021 魔狼の事情
「そういえば我、お前のこと何も知らんのだが。せめて名くらいは教えてくれるか?」
「む? 言ってなかったかの? 妾の名はレアハ・ルーヴヴォルクじゃ」
「ふむ。レアハか。では、こちらも自己紹介をしておく。我の名はリヒト・アポステル。それでこっちの少女の名はフィリアだ」
「フィリアです。私はリヒト様の眷属です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼むのじゃ」
「それではレアハ。お前のことについて教えてくれるか? 我らのことについても教えよう」
「了解したのじゃ。では妾の今までの魔生について話すとするかのう」
そしてレアハは語り出した。自分の過去についてを——。
♦︎♦︎♦︎
魔狼という種族、いや、それに限らず魔物や魔族という種族は必ずしも最下位の種族から進化を重ねをているわけではない。例えば、吸血鬼ならリヒトのようにスケルトンから進化を重ねる者もいるし、生まれた時から下位吸血鬼であるものや吸血鬼である者もいる。
レアハの種族である魔狼は生まれながらにして完成された種族だ。故に進化することはないが、生まれながらにして強者である。
彼女はそんな魔狼の中でも優秀で幼少の頃から、ある程度の魔法を使いこなしていた。特に風魔法の理解が深く、それに至っては大人顔負けの練度を誇っていた。しかし、彼女は成長していくにつれ、ひどく退屈な日々を送ることになった。それは彼女の強さ故に、だ。
彼女には敵はいなかった。少なくとも周りには。無論、世界を探せば彼女よりも強い者はいる。しかし、態々探して戦おうとは思わなかった。
そしてある日。彼女は独り立ちするため、今までの土地を離れ、とある森に住み着いた。その森は気候が穏やかで過ごしやすく、何より食べ物が豊富にあった。
その森は過ごしやすかった。それは気候に限らず環境もであった。なぜなら、周りの魔物は戦わずして彼女の強さを恐れて手を出すことはなかったし、彼女の存在が彼らを他所の魔物から守るものともなっていた。それに加え彼女自身も食べる以外のことでは手を出すことはなかった故に、共生のような関係ができていたからだ。
しかし、そんな生活が長く続くことはなかった。その原因は冒険者という存在が現れたことだ。ある日、いつものように過ごしていると四人組の冒険者が彼女の住む森を訪れた。
その冒険者たちは強く、彼女が当時住んでいた森の奥地までやってきてしまった。冒険者たちは彼女をみるや否や攻撃を始めた。大方、自分たちの強さを過信し、魔狼でも倒せるだろうと高慢な考えを持ったのだろう。
しかし、彼女には敵わず命からがら逃げ出すこととなった。彼女自身、殺そうと思えば簡単に殺せる存在でしかなかったが、見逃すことにした。それが運の尽きだとも知らずに……。
それから一週間が経った頃から、彼女の前に冒険者が休みなく、毎日訪れるようになった。彼女は“前回見逃した結果がこれだ”ということを理解し、今度からは倒すようにしていたのだが、時はすでに遅かった。
♦︎♦︎♦︎
「ただそこに住んでいただけなのに、いきなりやってきて邪悪な魔族めッ! とか言って襲いかかってくるんじゃぞ?! 妾が何をしたと言うのじゃ! それで勝手に来て勝手に襲いかかってきて、其奴を倒したら今度は其奴の親友とか言う奴がやって来るし! これ妾悪いか?! いや! 絶対に悪くないのじゃ! 挙げ句の果てに、妾に関係ない魔物が倒した冒険者たちも妾のせいにされておるし! 巫山戯るのもいい加減にするのじゃぁぁぁ!」
「……おい、落ち着け」
「はっ。す、すまぬ。つい思い出してしまった。……まぁあれじゃ、そんなわけでこの森に越してきて奥地に暮らしておったのじゃ。妾は戦い自体は嫌いではないのだが、毎日毎日大して強くもない者共に襲撃されるのは御免被るからな」
「なるほど」
「で、この森に住み始めて百年ほどが経った頃の話じゃ。妾が森の奥地で寝ておったら急に体が風魔法に切り裂かれてのう。それで、文句言ってやろうと魔法が放たれたであろう場所に行ったらお主がいた、というわけじゃ」
「な、なるほど」
「それで? 何か言うべきことはないかのう? 静かに、そして健やかに、気持ちよぉぉぉく眠っておった妾を風魔法で傷つけて起こした件について。のう?」
此奴……根に持っておるな。まあ確かに、改めて言われてみると小指の爪の先ほどの責任はあるかもしれんな。初めて会った時に言った時の前言を撤回して、とりあえず謝っておくとしよう。
「我にも責任の一端はあるかもしれん。すまなかった」
「……責任の一端どころか全責任は己にあると思うが。まあよい。許そうではないか」
レアハは我を許すらしい。許されるような行いをした記憶はないのだがな。まあ、仕方がないから許されてやろうではないか。
《マスター。アレは誰がどう考えても100%、いえ、120%マスターが悪いと思いますよ》
我がスキルが何か言っているが知らん。
《無視しないでください!》
はいはい。悪うございました。
さて、今度は我とフィリアのことのついて話すかな。
そうして会議室での初会議? は互いのことについて知ることを題目に行われたのであった。