン戦で使用した【虚無の波動(ヴァニティーウエーブ)】がそれに該当する魔法の一つである。



 フィリアとシュリは合成魔法を、すぐに成功させることができたわけではない。戦闘中に何回何十回と試行した結果、発動に成功したのだ。合成魔法とは、それほどに難易度が高く、発動すること自体が難しい魔法である。



 しかし、フィリアとシュリは自らが持つ魔法の才能故か、一度成功したことによって合成魔法のコツを掴み、それ以降は成功確率を大幅に上げている。今となっては三回に二回は成功するほどだろうか? だが、合成魔法は消費する魔力が多いため、あまり多用できる魔法ではないのがネックな点だ。



 ちなみに同じ属性の魔法を合成した場合は、“複合魔法”と呼ばれている。この魔法の場合は、単に同じ魔法を放つだけでいいので難易度は無いに等しい。しかし、及ぼす効果は強力なので、強敵を相手に複数人で戦う際にはよく使用されている。



 さて、話を戻そう。



 第四十九階層まで到達したコウガたちは今、Sランクに分類されている魔物——デーモンスパイダーに遭遇していた。



 デーモンスパイダーはSランク下位の実力を有している。鉄の強度を持つ糸を自在に操り、口に生えた牙や爪の毒は掠っただけでも麻痺効果を及ぼす。それに加え、口からは酸性の液体を吐くため、トリッキーな戦い方をする厄介な魔物として知られている。



「全員でかかるぞ!」



 コウガの呼び掛けに各々が答え、魔法を発動する。



「「【アースバインド】!」」



 フィリアとシュリの二人が地魔法の【アースバインド】でデーモンスパイダーの脚を拘束する。Sランクの魔物故に力が強く、長い間拘束できるわけではないが、今回に至っては少し動きを止めるだけで十分であった。なぜなら——



『【フレイムピラー】!』



 拘束されたデーモンスパイダーの体をすぐに高温の火柱が覆い尽くした。コウガ、ガハク、キサキ、ギンガの四人が放った魔法は合成され、複合魔法となってデーモンスパイダーを襲っていた。より強力に——高温になった【フレイムピラー】はデーモンスパイダーの身を焼いていく。



 ——ギシャァァァーッ!



 デーモンスパイダーは断末魔の悲鳴を上げながら、一分経つ頃には絶命した。周囲には焦げ臭い匂いと——



 ——蟹が焼けたような良い匂いが漂っていた。



「何だ? この美味そうな匂いは? ……もしかしてこの蜘蛛?って食えんのか? ……ちょっと食ってみようかな」



「わ、私は要りません」



「私も遠慮しておきます」



「そうか? 美味そうだけど。少し食ってみればいいじゃないか」



「「絶対嫌です!」」



 コウガの提案にフィリアとシュリは断固拒否するのであった。確かに見た目は巨大な蜘蛛そのものなので、その見た目からして受け付けない者は多くいるだろう。この世界——【ユグドラシル】においても蜘蛛は嫌われ者の種族なのである。



「これは美味いな」



「そうじゃな」



「うーん、清酒が欲しくなりますねー」



 そんなコウガたちを尻目にギンガ、ガハク、キサキは蜘蛛の足を一本切り落とし味見をしていた。



「あっ! お前らだけズルいぞ」



「おい、お主ら。妾にもそれを寄越すのじゃ」



 そして、そこにコウガとレアハも加わり、デーモンスパイダーの試食会が開催された。二名ほど離れたところから、試食会を冷たい眼差しで見ている者がいたが、彼らがそれを気にすることはなかったという……。



 ♦︎♦︎♦︎



 ——【水晶の洞窟】第五十階層内ボス部屋前広場。



 デーモンスパイダー試食会を終えたコウガたちは階段を降りて第五十階層に到達した後、ボス部屋前の広場までやってきていた。



 彼らがいる第五十階層。つまりは、ボス階層だ。故に最奥にはボスモンスターが侵入者を今か、今かと待ち構えている。しかし、そこにいるのは、ただのボスモンスターではない。



 世界【ユグドラシル】にある迷宮ダンジョンは基本的には第五十階層までとなっている。ということは、次に当たるボスモンスターはいわゆる“迷宮ダンジョンボス”ということになるのだ。迷宮ダンジョンボスは基本的に今までの魔物とは一線を画す強さを誇る。故に、彼らは慎重にフォーメーションを練りながら、消費していた魔力の回復に努めていた。



 そして、全員の魔力が回復し、今できるだけの万全な状態を整えたコウガたちはボス部屋の扉を押し開けるのだった。



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