028 ダーインスレイヴ大森林3
《まあ、妖精というのは総称であって種族名ではないのですけどね。この子はおそらく妖精の中でも“葉妖精”と呼ばれている種族でしょう。ただ、一人でいるのは不思議な話ですね。妖精というのは常に仲間と寄り添い助け合いながら生活している種族ですから。まあ、ただ一つ言えるのは【ダーインスレイヴ大森林】の何処かに集落があるのかもしれない、ということでしょうか。他所から来てこの場所にいると言うのも変な話ですし》
葉妖精か。もし、集落があるなら案内してもらって勧誘してみるのも良いかもしれんな。差し当たってとりあえず目の前の妖精を起こすとするか。一人でいる理由についても気になるところなのでな。
「おい、起きるのだ。おーい」
我は体をゆすりながら声を掛けてみた。
「う、う〜ん」
我が声を掛け続けていると、やがてゆっくりと目を開けて、ムクッと起きだした。そして……
「はっ! ここは?! 私はプレデタープラントに食べられたはずじゃ?!」
状況がうまく飲み込めないのか、周りをキョロキョロと見渡しながらアタフタと慌てだした。
「おっ。目覚めたようだな。お前はプレデタープラントに食べられておったから助けたのだ」
「?! わっ! 誰?! 気がつかなかった! ……コホンと。ということはあなたが助けてくれたんだ! ありがとう! もう私の魔生はここまでか〜って思ってたよ!」
「お前は運が良かったな。それで一つ聞きたいんだが……何でこんな場所に一人でいたのだ?」
「そ、それは……実は助けを呼びにいく途中だったんだよ。……その……当てはないんだけどさ」
「助け?」
「そう……ねぇ? 私たちを助けてくれないかな? プレデタープラントを無傷で倒せるなんて相当な実力者に違いないから」
葉妖精は先ほどまでの明るい陽気な印象とは打って変わって、悲壮感漂うような、それでいて悔しそうな、そんな表情をその顔に浮かべながら懇願するように告げてきた。
「……詳しく教えてくれるか?」
「うん……アレは昨日の正午頃だったかな」
そうして葉妖精は語りだした。昨日の出来事を……。
♦︎♦︎♦︎
——【ダーインスレイヴ大森林】“参の森”
その場所には葉妖精を主な住人とした妖精の集落がある。木の上にはミニマムサイズの家があちらこちらに建てられ、それぞれの木々は蔦で作られた吊り橋で繋がっている。
この集落——“妖精の里”は妖精女王——木妖精——を頂点として100近い妖精たちの住処となっている。里の中心部には魔力が濃いポイントがあり、その魔力を用いることで、強固な結界を張り、里を守る盾としていた。そうすることで周りに潜む魔物を戦うことなく退けていた。
そんな理由もあり妖精の里では、長きに渡る平和が享受されていた。そして、それは今日も今日とて変わらない。いつものように三つの班に別れて仕事をこなす。そして、空いた時間で自由に過ごす。妖精たちはそんな風に今日も楽しく平和に終えることになるだろうと、誰もがそう思っていた。ある時点までは……。
異変が現れたのは正午頃。突如として、妖精の里上空を複数の巨大な影が覆った。そして、その複数の巨大な影のリーダーらしき存在が里の上空から声を発した。
「ふむ。濃い魔力を感じるかと思えば魔力溜まりがあったのか」
現れたのは竜種、そして龍種だった。爆炎龍と呼ばれる龍種一体と、ファイアドレイクと呼ばれる竜種三体だ。爆炎龍は言葉を話していることから、長い時を生きている龍種であり、魔族に分類される個体であることが分かる。
妖精たちは突然の上位者の出現に呆けた顔をして空を見上げていた。
爆炎龍はそんな妖精たちを一瞥すると、再び口を開いた。
「ククク、ちょうどいい。我輩は新たな寝床を探しておったのだ。故にここはこれより我がものとする。貴様らは邪魔だ。死ぬがよい」
爆炎龍がそう告げると、直後には口の周囲に魔力が渦巻き始めた。ブレスを放つ兆候だ。
「?! 一段上の結界を張ります!!! 皆さん手伝ってください!!!」
『は、はい!!!』
妖精女王の必死な一言で我に返った妖精たちは常に張っている結界よりも更に強力な結界を張り直した。
その直後。爆炎龍、そして配下らしきファイアドレイク三体の口から赤色のブレスが放たれた。
放たれたブレスは妖精たちが張った結界に弾かれ、周囲の森を焼いていく。やがてブレスが止んだ頃には結界を張っていた部分を除き、半径にして100mほどの森が消え去っていた。
「も、森が……」
「クワァーハッハッハッ! やるではないか! では我らと貴様らの我慢比べといこうではないか!」
爆炎龍のそんな一言から始まった我慢比べは妖精たちの絶望をよそに、始まりのゴングが鳴らされた。
♦︎♦︎♦︎
「だけど、そのままだとジリ貧になるから、それで今日隙を見て助けを呼びに森を彷徨っていたってこと。まあ当てなんかはないんだけど……滅びを待つだけなんて嫌だもん」
葉妖精はポロポロと身に合わぬ大粒の涙を流しながら告げた。
なるほど、そんな事情が。……ふむ。助けてやるか。まあ、恩を売って仲間になってもらうという打算もあるがな。
「よかろう! 我がお前ら妖精を救ってやる! まあ、お前らにも協力はしてもらうがな!」
「?! ホントにいいの?!」
「うむ」
「ありがとう!」
では、早速。妖精の里に向かうとしようか。我は葉妖精の案内で里の方へと足を進めた。