020 拠点
「それは拠点に一緒に住むということか?」
「そうじゃ」
「うーむ……まあよかろう」
そうして、魔狼が仲間? になった。
その後、我たちは拠点を置くに相応しそうな場所を探す。理想は近場に水があることだ。理由は【知恵神】がそう提案してきたからだ。なんでも、我のように食事が不要な存在というのは珍しいのだそうだ。将来、魔族を集め、村や町、そして国を作るのなら水場が必要とのこと。
そして決まった拠点の場所は、我の魔法によって開けてしまった森の一角であった。周囲には湧き水やそれが溜まってできた小さな池、そして岩場があった。理想を満たす黄金立地である。
「では拠点作りといこうか」
我はとあるスキルを発動させる。
スキルの名は【創造神】。我が元神の少女から貰い受けた神の名を冠する究極スキルだ。
この【創造神】というスキルの効果は非常にシンプルだ。材料を用意して、作りたいものを頭に思い浮かべる。あとは、スキルを発動させるだけで、どんなものだろうが、どんな大きさのものだろうが作ることができる。もし、このスキルを一言にまとめろと言われたなら、我は間違いなく“最高の物作りスキル”と答えるだろう。
今回、我が作るものは建物。我の拠点となる建物だ。材料は今までコツコツと【無限収納】に収納していた石や岩、そして木だ。
我は【無限収納】から石や岩を取り出す。ついでにスケルトンドレイクとスケルトンドラゴンの死体? を取り出して置く。建物自体に、ついでに魔法攻撃耐性を付与することを思いついたからだ。いつ、誰が来るかなんて分からんしな。防備は固めておいて損はない、ということだ。
そして我はスキルを発動した。
我が思い浮かべたのは城。【知恵神】にも補助してもらいながら想像をした自信作だ。城としての大きさは、そこまで大きなものではないが、まあ、そこは大して問題はないか。
ゆくゆくは、この城を拠点に仲間を集め、村を作り、そして街に成長させていきたいものだ。最終的には、国をも作っていきたいものである。否、絶対に国を作ってみせようではないか。魔王になるなら国を持たんと格好がつかんからな。
我が発動したスキルは取り出して置いておいた石や岩、スケルトンドレイク、スケルトンドラゴン、そして元から森にあった素材を巻き込みながら、ひとりでに動き出していく。
やがて、それは一つのものを形作っていった。黒色を中心として、所々に木があしらわれた小さいながらも荘厳な城だ。実はこの城、今は失われたとある城を参考に作られている。無論、それは【知恵神】の知識によるものだ。
参考にした城。その城の名を“シュタイン城”という。かの城は今から約千年前に世界に覇を唱えんとした魔王が拠点とした城だ。黒い石のみを使った荘厳な城で、当時、いや当世も含めて、この城以上の城はない……らしい。
「うむ。これはなかなかに良いではないか」
「これは……すごいですね」
「ほう? 凄い能力を持っておるではないか」
《ふふん♪当然です》
得意げな【知恵神】に苦笑いを浮かべつつ、我たちは城の中へと入っ……いや、その前に
「おい、魔狼。お前、人化はできんのか?」
「人化? できるぞ。ほいっと」
そんな声と同時に一瞬にして魔狼の体が光り始めた。そして、数瞬後。そこには白銀の髪を持った女がいた。
「どうじゃ?」
魔狼が嬉々として聞いてきた。どう? と言われても……。まあ、とりあえずその姿なら構わないか。
「うむ。その姿なら構わん。これからも城の中ではなるべく人の姿でいてくれ」
「……そういうことを聞いたわけではないんじゃがのう」
「?」
魔狼が何故か落胆しているようだが放っておくとしよう。
《……マスターは相変わらずマスターですね》
今【知恵神】にそこはかとなく馬鹿にされたような気がしたのだが……。まあよいわ。早速城の中に入るとしよう。
城の中に入ると、中もまた外観のそれに相応しい内装となっていた。
特に謁見の間は重厚さと、威厳を兼ね備えた佇まいであった。これなら魔王がいるに相応しい。と我は思う。
そうしてひとしきり謁見の間を確認した後、城のいたるところを見て回ることにした。
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「さて、こうして拠点が完成したわけだが、まず手始めに話さなければならんことがある」
我たちは現在会議室に移動していた。そこでとあることについて話す予定だ。これは我の将来に関わる重要なことである。
「なんじゃ? 改まって」
「……何でお前が平然と話を聞こうとしているのか知らんが、まあ良い。減るもんでもないからな。話というのは今後の方針についてだ」
「方針ですか?」
フィリアの発言に頷きながら返す。
「そうだ。我は最終的にはこの場所を中心に国を作ろうと思っている。無論、魔物や魔族の国だがな。それを実現するにあたり、我はまず仲間を集める予定だ。国を作ろうにも国民がいなければ作れるもんも作れんからな 」
「それは“魔王”になるということかの?」
「無論だ」
「ククク。お主はやはり面白い! よかろう! ならば妾はその道に手を貸そうではないか!」
こうして意図せず魔狼が正式に仲間となった。