014 迷宮の少女
スケルトンドラゴンとの戦闘を終えた我は、スケルトンドラゴンを【無限収納】に収納した後、この先にある部屋に向かおうとして……そして足を止めた。
床から突如として魔法陣が出現し、二つの宝箱が現れたからだ。いつしかのボス戦後に見た【無限収納】のスキルロールが入っていた宝箱と全く同じヤツである。
我はひとつの宝箱に近寄り、蓋を上に押し開ける。
宝箱の中には一本の瓶が入っていた。その中には何らかの液体が入っているようだ。また、よく見てみれば瓶にラベルが貼ってあるのが分かる。
我は何と書いてあるのか気になり、ラベルを目に近づけた。
そして、ひとつ分かったことがある。それは液体の正体——
ではなく、液体の効能——
でもなく——
——うむ。全く読めん。
そうそれだ。我は字が全く、それはもう清々しいほどに読めなかったのだ。しかし、考えてみれば当たり前の話であった。だって我、文字の読み書きとかしたことがないし……。というか、生まれてこのかた戦闘しかしていないのだから、文字の読み書きができるわけがない。これは……そう、あれだ! 盲点というヤツだな!
仕方がないので【大図書館】を頼ることにする。ちなみに、【大図書館】とは視覚を共有しているので、我の目に見えるようにするだけで良かったりする。
“この瓶には何と書いてあるのだ?”
《解。この瓶には”エリクサー”と書いてあります》
“エリクサー? なんか強そうな名であるな。何だそれは?”
《解。エリクサーとは“万能妙薬”とも呼ばれているポーションの一種です。効能としては、部位欠損等を含むありとあらゆる傷や病気を治す他、死んでから十分以内であれば死者をも蘇らせることができます》
とんでもないブツではないか……。だが、これはいつか使う機会もあるだろう。後で【無限収納】に仕舞っておくことにしよう。
さて、先ほど発覚した文字の件は早急に何とかせねばなるまい。これからは迷宮の外に出る予定であるからな。う〜む、どうするか。……ここは困った時の【大図書館】だな。
“【大図書館】よ。早急に文字の読み書きが出来るようになりたいのだが……何か案はないか?”
《解。ございます》
“してその方法とは?”
《私とマスターを同期させることで瞬時に文字の読み書きが可能になります》
“それは凄いな。ではそうしてくれ''
《是。これよりマスターと同期します》
一分後。
《同期が完了しました。マスターはすでにこの世界——【ユグドラシル】に存在する言語は全て読み書きが可能です》
これは助かる。さて早速、先ほどの瓶を見てみよう。
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名称:エリクサー
効能1:傷(部位欠損を含む)の再生。
効能2:病気の完治。
効能3:死者の蘇生。ただし、死後十分以内に限る
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ほう。こんなことが書いてあったのか。というか、名称だけでなく、効能まで書いてくれているとは随分と良心設定だな。これを作った者が誰かは知らんが親切なヤツである。
そしてもうひとつの宝箱も同じようにして開ける。
もうひとつの宝箱には大きめの鍵が入っていた。何に使うかは分からないが、とりあえずエリクサーと一緒に【無限収納】に収納しておこう。
さて、用事も済んだことだ。次の部屋へと向かおう。おそらくそこに外に繋がる転移魔法陣が有るだろうからな。
我はボス部屋を後にして、次の部屋へと向かった。
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ここは【亡者の峡谷】に連なる異次元空間。
この空間は相変わらず、草原と太陽、青空、そしてガゼボしかなかった。
そのガゼボには、いつしかの人物が以前と同じように宙に浮く鏡を見ていた。その鏡に映るのはやはり、前はレッサーヴァンパイアだった現吸血鬼公だ。鏡の中では、その吸血鬼公がスケルトンドラゴンを倒した直後を映し出している。
「ふふっ。とうとうここまで来たね。こんな短期間で攻略してしまうなんて本当に称賛に値するよ。さて、転移魔法陣の転移先を少し弄っておかなくちゃ」
その人物はそう独りごちると、虚空から取り出した鉄製のプレートを弄りだした。
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ふむ。これが転移魔法陣か。かなり複雑な紋様をしておるな。それに仕組みが全く分からん。だが、そんなことは今はどうでもいい。差し当たっての問題がひとつ。それは——
“これはどうすれば発動出来るのだ?”
そういうことだ。我は全く転移魔法陣の使い方が分からなかった。そのため、【大図書館】に聞く。
《解。迷宮最深部にある転移魔法陣を発動する方法はひとつです。迷宮ボスを倒した後に出現する宝箱から手に入る鍵を使うことです》
“あの大きめの鍵か……どう使うのだ?”
《魔法陣の中央部に鍵を入れる穴があります。そこに差し込み捻ってください。それで魔法陣が発動します》
我は【大図書館】が話した通りに魔法陣中央部の鍵穴に鍵を入れて捻った。
すると、魔法陣が眩いばかりの光を放ちながら発動した。
そして、我は光に包まれた。
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此処はどこだ? 草原? 迷宮の外であるか?
辺りには地平線の果てまで続いている平坦な草原が広がっている。そして、目の前には場に似合わないどころか、異色感を放ちまくっている白いガゼボ。そして、ガゼボの椅子に座り此方を見る見知らぬ少女。
彼女は金髪碧眼の麗しい容姿をしているが、如何せん怪しすぎる。誰だこいつ? 状態である。そもそも転移した直後、目の前に見知らぬ誰かがいたら怪しむのは当然ではなかろうか?
「やあ。こんにちは。立っているのも何だし、まあ座って少し話でもしようじゃないか。なに、とって食おうという訳じゃないから、あまり警戒しないでほしいんだ。けどまあそれは仕方ないのかな?」
少女が和やかな声音で話しかけてきた。とりあえず敵対心は感じられない。我は警戒心は抱きつつも目の前の椅子に座ることにした。
「ありがとう。さて、いろいろ聞きたいことがあると思う。けれど、まずは僕の話を聞いてもらえるかい?」
「うむ。構わない。質問は後にとっておこう」
「助かるよ。では早速。まず君が一番聞きたいだろうことから話そうか」
我は黙して先を促す。
「僕はこの世界における“神”という存在だね」
目の前にいた少女はとんだ大物であった。




