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015 真実

 


「神だと?」



「そう……いや今は違う、か。正確に言うなら神だった(・・・)と言うべきかもしれないね」



「だった?」



「これはまぁ、僕の不徳の致すところだね。僕は異世界の神にこの世界を乗っ取られてしまったのさ。神の座を簒奪されて追放された。本当に情けない限りだよ」



「……取り返さないのか?」



「そうしたいのは山々なんだけどね。それはできないんだ。神というのは神界にいてこそ存分に力を発することができるのだけど、神界にいない神は、神の力の源である神力を回復できない。つまり、神界にいない僕には異世界の神には勝てないのさ」



「我を呼んだわけはそれか? 我に異世界の神を倒し世界を取り返してほしい、と?」



「……そんなことは言わないよ。君のことはただ僕が気に入ったから呼んだ。それだけだよ。さて! 君には僕からスキルをあげようと思う! いいかい?」



 話を逸らされた気がしないでもないが、スキルというのは気になる。しかも神からもらえるスキルだ。大事の前の小事。その点は流されてやるとするか。



「スキル?」



「そう。僕はとある有用なスキルを持っていてね。だけど、こんな場所じゃ使う機会もない。というわけで、そのスキルを君にあげよう」



「そういうことなら、ありがたく頂戴するとしよう」



「じゃあ、渡すね」



 少女は我の手を取り目を瞑る。すると、何かが我の中に流れ込んできた感覚を覚えた。



「はい、終わったよ。後で確認してみるといい。ついでに最上位種になった時のレベル上限も解放しておいたから永遠にレベル上げができるよ?」



 神から継いだ新スキルか……。これは非常に楽しみであるな。それにレベル上限の解放ね。これは良いものをくれたな。



 うん?なんか視線を感じる。



 顔を上げると、少女が何故か此方をジッと見ている。不思議に思った我が聞こうとしたタイミングで少女が口を開いた。



「なるほど。だからか……」



「何だ? どうしたのだ?」



「うん? あぁ、君さ。自分が強くなるのが異様に早いのに気づいてるかい?」



「そうなのか?」



「気づいてないなら君のスキルに聞いてみるといいよ」



 我のスキルを知っている?! ……いや、相手は神だ。当たり前かもしれんな。



 我は気を取り直して【大図書館ダンタリオン】に問う。



 “どうなのだ?”



 《解。通常、マスターのような早さで強くなることはありません。現在のマスターほどの力をEランクから進化を繰り返して自力で手に入れるには最短でも三年はかかるでしょう。仮にユニークモンスターだとしても二年はかかると思われます》



 なんと! そうだったのか! 新事実発覚である。だが、何故我の成長は早いのだろうか? まぁ、早いに越したことはないのだが……。



「僕はね、不思議だったんだ。君が強くなるのが異様に早かったのにはね。だけど、さっき君にスキルを渡した時に理由が分かったよ」



「……その理由とは何だ?」



「それは君の魂が異世界にあった魂だからだね。魂というのは世界を越えると強くなるんだ。たまに此方の世界に来る異世界人——例えば勇者が短い期間で強くなるのはそれが理由だね。で、君だ。本来、魂だけが此方の世界に来ることはないはずなんだけど、君はイレギュラーというヤツだったんだろう。まあ、そういうわけだよ。君が強いのは。特に魔物には進化があるから、普通の異世界人たちよりも最終的には強くなれる可能性を秘めているね。だから、これからも研鑽を積めば最強の存在を目指せるよ?」



 なんと! そんな事実があったとは……。まあ、実際どうでも良いが。我が興味あるのは専ら最強の存在であるな。



「さて、話は変わるけど、君には名を与えようと思う。無いと不便だろう? それに君クラスの名付けをできる者は中々いないしね」



「そうなのか? というか今まで名は気にしたことがなかったな……。だが、今後外の世界に出る以上必要なのであろうな。頼む」



「う〜ん、そうだね〜」



 少女はうんうんと唸りながら我の名を考え出した。良い名を期待するとしよう。そして、三分ほどが経った頃、少女が口を開いた。



「……“リヒト・アポステル”なんてどうだい?」



「リヒト・アポステル……か。ふむ。いいではないか。我はこれからリヒト・アポステルを名乗るとしよう」



 《吸血鬼公ヴァンパイアロードの名付けを確認。名を名無し(ネームレス)から“リヒト・アポステル”へと設定。また、条件を満たしたことによりユニークスキル【大図書館ダンタリオン】が究極スキル【知恵神ソピアー】へと進化します》



 “世界の声”が聞こえてきた。そして、どうやら【大図書館ダンタリオン】が進化するようだ。



 《マスター。改めまして。私は【知恵神ソピアー】です。今後ともよろしくお願いしますね》



 “なんか人間らしくなった、か?”



 《はい。私自身で考え、発言することが可能になりました。自我自体は前から微かにあったのですが、今回の進化に際して完全に自我を獲得するに至りました。出来ることは増えましたので、なんでも聞いてください》



 “それは助かる。これからよろしく頼む”



 《こちらこそ。また(・・)よろしくお願いします♪あっ、それと心の中で意識して会話しようとしなくても大丈夫になりました。ですので、心の中で思うだけでやり取りは可能です》



 そうなのか。それは便利だな。



 《恐縮です》



「良かったじゃないか。新しいスキル手に入れられて」



「ああ、礼を言う」

 


「ははは。気にしないでいいよ」



 ここで話は一区切りついた。ということで今度は我が気になったことを聞くとしよう。



「いくつか聞きたいことがある」



「なんだい?」



「まず、神だったと言っていたが、何故こんな場所にいるのだ?」



「あぁ、そのことね。単純な理由だよ。神の座を簒奪されて神界を追放されたわけだけど、今後異世界の神が僕を殺そうとするかもしれないだろ? だから、迷宮ダンジョンを作って身を隠したのさ。まさか神がアンデッド系統の迷宮ダンジョンにいるとは思わないでしょ?」



「なるほど。では、次の質問だ。異世界の神と言ったな? 其奴は何故この世界に来たのだ?」



「……さあね。それは分からないよ」



 少女は何を思ったか、一瞬その顔を怒りに歪めたが、すぐに元の顔に戻った。異世界の神のことで嫌なことでも思い出したのだろうか?



 だが、そんなことよりも目の前の少女は何か目的があって我を呼んだとしか思えない。そして、それはおそらく異世界の神が関係している。でなければ、自分のスキルを渡したり、無限に強くなれるようにしたり、名付けをしたりはしないだろう。一体何を隠しているのだろうか? そして我を呼んだ目的は何だ?



「……我に何をしてほしいのだ?」



「……何も。ただ好きに生きてくれればいい」



 だが、少女は我の質問には答えなかった。少女は続ける。



「でもすることがないなら最強の魔王とか目指してみたら? 折角ユニークモンスターとして生まれて、そこまで強くなったんだからさ」



 最強の魔王、ね。それが目的か? ……いや、なら態々先ほどまで隠していた意味はないか。



 まぁ、最強の魔王になるのは吝かではないな。折角、ユニークモンスターとして生まれたんだ。どうせなら魔王を、そしてその頂点を目指すのも悪くない。



 そして、少女はどうやら我を呼んだ目的については話す気がないようだ。それならば、致し方ない。いずれ分かるだろうし、そこまでして聞きたいわけではないからな。



 それからは暫し雑談をし、そして迷宮ダンジョンの外に出ることになった。



「色々世話になった」



「ううん。こちらこそ。久しぶりに誰かと話せて楽しかった。君の魔生に幸あらんことをここから祈っているよ」



 少女が指をパチンッと鳴らした。



 すると、この異次元空間に来た際に魔法陣が出現していた場所から再び魔法陣が出現した。我はその魔法陣の中央に立つ。直後。魔法陣から発せられた眩い光によって視界が包まれた。



「……頼んだよ」



 そして我は転移した。少女の最後の言葉は我の耳にはよく聞き取ることが出来なかった……。



 ♦︎♦︎♦︎



「……頼んだよ」



 リヒトが魔法陣で転移し、ここ——【亡者の峡谷】の異次元空間を去っていった。



 少女はリヒトがいた場所を見ていた。その目には少しの寂しさと、そして申し訳なさが浮かんでいる。



「ごめんね。君にはいくつか嘘をついた。君はこれから先、大変な事態に遭遇するだろう。でも僕は……君に託すしかないんだ。この迷宮ダンジョンを踏破した君にしか……。だからどうか、僕が愛する者たちを、そして僕が愛するこの世界を救ってほしい。頼んだよ、リヒト」



 少女のそんな独白は誰の耳にも届くことはなく、草原を撫でるように吹く風に攫われていった。



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