024 配下
『ッ?!』
天狗たちが一様に驚いた顔をしている。おそらく、我が名付けされた時と同じように“世界の声”が聞こえているのだろう。
……そういえば、我が名づけされた時にはスキル——お前が進化したが、名づけされるとスキルは進化するものなのか?
《いいえ。普通はしませんね。私の場合は、まぁ特殊な事情がありまして……》
なぜに言い淀む? どんな事情があるのだ?
《……それはまぁ追々と。今はまだ秘密です》
むう。そうか……。まぁいい。いずれ教えてくれるのだろう?
《……はい》
それならば構わん。時がきたら教えてくれ。
《はい。必ず》
我が【知恵神】とそんなやり取りをしていると、やがて天狗たちが落ち着いたようだ。
「なんか“声”が聞こえたんですが……」
「“世界の声”というヤツらしいぞ? お前たちは今まで聞いたことがなかったようだな」
「……はい。なんか不思議な感じでした。直接、耳に聞こえているわけではないのに聞こえてきて。話には聞いたことがありましたが、こんな感じなんですね」
それから、疲労していた天狗たちを少しの間、休憩させることにした。その休憩の間、何かを話していたようだったが……何を話していたのだろうか?
そして、幾らか休憩したあと、出発する前になって突然、コウガが——
「リヒト様。貴方の配下に俺たちを加えてくれませんか?」
と言ってきた。如何いう風の吹き回しだろうか? 無論、喜ばしいことではあるが……。
「急だな。別に決断するのは急がなくとも良いぞ? それに配下にならなくとも魔王戦では協力するしな」
「いえ、違うんです。リヒト様には危ないところを助けてもらった上、魔王への敵討ちにも協力してくれるとまで言ってくれました。これらの恩は簡単に返せるほど小さなものではありません。……いや、違いますね。俺たちはリヒト様、貴方の器の大きさに、強さに惚れました。どうか配下にしてくれませんか?」
「そういうことなら構わないが……それは総意か? 一人でも嫌なら無理に配下にならなくとも良いぞ?」
「リヒト様。私たちは貴方様に仕えたいと心から思っております。ですので何卒配下に加えていただきたく思います!」
シュリがそう告げた。そして、それに呼応するようにガハク、キサキ、ギンガも同じようなことを言ってきた。その真面目、且つ少し懇願するかのような表情から判断するに、どうやら本心でそう思っているようだ。そうであるなら、我も異論はない。有り難く配下に加わってもらうとしよう。
「そうか。なら、これからよろしく頼む」
「「「「「はい!」」」」」
こうして、天狗五人が我の配下となった。
うん? そういえばレアハが先ほどから静かな気が……って寝てる?! このタイミングで?! この状況で?!
……此奴。いつも寝ていると考えられても仕方がないことをしているとの自覚はあるのだろうか? ……いや、ないな。グースカピースカと寝おってからに。
とりあえず起こすか。ちょっとイラッときたので少々痛い目に遭ってもらおう。
我はレアハを起こすために、とある物を【無限収納】から取り出す。そして、それをレアハ目掛けて落とした。
——ガァァァン!カランカラン!
「いッ! 痛いのじゃぁぁぁー!!! 何事じゃ?!」
レアハにソレが直撃するや否や、飛び上がるようにして起きた。頭を押さえながら……。
我が取り出したのはタライ。【知恵神】の話では、寝てる相手を起こすにはぴったりの方法なんだとか。というか、そんな情報何処に載っているのだ?
「お主か?! リヒト?! 何をするのじゃ?!」
「起きぬから起こしてやろうと思っただけだ」
「確かに寝ておった妾も悪かったが! 悪かったがしかし! もっと起こし方というものがあるじゃろうがッ!」
「こんな場面で寝る奴が悪い」
「ぐぬぬ」
納得いっていない様子のレアハは放っておき、我は新たに配下にした天狗五人と共に我が拠点の城へと戻る帰路へと着いた。




