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第四話

 大都の適当とは、ザッと1時間ほどだった。一体、どこまで自由奔放なのだろうかと追求するのは実質、時間を徒労するだけだ。


 「よっ、待たせたな。」


 「いや、別に…。」


 常識外れな退屈な時間にも、文句のカケラを零さない杏子。現在、心拍数上昇中で時間感覚など麻痺っているからだ。


 「なんか大人しいな、調子でも悪いのか?」


 「全然。(何で、私がモジモジしなきゃなんないのよ…うぅ)」


 見よ、同状況下に置かれても相変わらず平然とした態度を確立した男の雄姿を。


 「お前、最近よくあそこ(プール)に出現するけど、住んでんのか河童とかと?」


 「はぁ?」


 「だってさ、俺が行く時に、なぜか遭遇するからさ。」


 「遭遇ぅ!?(何か、私は未確認生命体扱いなワケ?)」


 時間が経過するにつれて、薄れ始めた衝撃に杏子は我を取り戻しつつあった。


 「つか、さっき思ったんだけどお前の、ソレよく見たら旨そうだよな。」


 大都の指すソレとは、杏子の首にかかるタオルの絵柄…写真のような綺麗に描かれたグルメ絵柄に対しての興味である。


 言葉とは、自分の思いを相手に伝えることを可能にする魔法だが。誤って使えば、誤解や語弊として誤作動するのだ。


 この時の様に―。


 ソレとだけ言ってタオルを示さず、漠然と杏子を凝視していれば、見られる杏子主観で考えると。


 「ど、ど、どこ見てんのよ変人!!(私の胸なんか、興味ないとか貧相とか愚痴言っておきながら突然…)」 


 「いや、マジで俺、ソレだけのため(食のため)に生きてもOK!」


 ピースして、濃縮還元100パーセントの笑顔を杏子に注ぐ大都だが…。


 「ソレだけのため(私の胸のため)だけにィィィィィィイ!?」


 「パニくるほどじゃねぇっての、お前もあるだろ願望が。」


 「無い。」


 「いや、ゼッテーある。」


 「いや、絶対無いから。」


 「ある。」


 「ない。」


 「あるって。」


 「無いって。だぁぁ、しつこい。」


 エンドレスに終止符。


 そして、二つの足音は、一軒の店の前で止まる。学校の周辺に、コンビニらしき店やファーストフード店が全く存在しない田舎、その虚しさを少しでも緩和しようとしたかは定かではないが雰囲気のある喫茶店がある。


 大都は席に着くなり、


 「Bセットと冷麺とオムライス…お前も頼めよ俺の奢りなんだからさ。」


 「え゛、昼食?」


 目を白黒して戸惑う杏子を前に、またもや平然と自分の常識をさらりと公言。


 「あ?三時の菓子だろフツー。」


 「二時だけど…。」


 「変わんネェだろ、頼まないなら俺が―。」


 「クリームソーダ。」


 「え゛、そんだけで足りるワケ?」


 「さっきもう済ませたからさアハハハ…はぁ。(コイツのペースで注文されたら、折角、ダイエットのため密かに泳いだ日々が無駄になるじゃないのよ)」


 「ふーん、サンドイッチ追加で。」


 「なっ!?ちょー何無断で頼んでんのよ。」


 こんな風に揉める事が煩わしいと思えていたのに、今では心の奥底で望んでしまう、この時間が長く続けば楽しいだろう。と―彼女は笑った。


 「なんかその顔、可愛いな。そっちのほうが、お前らしいんじゃねーか?」


 「(大都の素直でちょっぴり幼い一面に、時々どうしようもないくらい魅かれることがある。無邪気で、思ったことを口に出して喧嘩になることが多いけど、それは全部本当の大都の気持ちで。このとき初めて、偽りの無いカッコよさってのに気付かされたのかな私。)」


 それから日が暮れるまで、ボケ(大都)とツッコミ(杏子)で漫才のように他愛の無い会話をして、杏子も何時(いつ)しか躊躇していた自分のことも話すことができた。


この夏、彼と彼女は付き合うことにした―らしい。


 恋の前には、会う回数や時間の長さも関係なくて。



 胸の鼓動がリズムを奏でて、触れ合う手のひらからは光が溢れ、交わす心の先には―きっと『生命』が宿るのだ。




 

【まだ続く...かも】

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