022 邂逅
レアハが仲間になって一ヶ月が経過した。その間、我は着々と森の開発に着手していた。
城を中心に放射状に伸びる石畳の街道を作り、何軒か家も建てていく。また、水源を引き、貯水池や水路、水汲み場なども作っていく。無論、【知恵神】に補助してもらいながら【創造神】を使ってだ。お陰でかなりの範囲を開発することができた。そして、一区切りついたのが昨日。これでやっと仲間集めに乗り出すことができそうだ。
ちなみにその間、他のメンバーもまた活動していた。
まず、フィリアだが、彼女は我が作った家具等の設置から、城の掃除、吸血鬼の能力の練習を行なっていた。
そしてレアハは……レアハは……一体何をしているのだ? そういえばここのところ姿を見ないんだが……。ちょうどフィリアがいるから聞いてみるとしよう。
「フィリア。レアハがどこ行ったか知ってるか?」
「レアハさんですか? そういえば最近——ここ四、五日ほど姿を見ませんね」
「フィリアも知らんのか……」
「お役に立てず申し訳有りません」
「いや、構わない。元はと言えば何も告げずにいなくなった彼奴が悪いのだからな」
というか本当にレアハはどこに行ったのだ? どこかで昼寝でもしてるのか? 確か長生きな種族は一度寝たら、起きたのは一週間後だったなんてこともあるらしいからな。
……ふむ。彼奴のことだ。それが一番可能性高そうだな。
「もしかしたら何処ぞの場所で寝ているのかもしれん。彼奴は寝てばかりいるからな。“彼奴=寝”というのが我の印象でもある」
「はあ。そうなんでしょうか?」
「うむ。間違いないと思うぞ。彼奴は何処ぞで寝ているに違いない」
「おい。お主は妾に対してどんな印象を持っておるのだ……。今一度お主とはきちんと話し合う必要性を感じたぞ。それにフィリアよ。騙されてはならんのじゃ。確かに妾は寝るのが好きじゃが常に寝ているわけではない」
突如背後から声が聞こえてきた。どうやらレアハが帰ってきたらしい。全く何処に行っていたのやら……。
「そうなのか? まあいい。そんなことよりもお前は何処に行っていたのだ?」
「先ほどの話は妾にとっては”そんなこと”では済まされない大事な話なのじゃが……。まあそれは後で良いか。……コホン。お主に朗報じゃ。この近くに”天狗”たちの集落があったぞ? 三日ほど前に見つけてのう。天狗は力ある種族じゃ。勧誘してみてはどうかの?」
レアハはどうやら仲間候補を探してくれていたらしい。後で謝っておかねばな。
話によれば他にも仲間候補を探していたらしいのだが、天狗以外にはめぼしい種族はいなかったとのことだ。
それにしても天狗か。【知恵神】どうなんだ?
《はい。よろしいかと。かの種族は義理堅いので一度仲間になれば決して裏切りませんし》
なるほど。それは僥倖。最初期に仲間にするにはピッタリな種族ではないか。それでは早速向かうとしよう。
「レアハ。案内してくれるか?」
「うむ。移動は妾の背に乗せてやっても良いぞ?」
「いや、大丈夫だ」
我は【変身(狼)】を発動させる。我の体が光に包まれ、数瞬後には黒い毛を持った狼へと変わった。
「お主はそんなことまでできたのか……。吸血鬼とは真に便利な種族じゃのう」
それから我たちは天狗の集落目指して出発した。ちなみにフィリアは留守番だ。
我たち二人は……いや今は二匹だな。我たち二匹は【帰らずの森】を抜け、山人族の《ドワーフ》の国を過ぎ、草原を越え、山を横目に通り過ぎ……って遠いな! おい! 何処まで行く気だ!
そしてさらに谷を越えた先にあった森へと入って暫く進んだところで天狗たちの集落付近に到着した。
「おい! レアハ! 全く近くではないではないか!」
「む? そうかのう? 妾たちにとっては近いじゃろう?」
「時間にすればな。だが、普通はこの距離を近くとは言わん!」
「む、そうか」
そして、我たちは天狗がいるという集落に向かった。向かったのだが……
「人っ子一人いないな」
「……そうじゃな。三日前は確かにいたんじゃが」
そう。誰一人としていなかったのだ。レアハの話では三十人くらいの天狗たちが生活していたはずなのだが、我たちの目の前にあったのは廃虚と化した集落だった。所々に目を向けてみれば、血の跡は見受けられるが死体はなかった。
レアハが集落を確認した三日前から今日我たちが来るまでの間に魔物にでも襲われて移動したのだろうか? それなら一応、一通りの説明はつく。死体がないのも、仲間を葬ったため。集落を捨てたのはより安全な場所に移動するため。そう考えれば、とりあえずの説明はつくだろう。
だが、どんな理由で移動したかは知らんが、お陰で無駄足になってしまったな。まあ、いないものはいないのだ。致し方あるまい。
我は少し落胆しながらも、帰路につく。
「すまんのう。三日前に見つけた後、すぐに戻るべきじゃったな」
「いや、レアハは悪くないだろう。むしろよくやってくれた。天狗だって他にも集落を作っているだろうから気長に探すさ」
「そうか?」
我たちは相変わらずの狼の姿で森の中を疾走する。
そして、森の端に出ようかという所で喧騒が聞こえてきた。無論、こんな森の端の方に集落などあろうはずもない。とすれば、誰かが戦っているのであろう。
我とレアハはちょっとした好奇心から喧騒が聞こえる方へと歩を進めた。そして、そこで見たのは複数種類の動物系魔物と、それらと戦う背に翼を生やした種族——
——天狗であった。




