序章 完
これで説明的な部分は終りです。次回から楽しく魔女の世界を見ていきましょう!!
⑨
二人を見下ろすようにして宙に浮かぶ、見えない椅子に腰を掛け足を組むキャンディがいた。
「そろそろお暇しようかしら?ここでやるべきことはやったし・・・」
「こちらとしては、まだまだ聞きたいことは山ほどあるんですけど」
「あなた方に構っている暇はなくなりました。あの方のご命令でね」
「その魔女の名は?」
「・・・名を知らずとも、『クロスアイデン家』といえば十分かしら」
「!!?」
「クロス・・・アイデン・・・」
サイルス、ドリアール両名ともその名を聞いた瞬間感情が爆発しそうだった。
「クロスアイデンを名乗れるのは魔女の中でもただ一人。それが魔女の本部に手を貸しているとは・・・・」
サイルスは何とか言葉を吐き出し、悔しそうな表情を浮かべた。
「クロスアイデンの当主がいるなら話は早いじゃない!この場で潰せばいいのよ!」
明るく提案したのはドリアールだった。
「ドリー、あなただけではこの本部とクロスアイデンをつぶすのは厳しいわ」
「だったら、わたくしとサイルスがいれば完璧ですわ!そうでしょ、サイルス?」
「・・・・無駄なことを。それより我々の本来の目的は達成した。すぐにこの場から離脱せよ!」
「は!!」
キャンディの命令と同時に下降を続けていた『本部』は元いた空間へと戻ろうと上昇を始めた。
「まずい、このままでは唯一の手掛かりを見逃す羽目になる!」
「なら、無理やりにでも引き戻すしか!」
「そうしたいけど、魔力が足りない」
「わたくしとサイルスでも?」
「ドリーは魔女としてはほとんど使い物にならないでしょ」
「うぇ~ん!!そうでした~・・・ごめんなさい・・・」
「ここは・・・」
「ここは?」
「見逃すしかなさそうね」
「えぇ~!!」
「こちらも相手の読み通りだと思うと吐き気がするけど、仕方ないわ」
ズズズズズ・・・とまた空のかなたに消えていこうとする『本部』をただ眺めているしかできないことにサイルスは自分の実力不足を痛感していた。周りの魔女ではなく目的の「本部」のために力をどう使うかをもっと考えるべきだったのだ。
これは、おのれのミスだ。もし次があるのなら同じ過ちは犯さないと誓う。
そんなサイルスが誓いを行っている中、キャンディの高笑いが聞こえた。
「あーはっはっは、今回はこれでお暇しますけど、次会える日を楽しみにしていますわ。機会があれば、の話ですけどね・・・」
フフフ・・・と楽しそうに笑う。
「では、また会える日まで『さようなら』」
そういうと、『本部』は急速に上昇速度を上げ最後はどこかの空間に吸い込まれるようにあっという間にあの大きな城を消してしまった。
残されたのは、サイルスとドリアールのみ。
「完璧にやられたわ」
サイルスをしのぐ相手など見たことのなかったドリアールは逆に新鮮で楽しいと感じていた。
いつもつまらなさそうに暗い表情を浮かべているサイルスばかり見て来たから、今回の出来事はドリアールにとってはとても楽しい出来事として記憶されていた。
でも、ドリアールにとっても一つ気がかりなことがあった。
「・・・クロスアイデン家・・・・」
そこだけは、いつも楽観的なドリアールといえども笑うことのできない名前であった。
「まあ、近いうちにまた会えるでしょ」
とサイルス。
「え!どうして??向こう側はもう姿を晒す気はないように感じたけれど。会いに来られるかしら?みたいな」
「だからよ、あきらかに誘ってる。また、私たちと会いたい証拠よ」
「ふぅ~ん、なら次に備えてがんばらなくっちゃね!」
ドリアールはがんぱるぞとかわいらしくガッツポーズを決めている。
それを見たサイルスは、ハァ~とため息を一つつくと、呪文を唱え始めた。
「?サイルス何をなさっているの??」
サイルスが呪文を唱え終わると、周りの壊れた校舎が綺麗に元通りになっていた。
「すっごーい、サイルス!あなた何でも出来るのね!!」
興奮してサイルスを褒め称えるドリアールに対し
「あなたが何もできないだけよ」
とサイルスは素っ気なく、ドリアールを一刀両断する。
「ふにゃ~・・・、ごめんなさい~・・・」
ドリアールが素直にへこたれていると
「さあ、さっさとこの場から消えるわよ、さすがに今回は暴れすぎたわ。人間がゾロゾロとなだれこんで来る頃ね」
「ひゃあー、それは勘弁。ただでさえ、毎日質問攻めの日々を送っているというのにーー!」
そういうと、いつもはおっとりドリアールがお先にと走ってどこかに行ってしまった。
サイルスは・・・・
『セレスティア=ヤコブス』が消えた方向を見上げながらぶつぶつと何かをつぶやいていた。
そして最後に、
「セレスティア=Z=クロスアイデンに光の鉄槌を・・・」
そう呟くと、踵を返しあとは一度も振り向かずその場を後にしたのであった。