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第一話 

きっと、どこにでもある運命に触れる男女の心が、しだいに出会い成長していく物語。

…これは、数々の恋の物語。


 (せみ)が夏を主張するように、うるさく鳴き。零れた水など、一気に飲み干す太陽を反射して白んだグランドは陽炎を放ち。夏の訪れを喜ぶかのように咲く向日葵。


 そして、もう一人。


 「夏休みだー!」


 小林(こばやし)大都(だいと)、今年、ギリギリの成績で志望高校に入学した。いわば、猪突猛進型のお調子者で授業を賑わす先駆者だ。


 「小林残念だったな追試決定だぞ、それもお前一人だけのな。」

 

 男性担任の一言で、クラスが爆笑した。と、言っても当の本人にすれば笑い事では、済まされない。


 「俺もう明日、プールに行く予定あるんですけどぉ?」


 「明日と今からどっちが大切なんだ、あん?」


 「プール。」


 きーんこーんかんこーん


 人生には逃れられない定めってものがある、大都の追試のように。結局、彼の夏休みのイベントは強制的に破棄された。

 夏休み初日から人通りもさっぱりした通学路を通う羽目になるのだった。


 「こんな制度、作ったの誰だ…マジで殺す気か。」


 古い校舎だけに冷房などなく、夏は猛暑。唯一救いといえば窓以外からの隙間風で、僅かに涼しい。逆に言えば、冬は折角の暖房の熱も惜しげもなく外気に放出してるわけだが…。

 

 「誰も、いねぇ。」


 この日、一部の部活動をする生徒のみ登校し、他の生徒は長期休みを満喫している学校が一番静かな一日だ。


 「と、知って俺は持ってきていたスク水!」


 大都の脳天を帳簿の角で、打撃を与える影。


 「ずいぶん余裕だな、小林。」


 「いっつー、何気に角でやりやがったな。いいだろ、水泳部休みなんだからさ。学校の事情で、潰された分泳がないといけないんだからな!」

 

 「自己管理怠ったお前が悪い。」


 ご(もっと)もなお(しか)りも、無垢で負けず嫌いな少年は屁理屈で応戦した。


 「ゆとり教育し過ぎたのが、人間をダメにしたんだな。」


 「はいはい、さっさと元素記号理解してから泳ぐなり何なり好きにしてくれ。」


 がらんとした二階の教室は、やけに木が軋む音が聞こえて、広く感じられた。


 それにしても、暑い、暑い、暑い、見境なく暑い。補習プリントが、べたつく汗で湿り紙面が波打って不快感を増す。


 「すいへーりーべーぼくの―。」


 元素記号の近道なのか語呂合わせで、無理やりに読むと、一部逆になったり、ありもしない記号が閃くものだがデメリットなど今や教師であれ生徒であれ関係ない。この二人いち早く、この現状を脱したいのだ。


壁にかかるシンプルなデザインの丸時計は、午後12時50分を示して。未だ、刻々と灼熱の教室で働き続けている…いや、忙しく走る秒針はぶつぶつと文句を言っているように思えなくもない。


 当然、教室に人影など、もう跡形無く。音を上げた男二人は、食堂で冷えたジュースをガブ飲み中である。

 

 「あぁ、拷問と補習は紙一重だ。」


 「紙一重の意味分かるなら、来年…次回からは赤点なんかとるな。」


 「ういー。」


 かん、かん


 飲み干した空き缶を表示の剥げたゴミ箱に投げ捨てて食堂を出た。


 「んじゃ、プール行く。」


 「若いねぇ…。」


 プールに行く予定だった大都にとって、今日はなんとしてもプールに浸かり泳ぎたい一心だったのだろう。誰も居ないプールサイドで、タオルで隠すことなく水着に着替える姿がそこにあって。


 「キャー―ーーア!!」


ざぱーん 水しぶきをあげてプールに何かが落ちる。


 「なっ…何してんだ!?」


 そう、プールサイドには居なくともプール内には一人居ました。水中で死角になっていたが、ちゃ−んと居ましたよ。


 「アンタこそ…って前隠しなさいよ!」


 「俺は気にしネェ。」


 スク水姿の女子生徒は、くるっと反転して大都に背を向けた。


 「私がするの。」


 「あ、そう。ほら、穿いたぞ。つか、お前何してんだ?」


 その一言は、彼女の逆鱗に触れた。


 「だぁぁぁぁ、プールサイドで、露出狂じみたアンタにだけは『お前何してんだ』なんて言われたかないわよ!!」


 「どーでもいいけど、お前の顔どっかで見た気が?」


 苛々したムカつき顔で水着の女子生徒は、こめかみを人差し指で押さえた。


 「食物科だから隣のクラス―。」


 「お前!!」


 「な、何よ、ビックリするでしょうが!?」


 素っ頓狂な声をあげて、それほど大きくもない胸を押さえる。


 「美味そうに作って見せつけるだけ見せつけて、走り去ったケチな女!」


 「ケチぃ!?大体、いつの話よ?」


 なぜか問題点が逸れた事に着眼しない女子生徒は、大都の過去への恨みの正体を探る。

 

 「鍋持ってたろ、調理室から持ち出す必要ねぇじゃん。」


 「あぁ、アレは友達が包丁で指深く切っちゃって大騒ぎしてテンヤワンヤでうっかり鍋持ったまま。」


 「このご時世にテンヤワンヤなんて言うかねぇ?」


 「うっさいわね。というか、帰ってくれるかな小林 大都君?」


 「何で俺の名前、なーんて言うわけないだろ水着の名前見たんだろ。俺もそれやろうとしたんだけど…お前のこの苗字なんて読むんだ?」


 ふにふに…彼の天然な一面なのか悪戯心なのか、彼女の水着の白い布地の氏名欄を指でなぞった。


 「草薙(くさなぎ) 杏子(きょうこ)って読むんだ…分かったら消えろこんの変態野朗がぁぁっぁ!!」


 リアルにグーパンチ、効果音も何もない…そこにはエグい音と間があった。二人は最悪とも言える、出会いを交わす。


 




 


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