033 水晶の洞窟2
——【水晶の洞窟】第十階層。
コウガたちが迷宮——【水晶の洞窟】に入ってから約三時間が経過した。彼らは今、レベル上げを行いつつも順調に迷宮を攻略していた。
そして、やってきたのが初のボス部屋である第十階層。そこでコウガたちはとある魔物と戦っていた。
彼らが戦っている魔物の名はミスリルゴーレム。Bランクに分類されている魔物の一体だ。しかし、この魔物は同ランク帯の別の魔物と比べれば脅威度は限りなく低くなっている。同じBランクの魔物の平均的な脅威度を仮に“10”とするならば、ミスリルゴーレムの脅威度は“1”か、多めに見積もっても“2”ほどしかないだろう。
それは何故か?
というのも、そもそも“ランク”というものはあくまで攻撃力や防御力、持っているスキル、その他各種様々な能力を総合的に判断した結果から導き出される分類だ。しかし、基本的に能力というものはあまり上下するものではないので、それは概ね正しい評価に違いないわけであるが、一部例外もある。
例えばある一部に特化した能力を持っていたとしても、他の能力が劣っていれば必然的に魔物ランクは下がってしまうのである。
つまり、何が言いたいのかと言えば、たとえ特Sランクを一撃で葬るような攻撃力を持った魔物がいたとしても、その他の能力が低ければBランクやAランクに分類されることもあるということだ。
先の例は極端な例であり、そんな魔物が存在するわけではないが、似たような例外と称すべき魔物はいる。その例外がミスリルゴーレムだ。
ミスリルゴーレムは攻撃力自体は下手をすればCランク、いや一部のDランクの魔物にさえ劣るが、こと防御力という点において言えばSランクの竜種——といってもレベル1の竜種である——に匹敵する。故に脅威度は低いが設定されたランクは高くなっているのだ。
それだけ聞けば、Aランク以下の存在がミスリルゴーレムを倒す方法などほとんど無いように聞こえるだろうが、かの魔物には龍種と違って明確な倒し方というものが存在している。無論、全ての者がそれを実践できるわけではないが、コウガたちには十二分に実践可能な方法だ。
ミスリルゴーレムの倒し方。それは体が金属でできているが故の弱点を突くものだ。
「シュリ! 水魔法を準備しておいてくれ! 俺は火魔法を準備する!」
「分かりました!」
「ガハクはミスリルゴーレムの注意を引きつけておいてくれ!」
「了解じゃ!」
さて、突然だが超高温に熱せられた金属に冷たい水を大量に掛けるとどうなるかはご存知だろうか?
答えは——
「ガハク! もういいぞ! 退避しろ! 【深紅炎】!」
コウガの火魔法——【深紅炎】がミスリルゴーレムの全身を覆った。
火魔法に分類される【深紅炎】は効果範囲こそ狭いが、こと与ダメージという点で言えば非常に優秀な魔法だ。効果は単純で、超高温の火で敵を覆い焼き尽くすだけだ。人間種の間では、この魔法のあまりの強力さに禁呪指定にしている国もあるほどである。
しかし、ただでさえ強力な【深紅炎】は、コウガが放つと通常の人間種の魔法使いが使うものとは一線を画す威力と規模を誇る。通常は直径にして2mほどしかなく、ミスリルゴーレムを熱しきるほどの熱量もない。ミスリルの耐熱性が極めて高いためだ。
しかし、コウガが放った【深紅炎】は直径にして5mはあり、ミスリルゴーレムを溶かしきるまでの温度こそないが、体を真っ赤に熱すほどの威力を持っていた。
「今だ! シュリ!」
「はい! 【ウォーターキャノン】!」
シュリが水魔法——【ウォーターキャノン】を放った。放たれた【ウォーターキャノン】はミスリルゴーレムを直撃し、真っ赤に熱せられた体の温度を急激に下げていく。
——ピキッ。ピキキッ!
すると、ミスリルゴーレムの全身に大小様々なヒビが入り始め、ポロポロと体の一部が壊れ始めた。
「ガハク!」
「了解じゃ!」
コウガの呼びかけに反応したガハクはミスリルゴーレムに剣を振り下ろす。
——バキンッ!ドズゥゥゥーン!!!
ミスリルゴーレムはガハクの一撃を受け、脆くも崩れ去った。後にはバラバラになった元ミスリルゴーレムの残骸が散らばるのみだ。
「これで初のボス戦クリアだな。……次のボス戦はキサキ、ギンガ、フィリアな」
「了解しました」
「分かりました!」
「了解した」
コウガたちはボス戦に際して、六人で戦うのではなく、三人ずつに分かれて戦うことにしていた。というのも思っていた以上に彼らは強くなっていたため、第十階層に来るまでの敵では全く戦闘にならなかったからだ。そのため、通常の魔物より強いボスは分かれて戦うことにしたのだ。
「じゃあ、次の階層行くぞ」
そして、コウガたちはボス部屋を後にして、次階層へと続く階段を降りていった。
「はぁー早く寝たいのう。というかこれ妾いらなくないか? ……リヒトのヤツめ。全く。帰ったら文句でも言ってやろうかのう」
レアハはブツブツ文句を言いながら、同じく階段を降りていく。そして、帰ったら一言二言リヒトに文句を言ってやろうと固く心に決意するのであった。