027 ダーインスレイヴ大森林2
むっ。ゴブリン四体か。
森へと足を踏み入れた我は早々、魔物に遭遇していた。我が現在いる“壱の森”は下級魔物が住む場所で、冒険者初心者がよく利用する場所だ。そんな場所に足を踏み入れた我が遭遇した魔物は雑魚の代名詞ゴブリン。“一体いたら三十体はいる”と巷では有名な魔物だ。繁殖力が非常に高く、人間種の女性を攫っては犯して孕ませることから忌嫌われている。その嫌われようといったら凄まじいようで、“ゴブリンのような顔”という言葉は最大の侮辱の言葉として使われているそうだ。
そんなゴブリンが分類されるランクはE。見た感じは棍棒などの粗末な武器を持った十歳前後の子供ほどの背、肌は緑色で髪はなく、眼は通常の“魔の者”——魔物と魔族——の例に漏れず赤、顔には深いシワが刻まれており、口には小さな牙が生えている魔物だ。
武器を持った大人が一対一で戦うならば、まず負けることはないと言われるほどに弱い魔物であるが、ゴブリンは大抵、同族で徒党を組み集団で行動しているため、その分危険度は高くなっている。そして、数が集まると、その数に応じた上位種が現れ始め、長い時を置かずして最上位種のゴブリンキングが登場するため、人間種の間では、ゴブリンは見つけ次第討伐することが暗黙の了解となっている。
ゴブリンとは、まあそんな魔物らしい。
ちなみに、これらの情報は“魔物鑑定”と【知恵神】の補足説明によるものだ。真に優秀なスキルである。
《ありがとうございます♪》
はいはい。……では早速戦うとしよう。
我は血剣を右手にゴブリン四体の集団に近づいていく。
——Gugyagyagya!!!
——Gugya?!
——Gugyagya?
——Gugyagyagya!
ゴブリン四体も接近する我に気づいたようだ。それぞれが手に持った棍棒を我に向けてくる。
我は接近し、血剣を横薙ぎに振るう。すると、ゴブリンたちの体は地に崩れ落ちた。棍棒もろとも真っ二つである。
というか、今更たかがゴブリン程度では相手にならない。我と一戦構えたくば、最低でも大隊規模——六百人ほど——を用意するのだな。それほどいれば多少は楽しめそうだ。
《やはりマスターは戦闘狂ですね〜》
うるさいぞ。例えばの話だ。例えばの話。
我は血剣を勢いよく振るって血を飛ばした後、再び森の奥地へと進んでいった。
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魔物を倒しながら“壱の森”を歩き続けること約二時間。ようやく周りの植生や出現する魔物が変わってきた。おそらく“弐の森”の範囲内に入ったのだろう。とはいっても、我が仲間にしたいと思う存在はいないし、戦闘の相手になるようなのも依然として出会っていない。やはり、もう少し奥——“参の森”に行かなければ強いのは出ないのだろう。
今仲間にしたい魔物は即戦力となりそうなAランク以上の魔族が好ましい。まあ、“弐の森”でそれを期待するのは酷というものかもしれないが。
そんなことを考えつつ、“弐の森”に入ってから100mほど進んだ場所にて、とある魔物に遭遇した。
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種族:プレデタープラント
階級:A
▷デーモンプラントの上位種。木の蔦による攻撃を行う。冒険者界隈では“食人植物”とも呼ばれている。
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“魔物鑑定”をしてみると、プレデタープラントという種族であることが判明した。この魔物は強いには強いのだろうが、まあ仲間にはいらんな。そもそも意思疎通が出来ないしな。やはり、仲間にする以上、最低でも意思疎通が出来なければダメだろう。
というか何だ? 何かプレデタープラントの中に別の気配を感じるのだが……。倒してみれば分かるか。
近寄っていくと、プレデタープラントが我の存在に気付き、複数の木の蔦で攻撃してきた。一発一発が中々の攻撃力を秘めていそうだ。現に、蔦が当たった木は粉々になっている。
我は両手に血剣を持ち、火魔法を纏わせる。相手は木なので、効果は抜群だ。我は向かってくる木の蔦を次々に斬りふせる。木の蔦は周囲に焦げ臭い匂いを漂わせながら燃え上がった。
プレデタープラントは燃え上がった蔦を切り離すと新たな蔦を生やし、再び攻撃してきた。どうやら蔦は無限に再生するようだ。
我は火の魔法剣を振るい、蔦を斬り裂きながらプレデタープラントに肉薄し、首? 部分を切断する。
——ドズゥゥゥーン!!!
地面を揺らしながら首? が落ちた。
相手は植物なので生命力がありそうだ。ということで我は一先ず距離を取り、一応警戒してみるが、起き上がる気配は全くない。気配も最早感じられない。どうやら問題なく倒せたようだ。植物型の魔物とて弱点というか、急所は特に変わらないようだ。
さて、では早速感じた気配について調べてみるとするか。
我はプレデタープラントに近寄り、腹を血剣で掻っ捌く。すると、消化液と思しき液体にまみれた何かがヌルリと這い出てきた。よく見てみれば、中から出てきたのは人型の物体であった。とりあえず水をぶっ掛けてヌメヌメした消化液を洗い流す。
すると、姿を現したのは可愛らしい容貌をした30cmというミニマムサイズの人間種のような見た目をした者だった。背には羽を生やし、腰まで届く長い髪を三つ編みに纏めている。胸が上下に動いているのが見てとれるので、どうやらまだ生きてはいるようだ。とりあえず、回復魔法を掛けてみる。というか、何であろうか? このちっこいのは?
《この小さい女の子は“森の守護者”と謳われている種族ですね。分類としては魔族に分類されています。種族名は“妖精”といいます》




