000 迷宮産まれのスケルトン
“ここはどこであろうか?”
周囲を見渡してみれば、目に映るのは暗褐色の土……いや石だろうか? それが見えるばかりだ。他には何一つとして見当たらない。何処か薄暗い場所にいることだけは分かっているが……。ここは洞窟か?
《解。ここは迷宮です》
“?! 誰だ!”
《私はマスターが所有するスキル——【大図書館】です》
スキル? なんだそれは? とりあえず、頭の中に直接語りかけてくる摩訶不思議なこの声の主は我の敵ではないようだ。意識すれば、我の一部であるかのような感覚があるし、敵意も悪意も感じられない。
とにかく分からないことが多すぎるな。話を聞いてみれば、様々な情報に精通しているとのことだから、まずはスキルについて聞いてみるとしよう。
“スキルとはなんだ?”
《解。個々人が持つ特殊能力のことです》
“ふむ。分からないことが多々ある。質問するから答えてくれるか?”
《是》
それから我は数々の質問をした。【大図書館】と名乗った自称“我のスキル”は打てば響くように全ての質問に答えてくれた。
それによれば、この世界の名前は【ユグドラシル】。
基本的な種族としては、人族・獣人族・森人族・山人族がいるらしい。そして、他の種族として魔物や魔物が知性を宿した存在である魔族、魔界に住む悪魔族、天界に住む天使族が存在しているそうだ。
ただ、魔物は人間種——人族・獣人族・森人族・山人族のこと——にとっては武器や防具の作製などにおいて有用であり、また害を及ぼす存在でもあるため、積極的に狩ることが推奨されているとのこと。そして、そうしたことを行う専門家——“冒険者”と呼ばれる者たちがいるのだそうだ。ちなみに冒険者は我が現在いるような迷宮の攻略も行うらしい。
魔族は、基本的には魔物が上位存在に進化を重ねることで到達できる。ちなみに、魔物との違いは一定以上の知性と実力を有しているかどうかだそうだ。
そして、我がいる場所は洞窟型の迷宮である【亡者の峡谷】と呼ばれる場所の第一階層らしい。
迷宮は世界の各地に点在するらしく、存在する理由や仕組みなどの詳細については不明な点も多々あるそうだ。迷宮の種類としては、今いる洞窟型の他、遺跡型、領域型の三つがあるらしい。
洞窟型というのは文字通り洞窟のような見た目の迷宮だ。通常の洞窟と異なる点としては迷宮内が明かりで照らされていることである。出現する魔物はその迷宮によって傾向が異なる。
遺跡型というのは遺跡を模した迷宮だ。この迷宮は出てくる魔物が限られており、ゴーレム系とアンデッド系しか出現しない。
領域型というのは、森林地帯や火山地帯など、自然に存在している環境で展開されている迷宮だ。そのため、出現する魔物は多岐に渡る上、強大な力を持つ魔物が他の迷宮類型よりも多く出現する傾向にある。しかし、領域型迷宮の数は非常に少ない。
そして最後に我自身に関してだが、まず、我の種族はスケルトン。つい先ほど、【ユグドラシル】にある迷宮の一つ——【亡者の峡谷】で誕生した。
スケルトンはアンデッド系統の最弱クラスに分類される魔物のひとつで、通常は我のように知性を宿した存在はいないのだそうだ。我の場合は特異な例であるため、“ユニークモンスター”というのに分類されるそうだ。
ユニークモンスターというのは、かなり低い確率で誕生する超特殊個体で、通常の同種の魔物よりも高い知能と能力を有しているとのこと。
“なるほど。では、これから何をしたらいいのだ?”
《解。魔物を倒してレベルを上げ、進化を目指すことを推奨します》
“進化とはどうすれば行えるのだ?”
《人間種及び魔物にはレベルというものが存在します。レベルを限界まで上げると進化が可能になります。ちなみに、魔物には進化がありますが、人間種には進化がありません》
“なるほど。了解した。それで我はどの程度で進化するのだ?”
《解。マスターの場合は、レベル10まで上げれば進化が可能になります。まずは、ステータスの確認を推奨します》
“ステータス? それはどのように確認するのだ?”
《解。ステータスを確認したい時は“ステータス”と唱えてください》
ふむ。試してみるか。
“ステータス”
すると、頭の中に様々な情報が書かれた“イメージ”が浮かんできた。
==========================================
==========================================
〈名前〉なし
〈種族〉スケルトン
〈階級〉E
〈称号〉なし
〈レベル〉1/10
〈体力〉32/32
〈魔力〉21/21
〈究極スキル〉
▷なし
〈ユニークスキル〉
▷【大図書館】
〈スキル〉
▷【暗視】
==========================================
==========================================
だが、それを見て思うことがある。それは——
ふむ……強いのか弱いのかが全く分からん。
そう。比べる基準というものがないため、我のステータスがどれほどのものなのか、さっぱり分からんのである。
まぁだが、とりあえず戦ってみるとしよう。まずは武器があれば調達したいところだが。……とりあえずは前方にいくつか転がっている棍棒でも使うとしようか。
我は前方に落ちていた長さ30cmくらいの棍棒を一本拾い、迷宮の通路を進むことにした。