010 VSスケルトンドレイク
——【亡者の峡谷】第五十階層。
我は現在、第五十階層まで来ていた。冒険者どもが到達していた第四十三階層を七階層更新した形だ。結局、冒険者と会うことはなかったが、我も中々に強くなったので、今なら出会っても問題ないだろう。
ここまで来るのに、魔物と何回も何十回も何百回も戦ってきたわけであるが、苦戦らしい苦戦はついぞしなかった。強いて言うなら一番手強かったのは第四十階層のボスモンスターであるスケルトンワイバーンだが、かの魔物も魔法剣で容易に葬ることができた。
まあ、そのような形で魔法剣は使っているのだが、放出系魔法は全く使っていない。
だが実際、魔法剣さえあれば問題はない。というか魔法剣が強すぎる。なんだろうが火魔法を纏えばバターのように斬れるし、氷魔法を纏えば魔物を氷像に変えてしまう。闇魔法を纏えばデバフ効果で相手を弱らせることができる。
有用すぎだろ魔法剣。ということで魔法剣はこれからも我の戦闘の主体に据えよう。
我は火の魔法剣を使いながら出てくる魔物を狩っていく。流石に第五十階層ともなれば、出て来る魔物は全てBランク以上と中々に危険な奴が出てきているらしい。もし、この中のAランクの魔物が一匹でも街に現れれば小さな街なら壊滅するレベルなのだそうだ。
だが、我の敵ではないな。だって、全員一撃だし。これは案外楽に迷宮が攻略できるんではないか? 油断は禁物だが、少しくらいなら調子に乗っても許されるだろう。我今まで頑張ってきたし。
そんなことを考えつつ、魔物を倒しながら進んでいくと、やがて第五十階層のボス部屋が見えてきた。
我はボス部屋の石扉を躊躇なく押し開けて中へと入った。
この時我はもう少し慎重にことを運ぶべきだったのかもしれない。具体的にはレベルをもう少し上げてからボス部屋に入るべきだった。我は後ほどそう振り返ることになるのだが、今はまだ知らぬ話であった……。
♦︎♦︎♦︎
我がボス部屋に入ると、すぐにボスモンスターが視界に飛び込んできた。
それを見た我が抱いた率直な感想は”デカイ”。
その一言に尽きる。
そのボスモンスターは、今まで遭遇した魔物で一番大きかったスケルトンワイバーンを優に凌ぐ大きさだった。具体的には全長20m、体高8mほどだ。
その魔物——【大図書館】曰く、スケルトンドレイクはSランクに分類される危険な魔物らしい。もし、街に現れたら大きめな街でも壊滅するレベルだし、小国が滅亡した記録も残っているのだそうだ。
スケルトンドレイクは我を睥睨し、ニヤリと笑った……ような気がした。
そして——
——Gugaaaaaa!!!!!!
大気を震わすかのような大きな声で咆哮すると、我に向かって突進してきた。
コレを喰らえばひとたまりもないな……。
というわけで避ける。いくらSランクの魔物と言えども【身体強化】を使った我よりは遅い。
突進攻撃は容易に避けることができた。しかし、我は忘れていた。スケルトンドレイクには尻尾があることを……
「ッ!」
我は尻尾の攻撃を受け、壁に叩きつけられた。
肺から空気が漏れ、背が少し痛む。だが、体はほとんど無傷だ。流石は【身体強化】。皮膚まで強化されている。
「……野郎」
しかし、身の無傷とは裏腹に我は苛立った。何がイラつくかと言えばスケルトンドレイクがまるで鼻で笑うかのように“フンスッ”などと言っているからだ。
我は剣を両手に持ち(主人公は最近双剣術を体得しました)、片方に火魔法を、片方に闇魔法を纏わせる。
そして、スケルトンドレイクに一気に駆け寄る。【身体強化】と相俟ってかなりの速度が出ているはずだ。今まで反応できた魔物はいない。
しかし——
——ガキィィィーン!!!!!!
スケルトンドレイクには反応できる速さだったようだ。我の剣を一番硬い尻尾で防いだ。
「チッ」
スケルトンドレイクは我の攻撃を防いだ後、前足を振り下ろす。
我はそれを避ける。
——ドゴォォォーン!!!!!!
スケルトンドレイクの攻撃により、頑丈にできているはずの迷宮の床が少し陥没した。
ヤバイな。あんなの食らったら一発でお陀仏かもしれん。あれは絶対に食らってはならん攻撃だな。
我はそう決断し、再びスケルトンドレイクに接近する。
まずはデバフ効果が付与された闇の魔法剣を当てなければ。しかし、やはりというか簡単には接近させてくれない。
スケルトンドレイクは身を振り回し、我を近づけさせまいとしている。
巨体を誇るスケルトンドレイクはその巨体は長所でもあり、短所でもある。長所としては一撃一撃の効果範囲が広いこと。逆に短所としては懐に入り込まれると対処しづらいこと。
スケルトンドレイクはそれを本能で理解しているのだろう。故に我を懐に入らせないようにしているのだと思われる。
しかし、我とてスケルトンドレイクの懐に入り込まなければ有効な一撃を加えることができない。火の魔法剣はもちろん、闇の魔法剣のデバフ効果も魂に近い場所、つまり胴体を斬りつけなければ強い効果が出ないからだ。それがスケルトンドレイクの巨体なら尚更だ。尻尾や手足を斬りつけてもほとんど意味はないだろう。
倒すなら何としてでも懐に入り込まねばなるまい。しかし、どうしたものか……。
我はスケルトンドレイクの攻撃を避けながら考える。
とりあえず手数を増やすか?……うむ。やってみるとしよう。我はとあるスキルを発動させる。
そのスキルが発動した途端、地面には20もの魔法陣が出現した。そして、その魔法陣からウィッチが召喚された。
我が発動したのは【中位アンデッド召喚】。遠方から魔法による攻撃を加えてもらい、隙を作ってもらおう、というわけだ。
ウィッチをボス部屋の入り口付近に集結させ、魔法を使わせる。その魔法が放たれるまではスケルトンドレイクにちょこちょこ攻撃を加えて、ヘイトを集める。
やがて、ウィッチの魔法が完成し、様々な魔法が放たれる。それらは、我が攻撃しながら、そして避けながら誘導してきたスケルトンドレイクに直撃した。
——ボウッ! バチャッ! シュンッ! ガンッ!
魔法がスケルトンドレイクを直撃したタイミングで、一瞬隙が生まれた。我はその隙を見逃さず、右手に持つ火の魔法剣と左手に持つ闇の魔法剣で斬りつける。
——ガギンッ!
「ッ! 硬ッ!」
しかし、我の火の魔法剣はスケルトンドレイクの硬い胸骨に阻まれ、胸骨の一本を半分ほど斬り裂くだけにとどまった。闇の魔法剣は表面を少し傷つけただけだった。
「……これは長期戦を覚悟する必要があるか?」
我は着地し、後退しながら思う。だが、いつまでも同じ場所でじっとしているわけにはいかない。すぐさま、動き出し追撃を狙う。長期戦となるなら闇の魔法剣によるデバフ効果が一番有効だろう。闇の魔法剣によるダメージは期待出来ないが、相手を弱らせた上で火の魔法剣で攻撃するなら勝機があるからだ。
我はそう判断し、右手に持つ火の魔法剣をやめ、代わりに闇を纏わせて闇の魔法剣に変えた。これで両手に闇の魔法剣だ。あとは只管、ただ実直に斬りつけるのみ。
そして、我とスケルトンドレイクの持久戦が始まった。
♦︎♦︎♦︎
我の火の魔法剣による一太刀がスケルトンドレイクの両足を斬り裂き、巨体が地面に倒れ臥す。
——ドスゥゥゥーン!!!!!!
ボス部屋の地を揺らしながら鈍い大きな音が響き渡った。我は再び接近し、胴から頭を斬り離した。
ふう。……ようやく、終わったか。
我は地面に転がるスケルトンドレイクを見ながら、しみじみと思う。そして、もう少しレベルを上げてから挑むべきだったか、と反省する。
最近、少し調子に乗っていたかもしれんな。今一度気を引き締めなければ……。
我はそんな決意を胸に今後は慎重に迷宮を攻略しようと決めた。