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032 水晶の洞窟1

 


 時は、リヒトが仲間探しのため【ダーインスレイヴ大森林】に向かって街道を疾走している頃まで遡る。



 フィリアとレアハ、そしてコウガたち天狗テング一行は迷宮ダンジョン【水晶の洞窟】を目指していた。



 彼らが目指す迷宮ダンジョン——【水晶の洞窟】は、リヒトのスキル【知恵神ソピアー】からの情報によると、レベル上げには最適な場所らしい。なんでも、出てくる魔物は深層に潜らずともCランク以上であり、浅い層でもBランク上位の魔物が出てくるそうだ。それに加え、この迷宮ダンジョンはただでさえ危険地帯にある上、難易度にそぐわず実入りが少ないので人があまり来ないらしく、思う存分狩れるとのことだ。



 ちなみに、現在彼らがいる場所。そこは山人族ドワーフたちの国——【ガンマイル評議国】と【ルベータ王国】の間に広がる山脈地帯だ。



 この山脈はワイバーン——“飛竜”とも呼ばれる魔物が多く生息しているため、【飛竜山脈】と呼ばれている。



 ワイバーンはAランクに分類されている魔物で、気性が荒く、縄張りに近づく者がいれば問答無用で襲いかかる危険な魔物だ。また、ワイバーンの怖さはそれだけにとどまらない。単体でさえAランクの下位の実力があるにも拘らず、そのランク帯には珍しい群れを作る魔物なのだ。故に、ワイバーンの危険度という点でいえば、群れの規模によってはSランクの魔物に匹敵することもあるのだそうだ。



 そういった事情からワイバーンが多く住まう【飛竜山脈】は周辺国家で危険地帯として認知されている。



 フィリアと天狗テングたちは、そんな山中を武器を持ち警戒しながら歩いていた。レアハはその後ろを狼の姿でのんびり付いていっている。時折欠伸を噛み殺しているのはご愛嬌というものだ。



 そして、そんな風に歩く一行の前方に、突然五体ほどのワイバーンの群れが現れた。どうやら侵入者を感知したため攻撃を仕掛けに来たようだ。



「ワイバーンが出た! 打ち合わせ通りに頼むぜ!」



「はい!」



「分かりました!」



「了解じゃ」



「了解した!」



「了解」



「……クワァー。眠いのう」



 彼らはコウガの一言に、一人を除いて最大限の警戒をし、ワイバーンに備えだした。



 フィリアはSランクの、コウガたち——天狗テングはAランクの魔族イビルだ。それが六人もいるのだから、五体のワイバーンなら十分に戦えるだろう。



 しかし、フィリアにいたっては多少の不安を抱いていた。彼女は元はしがない村娘だ。故にワイバーンという魔物の恐ろしさ、そして強さについては噂で聞き及んでいた。



 ただの一般的な人族ヒューマンからすればワイバーンは出会ったら死を連想してしまうような魔物だ。そういった考えというのは当然フィリア自身も抱いていた。無論、今までワイバーンには出会ったことはなく、今回出会ったのが初めてではあるが、魔物ランクAに分類されているというその事実だけで、十分に恐ろしい対象だと認識していた。



 そして、コウガたち——天狗テングにとってもそれは同様だ。彼らの場合はワイバーンと同じAランクであり、十分に強敵には違いなかった。ワイバーン単体でなら、Aランクでも上位クラスの天狗テングが負けることはまずないが、ワイバーンは群れで生活する魔物だ。過去には群れで集落を襲われたことがあり、そうして伝え聞いた話からワイバーンの恐ろしさについてはよく聞き及んでいた。



 やがて、五体のワイバーンが前方50mほどまで近づいてきた。



 コウガたちは、あらかじめ敵が現れたらどのように対処するかについて話し合っていた。まず、魔法が上手く扱えるシュリとフィリアが強力な魔法を打ち込み、ワイバーンを減らしつつ隙を作る。前衛が得意なコウガ、ガハク、キサキ、ギンガがその隙をついて攻撃を仕掛ける。おおよそはこうだ。



「シュリ! フィリア! 頼む!」



「「はい!」」



 コウガの呼びかけに応えたシュリとフィリアが魔法を放つ。



「「【流星メテオ】!」」



 放たれた魔法は【流星メテオ】。地魔法に分類されている。上空から巨大な岩石を落下させて攻撃するというシンプルな魔法だ。特性上、使い所を選ぶ魔法ではあるが、今回のような周りに何もない場所であれば極めて有用な魔法である。



 二人が放った【流星メテオ】はワイバーンの群れを襲い、二体を撃墜するに至った。また、倒せてこそいないが残りのワイバーンも怪我をしているようだ。



 そして、混乱の最中にあるワイバーンたちに急接近する影が四つ。言わずもがなコウガ、ガハク、キサキ、ギンガの四人だ。彼らは各々の得物で残ったワイバーンを掃討していく。



 そして、二分が経つ頃には全てのワイバーンを倒し終えた。



「もっとレベルを上げて強くならないとな」



 ワイバーンの死体を見ながらコウガがしみじみと述べる。彼の脳裏によぎるのは里を襲う死霊の群れと、逃げ惑う里の住民たちの姿だ。



「そうじゃのう」



 そんなコウガにガハクが言葉少なに返す。彼とてコウガと同じような気持ちを抱いているのだ。……いや、その気持ちを抱いているのは何もコウガとガハクだけではない。シュリやキサキ、そしてギンガもまた同様の気持ちを抱いていた。



 彼らはAランクの魔族イビル——天狗テングだ。故に、Aランクに分類される数百の死霊を相手に里を守りきるなんてことができたはずもない。それは個々人がよく理解していた。だが、理解はできても納得はできないものだ。もっとあの時、力を持っていれば。レベルを上げる努力をしていれば。そう思わずにはいられないのである。



 そしてもし、今後同じようなことが起きた際には守りきるだけの力がほしい。それが今、彼らが抱いている気持ちだ。



 また、コウガたちと同様にフィリアもまた、力をつけなければ、と思っていた。それは自らを救い、そして自らの“居場所”を作ってくれたリヒトに恩返しをしたいがためだ。今後、もしかしたら魔王と衝突するかもしれない。もし、そうなった時にはリヒトの役に立ちたい、とそう思っている。そして、そのためには“力”というものは必要不可欠だ。



 彼らは魔物を倒す。レベルを上げるために。そして、その先の目的を果たすだけの力を得んがために……。



 ♦︎♦︎♦︎



「ここか?」



 ワイバーンの群れを倒してから一時間。コウガたちの目の前には洞窟らしきものが岩肌に顔を覗かせていた。洞窟の入り口部には大小様々な青色水晶が所々に埋まっている。



「はい、おそらくは。リヒト様に伺った洞窟の見た目情報と同じですし」



 コウガの問いにフィリアが返した。



「よし! じゃあ行くか!」



 そして、一行は迷宮ダンジョン——【水晶の洞窟】へと進入していった。



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