025 方針
魔王の一人ゼノフィリウス・アークロードが治める国——【死霊国デルタリウム】は大峡谷地帯に造られた都市国家だ。そのため資源が豊富とは言えず、通常であれば、主に食料関係で住むことは難しい。しかし、方法がないわけではない。一つの方法は他国との貿易で食料を輸入すること。そして、もう一つは住む者が生きていなければいいのだ。
ゼノフィリウスは混沌の大賢人と呼ばれる種族である。その種族の系統はとある魔法が扱える。その名も“死霊魔法”。死霊魔法とは魂を、死者に定着させ、その者を操ることができる魔法だ。この魔法によって操られた者たちは、魔法の使用者には絶対服従となり、食事や睡眠が不要になる。こうした者たちは“死霊”と呼ばれている。
そして【死霊国デルタリウム】が“死霊国”と呼ばれているわけはそこに起因している。というのも国民のおよそ2/3が死霊なのである。そのため、“死霊国”と呼ばれるようになった。残りの1/3の国民は死霊と同じく食事や睡眠が不要なアンデッド系が暮らしている。
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天狗という新たな仲間を獲得した我は拠点の城へと戻っていた。我は、留守番していたフィリアに天狗——コウガたち五人を紹介した後、全員で会議室へと向かった。
それは今後の方針を決定するためである。というのも、最終的に魔王と事を構えることは決まっているのだが、それまでどうするのか、ということについては未だ決めていなかったからだ。
そこで会議室に到着するや否や、早速、今後の方針を決めるための判断材料とするべく、コウガたちに魔王ゼノフィリウス・アークロードについて聞いてみたのだが——
「魔王ゼノフィリウス・アークロードについては、俺たちはあまり知らないんです。俺たち天狗はしばらく俗世と接触することがありませんでしたから」
と言われてしまった。初っ端で暗礁へと乗り上げた……。
「ですが、ゼノフィリウスは今から三週間後。自らが治める国【死霊国デルタリウム】の隣国【イプシロンザ王国】に戦争を仕掛けるつもりのようです。ただ、俺たちに声をかけたのは、そのためではないような言い方はしていましたけどね」
戦争? 何故わざわざ人間の国に戦争を仕掛ける必要があるのだ? ……死霊魔法を使って兵力を増強するためか? それとも領土を拡張するためか? ……いや、それを考えても詮無きことか。今はそれよりも我らが今後どう動くかが問題だったな。
まず早急にすべきことはいくつかある。コウガ、シュリ、ガハク、キサキ、ギンガ、そしてフィリアのレベル上げ。そして、仲間集め。この二つだ。さすがにこの人数で魔王と事を構えるのは無理だろうからな。
……ふむ。ならば、二つに分かれた方が良いか。我が仲間を集め、それ以外の者はレベル上げ。レアハは一応コウガたちについていてもらうか。
だが、魔王の情報が得られない以上、それ以外は何をすれば良いのか分からん。魔王の情報があれば、その対策なども立てられるのだが……。将来的には絶対に諜報部門は作っておくとしよう。
さて、皆にとりあえずの方針について話しておくとしようか。
「これからの方針だが、お前たち——フィリアも含めてだがレベル上げを行ってもらう。我はその間、新たな仲間を探そう。流石に、この人数で魔王と事を構えるのは難しいと思うのでな」
「妾はどうすればよいのかのう?」
「レアハは一応コウガたちに付いていてくれ」
「うむ! 了解したのじゃ」
「あと【死霊国デルタリウム】と【イプシロンザ王国】の戦争が始まったら情報収集のために偵察に行くからそのつもりでいてくれ。話は以上だ。何かあるか?」
誰も異議はないようだ。なら、方針はこれにて決定だな。
「では各自行動に移してくれ」
「「「「「はい!」」」」」
「分かりました!」
「了解したのじゃ!」
そうして会議が終わると、我たちは各自行動に移した。我を除く七人はレベル上げに最適な近場の迷宮へと向かい、残った我は城の防衛用に【上位アンデッド召喚】でAランクのアンデッドを二十体ほど出した後、仲間探しのために世界最大の森林——【ダーインスレイヴ大森林】へと向かった。
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リヒトが居を構える【帰らずの森】の城から見てずっと南に位置する地にある城。
その城のとある一室には二人の人物がいた。一人はローブを羽織った白髪の見た目優男。もう一人は燕尾服を着た黒髪の初老男性。
白髪の優男は椅子に座り、黒髪の初老男性は部屋の入り口付近に立っていた。そして、白髪の優男が口を開く。
「アリオスよ。計画の進捗状況はどうなっている?」
その質問にアリオスと呼ばれた白髪の初老男性が答えた。
「はっ。それが逃してしまった天狗の五人ですが消息を絶ったとの報告が入っています。ですが、他の二十七人の天狗は確保しています。無論、死体でですが……」
「それは上々。これで対空戦力も少ないながら手に入れることができたわけだ。消息を絶った五人は捨て置け。それよりも飛行能力を持った新たな配下候補は見つかったか?」
「いえ、現在鋭意調査中です」
「そうか。では引き続き探しておけ。【イプシロンザ王国】を落とし、例の目的を遂行するためには必要だからな」
「御意」
アリオスが部屋を出ていった。
「ククク。楽しみだよ。人間どもを殺し、彼の地を我がものとするその時が! そして、ゆくゆくは彼奴を討滅する足掛かりとしてやろうではないか!」
白髪の優男——魔王ゼノフィリウス・アークロードは自らの居城で高笑いをあげた。




