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009 魔法の才能

 


 ここは迷宮ダンジョン——【亡者の峡谷】に連なる異次元空間。



 その異次元空間には四つのものがある。



 一つ目は見渡すばかりの草原。地平線の果てまで続くその草原は、豊かで静かな風を受けてユラユラと左右に揺れている。



 二つ目は眩いばかりの太陽。燦々と振り注ぐ太陽の光は草原を照らし続けている。



 三つ目は青い空。雲ひとつない青空は一点の曇りもなく、草原との二色のコントラストが見る者の目を楽しませる。



 そして四つ目。それはこの場所にはおよそ似つかわしくない人工物だ。草原にポツンと置かれたそれは、この空間にあって凄まじく異彩を放っていた。



 草原にポツンと置かれているもの。それは小さなガゼボ——庭園などにある屋根付きの休憩所のようなもの——だ。石灰石の白を更に濃くしたかのような圧倒的な白を誇るそのガゼボは太陽の光を受けて輝いてみえる。



 そして、そんなガゼボにはとある人物が一人。



 その人物を一言で言い表すなら“人形”だろうか。金糸のような美しく長い金髪に、海の群青を閉じ込めたかのような碧色の瞳。そして、恐ろしいほどに整った顔の造形をもつその人物は、身に纏う雰囲気も相待あいまって、およそ人間の持つ容貌とはかけ離れていた。



 その人物は椅子に座りながら、ガゼボ中央のテーブル上にフワフワと浮かぶ鏡をじっと見つめている。時折何かを考えながら物憂げに鏡を見るその姿は非常に絵になっていた。



 その人物が見る鏡に映るもの。それは迷宮ダンジョン攻略に勤しむ一人の下位吸血鬼レッサーヴァンパイアだ。



「久しぶりの攻略挑戦者が、まさかこの迷宮ダンジョン生まれの魔物とはね。いや、彼は魔族イビルだったかな」



 その人物は、魔法剣を使いながら魔物を倒していく彼を見ながら独りごちる。



「それにしても彼は強いな。まだ、生まれてそんなに経っていないはずなんだけど……。ユニークモンスターってだけじゃなくて、他にも理由があるのかな? ……まぁ、それはどうでもいいか。強いに越したことはないのだから。……彼は僕の宿願を果たしてくれる存在かもしれない訳だしね」



 その人物はふと鏡から目を外し、虚空を見つめて想いを馳せる。遠い昔にいた生まれ育った場所に。自らが愛する者たちに。そして、自らが愛する世界に。



 その人物は再び鏡に視線を戻す。



 そして、鏡に映る彼を見て、あわよくば、迷宮ダンジョンを攻略し、ここまで来てくれることを願うのであった……。



 ♦︎♦︎♦︎



 ——魔法。



 それは一般に魔力を対価に超常現象を起こす力のことを指す。しかしながら、この定義はひとつの解釈であって、確実なものではない。



 例えば召喚魔法という無属性魔法がある。召喚魔法は魔法陣を何かしらの媒体に描き、それに魔力を注ぐことによって特定の存在を召喚する魔法である。しかし、この召喚魔法については似たようなもの(・・・・・・・)がスキルにも存在している。いや、その性質から判断すれば似たようなものではなく、同じもの(・・・・)と言えるかもしれない。つまり、何が言いたいのかと言えば、魔法とは元々スキルを再現したものではないか、ということだ。



 さて、ここで魔法とスキルの違いについてまず記しておこう。スキルは未だに研究段階ではあるが、ひとつ分かっていることがある。それはスキルは発動に際して魔力を全く消費しない(・・・・・・・)という点だ。その点が唯一の魔法との差異であり、議論が紛糾する理由でもある。



 話を戻すが、スキルの中に魔物や悪魔族デーモンを召喚する召喚魔法と似たものがある。そのスキルの発動は魔力こそやはり使わないが、魔法陣から出現するという点は召喚魔法と全く同じである。



 そこで私はひとつの仮説を立てた。それは先述の”魔法とは元々スキルを模倣したものではないか?”ということだ。人々はスキルを再現するために魔力を対価にすることで擬似的なスキルを発動させているのではないだろうか?そして、その技術が発展し、現在のような魔法体系が構築されたのではないか?



 これはまだ、証明はできておらず、学会で受けいれられることは難しいだろう。しかし、私は生涯を賭して研究してみようと考えている。まだまだ穴が多い仮説だが、必ずや証明してみせよう。



 話は変わるが、本書の本来の目的である魔法について触り程度に説明する。



 まず現在において、魔法に絶対的に分類されているのは火・水・風・地・雷・氷・光・闇・無・回復の十属性だ。他に【勇者】のスキルに組み込まれている聖光魔法、【魔王】のスキルに組み込まれている闇黒魔法などもあるが、これらは人によって解釈が分かれているので置いておく。



 現在、魔法に関しては個々人に“魔法適性”というものがあり、適性をもつ魔法以外は使用できない。これは絶対であり今までも例外は報告されていない。



 通常、魔法適性は一人につき最低一つ。多い者だと全属性に適性を保持することが報告されている。平均では一属性から二属性が適当だろう。



 そして魔法には練度がある。魔法を使い続けていけば、より魔法を扱えるようになるだろう。魔法巧者になる近道は諦めずに努力を続けていくことだ。



 その過程で挫けそうになった時はこう考えてみてほしい。“物語の英雄達もスタート地点は私と同じだった”と。これは私の師匠の受け売りだが、私自身幾度となく救われた言葉でもある。



 さて、前書きはこの辺りに、とりあえず筆を置くとしよう。魔法に興味のある者は本書の次ページから読み進めることをお勧めする。



 ——私の著書が貴方の役に立つことを願って。



 魔法学者アンドリュー・エイルズ



 ♦︎♦︎♦︎



 《——となります》



 我は今、【大図書館ダンタリオン】から魔法に関するレクチャーを受けている。この世界にある書物で一番分かりやすいと【大図書館ダンタリオン】が太鼓判を押した魔法書で、だ。



 だが、まあ、その……うむ。ハッキリ言おう。我はナメていた。今までが順調過ぎた故に、我は少し天狗になっていたようだ。



 何がいいたいのかと言えば、魔法は難しかったのだ。少なくとも我にとっては……。



 悲しきかな我が魔生。我はどうやら魔法を扱える星のもとには生まれることができなかったらしい。いや、正確に言えば使えないわけではない。しかし、我が魔法を使うと、魔力制御が拙い上、魔力だけは多いので、大惨事になりかねないのだ。先ほどから何度か魔法を使っているのだが、我自身何度か死にかけた。



 全く自分の魔法で死にかけるとか笑い事にはならんぞ……。今まで迷宮ダンジョンを攻略してきて一番危なかったのが自分の魔法ってどうなんだ? 【再生】スキルがあって本当に良かったと、しみじみ思う今日この頃だ。



 確かに洞窟というのも非常に良くなかったのだろう。もし、これが平原や荒野などで一対多の状況なら我の魔法は十分に使えるだろうしな。



 だがしかし、ここではダメだ。故に今しばらく魔法を封印するとしよう。使うにしても、武器に属性を付与する魔法剣くらいしか使えんだろうし、寧ろそれしか使わん。



 幸い、我がうまく扱えない魔法は放出系のみだったのだ。魔法剣は【大図書館ダンタリオン】によると、寧ろかなりの腕なのだそうだ。



 ならば、これから先。少なくとも迷宮ダンジョンでは魔法剣しか扱わないことにする。放出系は……いつかできれば良いな。



 さて、魔法剣をもっと練習しておくとしよう。我は魔物がいる方に向かって歩を進めた。



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