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私が男で彼が女で

花見に行こう!

 某日、朝五時に起床。

キッチンに立ち、お弁当を作り始める俺。

まずは基本の卵焼きからだろうか。いや、おにぎりから作るべきか?

まあどっちでもいいか、とボールに卵を三個ほど割りかき混ぜる。


塩に砂糖、俺の作る卵焼きはシンプルな味付けだ。

しかし面白くないな……なんか隠し味でも入れるか。

何かないかと冷蔵庫を漁る。

お、妹が買ってきたであろうカラスミがあるな……。みじん切りにして卵焼きに……


いや、やめとこう。

他に何かないか……?

お、妹が買ってきたであろう塩辛があるな……。そのままダイレクトに卵焼きに……


凄まじく生臭い卵焼きを想像してしまう。

いや、やめとこう。

他に何かないか……?


お、妹が買ってきたであろうユッケが……って何なんだよ妹! お前普段どんな生活してんの!

酒のツマミしか冷蔵庫に入って無えじゃねえか!

おのれ……元々おかしな妹だとは思っていたが……ここまで女子力無いとは……なげかわしいにも程がある!


 俺の妹は昔から少し変わった子だった。

歳が七つも離れている為か、俺は妹を猫可愛がりしていた。

だがある日、まだ小学生だった妹は俺にこう告げた。


『兄ちゃんいいね……男の子だもんね……いいね……』


当時中学生だった俺は突然の妹の発言を理解できなかった。

もしかして小学生ながらに男に興味が出てきたのか、と思ったが……興味の方向性が俺の想像する物とはまるで違っていた。


俺がそれに気づいたのは妹が中学生に上がる時。

当時、母親は女の子の制服が可愛いとハイテンションになっていた。

しかも妹が通う中学では制服のデザインが選べるのだ。ちなみに男子は全員ガクラン。不公平だ!


母親はハイテンションで妹に様々な制服を着せて行った。その数は十数種類はあったと思う。

制服を選ぶ妹は表面上では、可愛い可愛いと喜んでいた。

だが俺は気づいていた。本心ではどの制服も気に食わなさそうにしている事を。


その時既に高卒でレクセクォーツというIT企業に奇跡的に入社した俺は、妹に制服を買ってやると一緒に仕立て屋へ赴いていたのだ。

どの制服も気に食わないという本心を見破っていた俺は、ハイテンションな母親が離れたスキに尋ねてみた。


「晶、どの制服がいいんだ? お前さっきからあんまり気に入ったの無いみたいだけど……」


ちなみに晶とは妹の名前だ。

晶は俺に気づかれていた事に驚きつつ、嬉しそうに制服を選んでいる母親に気を使いながら俺に言い放った。


「兄ちゃん……私……あれがいい……」


晶が指を指した制服。それは男子の学ランだった。

その時俺は全てを悟った。小学生の頃から女子より男子と遊ぶ方が多かった妹。

洋服もお金が勿体無いからと俺の御下がりを所望していた。母親は悲しそうだったが。


「お前……まさか……」


言葉には出さなかった。お前、男になりたいのか? と。


シスコンだと思われるからあまり言いたくはないが、晶は可愛い。

恐らく世界で一番可愛い妹ではないかと思う程である。

断じてシスコンでは無い。俺は本心でそう思っている。

何度も言うが、断じてシスコンでは無い。


んで、結局母親と一緒に決めた制服は一番人気のブレザーだった。

今まで満足に晶の服を買わせて貰えなかった母親は終始ご機嫌。

十万ちょっとする買い物だったが、俺も躊躇わず金を払った。だが晶が望む制服はこれでは無いのだ。


そして高校に入るときも新しい制服を買った。

晶は自分の貯金で買うと言ったが……。


「その金は本当に欲しい物のために使え」


カッコよく言い放つ俺。断じてシスコンでは無い。

そして大学に進む晶のためにマンションも買った。断じてシスコンでは無い。


しかし、そんな致せりつくせりの兄貴に気を使ったのか、晶はバイトを始めた。

大学の授業料も俺が払うつもりだったが、マンションだけで十分と断られてしまった。

ちょっと寂しいでござる。断じてシスコンでは無いが。


そんな晶が始めたバイト。

俺はそのバイト先を聞いて正直、安心半分、不安半分といった感じだった。


そのバイト先は「執事喫茶 レインセル」

会社で電話越しにバイト先を聞いた俺は、思わず飲んでいたコーヒをぶちまけキーボードを破壊した。

いや、だが……まぁ晶にとっては天職かもしれない。母親が聞いたらどんな顔をするか分からないが。


『お母さんには……まだ黙ってて。私から言うから……』


いや、そんな深刻に考えんでもいいのでは? と思ったが素直に頷いておいた。

たかがバイト。されどバイト。もしかしたら今後、晶の人生を左右する出会いがあるかもしれない。




 そして現在、何故いきなり妹の回想をしつつ説明をしたのかと言うと、本日そのバイト先の友達と花見に行くのだ。しかも一泊二日の温泉旅行。


んで、俺が何故弁当を作っているのかというと……旅費は全て晶が持つという事で、ならばせめて俺が弁当を作ろう! と申し出たのだ。


だが


『兄ちゃん、旅館でご飯でるよ……』


そりゃそうだ。しかし俺は引き下がらなかった。それならば一日目の昼は桜の木の下でピクニックしようじゃないか! と提案した。俺の熱弁に晶も根負けし、昼はピクニック。夜は旅館で懐石料理という豪華なプランに変更された。移動は俺の車なので、予め晶のマンションに泊まり準備をすることとなった。そのまま晶の友達も拾って桜の木の下でピクニックだ。


ふふふ、楽しい楽しいピクニックだ。晶と一緒にお出掛けなんて何年ぶりだろうか。

しかも晶の友達は女子二人。俺はハーレム状態では無いか! 

女の子三人と一緒に花見とか……いや、流石に晶の友達に手は出さんが……こんなの久しぶり過ぎてテンション上がる。今年で二十七になる俺には彼女すら今まで出来た事は無い。

デートっぽいのは数回あったが、まともに喋れず沈没していた。だが今日は晶の友達なのだ、緊張で喋れないなどあり得ない。


さてさて、そんなこんなで……まだ卵焼きしか出来て無え!

まずい、あれだけピクニックいこーよ! とか言っておいて弁当作れませんでしたとかクズすぎる。

元はと言えばこの冷蔵庫の中身がおかしいのだ、ビールとツマミしか入って無え……。


仕方ない、前準備全くしてなかった俺も悪いが……圧倒的に俺が悪い気もしないでもないが、二十四時間営業のスーパーが近くに会ったハズだ。晶はまだ寝ているな。車でささっと材料買って来よう。


まだ時間はある。


★二時間後 午前七時★


ぎゃあぁ! 不味い! 料理が不味いわけでは無い!

出発は八時なのだ、あと一時間しか無いというのに卵焼きとオニギリ、そしてから揚げしか出来て無え!

くそぅ、冷凍食品だから速攻で出来ると思ったのに……なんでレンジが無えんだよ! 買えよ! つーか買ってやるよ! くそぅ、晶にハメられた……あいつ、電子レンジ無しでどうやって生きてるんだ?


あと一時間……冷凍食品のから揚げはなんとかフライパンに敷いた油で無理やり揚げれたが……。

スーパーで買ってきた食料はことごとくレンジでチンせねば完成しない物ばかり。

おのれ、可愛い妹め。絶対レンジ買ってやるからな。反論は認めぬ……!


★一時間後★


っく……結局オニギリ多めに作る事しか出来なかった……しかも全部塩味。

な、なんだこの残酷な弁当は……卵焼きにオニギリ……そしてから揚げのみ。

女子がこんな弁当を見たら……


『ぁっ』(察し)


うわぁ! 容易に反応が予想できるのが怖い! このままでは晶の兄貴は使えない奴と烙印を押されてしまう。しかしもう出発せねば友達を迎えに行く約束の時間に間に合わぬ。

ぁ、っていうか晶起きてるのか? 起きてるよね? 勿論もう出かける準備万端だよね?


 恐る恐る晶の部屋へと忍び足で侵入する兄。

うわぁ、可愛い寝顔だなぁ……って


「起きろゴルァ! いつまで寝てんだ!」


思わず布団を剥がし叩き起こす俺。

って、やば……。


「んー……兄ちゃん……おはよう……」


あ、晶さん? え、な、なんで……


「お、起きたな?! も、もう八時ですわよ! 早く準備なさい!」


自分でも口調がおかしいと気づいているが、冷静でいられない。

なんで晶……下着姿で寝てんだよ! お兄さん困ってしまうわ!

急ぎ足で部屋から出ていき自分も速攻で服を着替える。

黒のジーンズにイージージャケット。シンプル過ぎるか……いや、これが大人のファッションなのだ……!


★一時間後 午前九時★


「あぁ、うん。ごめん、寝坊しちゃって……今から迎えに行くからー。琴音さんにも謝っといてー」


ワンボックスの我が愛車の助手席で電話する晶。結局、晶の準備に一時間程かかったが弁当のメニューは大して増えていない。デザートにリンゴを切っただけだった。


しかし……晶は友達を、さん付けして呼んでるのか。そんなの友達と言えるのか?

なんかちょっと心配になって来た。


「晶、琴音さんって……友達なのか?」


「んー? あぁ、友達のお姉さん。ぁっ、兄ちゃん。琴音さん、事故で歩けないから……気つかってあげて。でも使いすぎちゃダメだよ。琴音さんにも気使わせちゃうし……」


ふむ。お姉様か……。ちょっと想像してた構成と違うが問題は無い。

って、事故で歩けないって……


「え、ピクニックとか……大丈夫なん?」


「いや、兄ちゃんがどうしてもしたいって言ったら快くOK貰ったよ。まずは謝って」


な、なんだとう! そ、そんな事なら提案なんぞしてなかったのに……。何故先にそれを言わんのだ! この妹は!


しかし今更何をどうこう言っても始まらぬ。

まずは晶の言う通り謝ろう。そして全力でフォローせねば……って、むむぅ、気使いすぎてもダメなんだっけ……。ど、どこまですべきか……。


「難しく考えなくていいから。危ないと思ったら手出すくらいでいいよ」


「は、はい」


妹に頭を下げつつ友達の家まで車を走らせる俺。そのまま住宅街へと入り、晶の道案内の元……到着。

さて……なんか緊張してきた。いやいや、こっちが緊張したら向こうに気を使わせてしまう。

気さくに……そうだ、多少チャラい男くらいのノリで行こう。そうすれば……


「ごめんなさい~、迎えに来てもらって……ぁ、お兄さんですか? 今日は宜しくお願いします~」


家から出てくる車椅子に乗った女性。

挨拶を返しもせず俺は棒立ちしていた。

え、なんなの、この美人……。

ちょ、話しが違う! 晶の友達のお姉さんっていうから……少なくとも年下だと思ってたのに……

同年代か年上……しかも……


正直、ドストライクのお姉さんタイプ……


「……? 兄ちゃん? 何固まってんの。ほら、車のドア開けて」


「ほぃぁ?! あ、あぁ、えっと、ど、どどどどうぞぅ」


キーレスで鍵を開けつつ自動ドアを開く俺。まるでどこかのロボットのような動きに、琴音さんの笑い声が聞こえてくる。


「晶ちゃんのお兄さん面白い人だね、カッコイイし」


か、かかかかっこいい?! ま、まじっすか……やばい、マジでやばい。

今までカッコイイなんてお世辞でも言われた事が無い。

普段からPC弄ってひたすらデスクワークしかしてない俺。

カッコイイ要素なんて何一つないのに……やばい、どうしよう、どうしよう!


「ぁ、おはようございますー。今日はお願いしますー」


むむ、別の女子の声が聞こえてくる。

正直妹が居るせいか年下には興味ない。

友達の方には冷静に……挨拶を返してみせる!


と、張り切って振り返る俺。

え、ちょ……え?!


「拓也……たかこちゃん、抱っこー」


「はいはい。晶さん手伝ってもらえます? 姉さん重いし」


ひーどーいーと可愛く言う琴音さん。

そして晶と二人で前後から抱っこして車に乗せる妹さん。


やべぇ……妹のほうもメッチャ可愛いやん……


俺、大丈夫か?!

変な挙動してないよな?!


「あの、お兄さん」


キョドってる俺に話しかけてくる妹さん。

な、なんだね?!

っていうかマジで可愛いな、この子……たかこちゃんだっけ……


「今日は……ピクニック提案してもらって……本当にありがとうございます、姉さん無理やりにでも連れ出さないと……自分でピクニックしたいなんて言わないし……」


え?! か、感謝されてる……マジか。

良くわからんが……まあ、ここは……


「いや、俺がしたいって言っただけだから……気にしないで」


くわー! やばい! めっちゃ不愛想じゃね?! 俺!

もっと気の利いた事言えねえのかよ!

く、くそぅ、こんな美人姉妹が来るなんて聞いてないぞぅ!

おのれ、晶め……わざと黙ってたな……


 そのまま美人姉妹の荷物も乗せ終わり、それぞれの席に着き出発―っ……

って……あの……


「はい、お兄さん、あーん」


「あ、あーん……」


車を走らせ高速に乗る。

何故か助手席にお姉さん。さっき後部座席に乗ってたような気がしたんだが……


「ぁ、姉さん……どうしても助手席がいいって……迷惑だったら言ってください、後ろに引きずり込みます」


「あぅー、たかこちゃん……ひーどーいー。もっとお姉ちゃんに優しくしてくれないと……パンダに化けてでるぞー?」


意味が分からんが楽しそうで何よりだ。

しかしなんで助手席がいいって……後ろでワイワイ女三人で遊んでればいいじゃないか。

やばい、緊張が増してきた……っていうか、あーんって! 初めてされたわ! 惚れてしまうやんか!


「お兄さんはお名前なんて言うんですか?」


琴音さんの質問に今さらだが自己紹介してない事に気づく。

まずい、ユーモアを混ぜるべきだろうか……それとも普通に答えたほうがいいだろうか?!


「ぁ、私は柊 琴音っていいます。後ろの子がたかこちゃんです。ねー?」


「ぁ、ぅん……ソウダネ……」


なんか微妙な相槌を打つたかこちゃん。頬引きつってないか……?


「えっと、俺は真田 大地……です……」


ってー! めっちゃ捻りも何も無い自己紹介してしまった!

もっと、もっと何か無いのか?! 面白い自己紹介は!


「大地さん……? カッコイイ名前ですね。何歳なんですか?」


やばぃぃぃぃ! またカッコイイとか言われたぁ。

この名前カッコイイとか言われたのも何気に初めてやん、名前負けしてるやん、お前ーとか言われて来た人生だったのに……。


「えっと、二十七です……」


「えー! じゃあ私が一番年上かぁ。ごめんなさいね、こんな叔母さんが隣りに座っちゃって……」


え?! 叔母さんって……も、もしかして美魔女……?

反応に困り晶へチラチラ視線を送りアイコンタクトを試みる俺。


「いやいや、琴音さん二十代じゃん。ぁ、うちの兄ちゃん年上好きなんで。気を付けてくださいねー?」


ちょっとまてゴルァ! そんなフォローの仕方があるか!

確かに年上好きだけども! もう琴音さんドストライクだけども!


「ぁ、そうなんですか? ふーん……」


え、あの……ふーんって……琴音さん?

やばい、なんか色々と勘違いしてしまうパターンや、コレ。

実は琴音さん、俺の事気になってるんじゃ……とか……。

あぁ! やめろ! 変な期待はしないってもう心に決めてるんじゃ!

妹が立派に育つまで俺は恋なんぞしないと!


そんな事を考えていると、たかこちゃんがガサゴソとお菓子を出してくる。

や、やばい、また来るか? あーん……


「姉さん、はい。お兄さんの御世話してあげてね」


「ん? うん」


ポッキーを手渡すたかこちゃん。

あぁ、ポッキーといえば……なんか想像してしまうな。

キャバクラとかで……ポッキー口に咥えて、あーんみたいな……


「お兄さん、あーん」


「ぁ、はい……ありが……と、う?」


ポッキーを咥えている琴音さんを凝視してしまう俺。

ぁ、やばぃ、これ……


「兄ちゃん! 前! 前!」


「ん? おうは!?」


危うくサービスエリアに入ろうとする車のケツへ突っ込む所だった。

あぶねえ……大事故起こりそうだったわ……


「ちょ、姉さん! あんまりイタズラしちゃダメだよ!」


「ぁ、ぅ、ぅん、ごめんなさい……ふざけすぎました……」


あぁ! 琴音さんが……しょんぼりしてしまう!

何か……何か……気の利く事を言うんだ! 俺!


「俺……キスとかもした事ないんで……興奮しました……」


……? 俺……今なんて言った?

一瞬静まり返る車内。

まるで氷漬けにされたかのように時間が止まる。


「……っく……あはははっ! 兄ちゃん……っ」


爆笑する晶に釣られて、たかこちゃんも琴音さんも笑ってくれる。

良かった……寿命縮んだわ……今回ばかりは晶に救われた……。


その後も他愛もない話をしつつ、安全運転する俺。

現地までもう目と鼻の先まで来たとき、心なしか琴音さんの表情が強張る。

むむ、どうしたんだ。トイレか?


「ぁの、ごめんなさい……ちょっと……」


ん?! も、もしかして……酔ったのか?!

ヤヴァイ、俺の運転が下手過ぎて……


「兄ちゃん、サービスエリア」


「ん? お、おぅ」


もうすぐ到着なんだが……いや、ここは琴音さん優先で動くべきか。

サービスエリアに入り駐車。


「あの、本当にごめんなさい、ちょっと……」


むむ、女子がちょっとって言うときは大抵トイレだな……。

ここは妹さんと晶さんに任せたほうがいいか。

まあ俺もタバコ吸いたいし……


「晶、俺ちょっと……」


言いながらタバコのジェスチャーしつつ車を出る。

本当なら吸わないつもりだったが……やっぱり我慢できません、ごめんなさい!




 十分ほど煙草休憩し、匂いをファ○リーズで消しつつ戻る。

琴音さん大丈夫だったかしら。


「おまたせしました、すみません」


「ぁ、いえ……」


ん? なんか琴音さんの顔が赤い……

熱か? まさか風邪か?!


「あの、琴音さん大丈夫ですか? 顔赤いですけど……」


「兄ちゃん!」


晶に怒鳴られながらアイコンタクトを受け取る俺。

気にするなという事か。そ、そうだな、無神経だったな……


「じゃあ気を取り直して……出発します」


いいつつそのまま再発進。

結局何があったのかは分からんが……。




 そんなこんなで到着!

うむぅ、桜満開じゃ。くるしゅうない。

晶とたかこちゃんで琴音さんを車椅子に乗せつつ、俺は空いてる場所を探しブルーシートを敷く。

奇跡的にいい場所が取れた。周りの客に酔っ払いは居ないな。

そこに遅れて琴音さん達がやって来た。


「お、いい場所とれたねー、兄ちゃん。早速お弁当食べようよー。もう私お腹ペコペコ……」


朝飯すら食べてないからな。

さて……この弁当を見てどんな反応を見せてくれるのか……。


「……兄ちゃん……何これ」


「ん? 弁当……です」


重箱にぎっしりつまったオニギリ。そしてその隅っこに卵焼きとから揚げ数個。

そしてリンゴを切って入れただけのタッパを出す。

ぁ、やばい、みんなガッカリしてる……?!


「い、いただきます……」


たかこちゃんが先陣を切っておにぎりに手を伸ばす。

そしてモッシャモッシャと無表情で一個食べた後、感想に困ったように目を泳がせた。


ふふふ、やはりそんな反応か。

ってー! 楽しい花見が! 俺の作った弁当で台無しになってしまう!

ヘルプ! 我が妹よ!


と、アイコンタクトを飛ばす。

そしてなぜかグッジョブサインをする妹。

マテコラ、なんでGJやねん。


「あの、良かったらこれ……」


琴音さんが気を聞かせて作ってくれたのか、サンドイッチが入ったカゴを出してきた。

マジか。むっちゃ美味そう……。


「ごめんなさい、大地さん……。余計な真似して……折角お弁当作って来てくださったのに……」


うわぁ! 俺もごめんなさい! 

今めっちゃ気使わせてるぅ、俺……


「い、いえ……今日寝坊して……(俺はしてないけど) 助かりました……」


いいつつ琴音さんが作ったサンドイッチに手を伸ばす。

ふむ、これはシーチキン味かしら。


一口食べる。

ん?! な、なんだコレ……

サンドイッチって……どれも同じだと思ってたけど……

めっちゃ美味い……。


「これ……琴音さんの手作りですか……?」


「え? あぁ、はい。お口に合えば宜しいですけど……」


そのまま一個速攻で食べ、二つ目に突入する俺。

二つ目も三口くらいで食べてしまい、三つ目に……


「ちょっ! 兄ちゃんばっかりずるい! っていうか感想言え!」


「美味い……めっちゃ美味い……」


それだけ言って三つ目も平らげる俺。

やばい、結婚してほしい。

こ、これは……美味すぎる!

と、とまらん! サンドイッチを食べまくる俺の手が!


っていうか無言で食ってるじゃん俺!

ヤヴァイ、折角花見に来たんだ、何か気の利く事を……と本日何度目か分からない言葉を心の中で思いつつ琴音さんを見ると、何故かポロポロと泣きだしていた。


「へ? あぁ! す、すみません! 俺食べ過ぎちゃって……」


「ち、違う……違うの……」


ブンブン頭を振って否定する琴音さん。


「嬉しい……から……そんなに美味しそうに食べてくれるなんて……思って無くて……」


そのまま顔を伏せて号泣してしまう琴音さん。

え、えぇ?! え、ちょ……ど、どうしよう?!

晶さん! 助けて! 


「ぁ、私飲み物買ってくるね。たかこちゃん、行こ」


おいちょっとまてコラ!

こ、こんな状況で兄を見捨てるのか?!


そして琴音さんと二人きりになってしまう。

周りで談笑している人達も泣いている琴音さんに気づき、ヒソヒソと囁き始めた。


「え、泣いてる? 何かしたの? あの人……」


「痴話喧嘩じゃね? あんな美人泣かせるとか無いわ」


「えー、可哀想……お弁当不味いとか言ったんじゃない?」


違う! 逆だ! 美味しいって言ったら泣かれたんだ!

うぅ、ど、どうすれば良いのだ……。

ととととりあえず……ここは俺の渾身のギャグで……。


「ぁ、あの、琴音さん。桜ってなんでピンクなのか知ってますか……?」


琴音さんはゆっくりと顔を上げ、涙を拭いながら首を傾げる。

鼻をすすりながら、少し考えて俺の質問に答えた。


「えっと……吸血植物だから……でしたっけ……動物の血を吸って……」


いや、それ都市伝説ですから……。

吸血植物って……蔵○じゃあるまいし……


「えっとですね、実は……」


「ただいまー」


と、絶妙なタイミングで帰ってくる晶とたかこちゃん。

俺は口をパクパクさせながら、オチを話すタイミングを完全に逃していた。


「コーラとお茶とジンジャーエールと……オレンジジュース。琴音さんどれがいい?」


「ぁ、じゃあオレンジで……」


そのまま俺にも聞いてくる晶。

ふむぅ、じゃあ……ジンジャーエールを貰おうか。


「俺ジンジャーで……」


「却下。はい、お茶」


却下されたん。

素直にお茶を受け取り飲む俺を見て、琴音さんはクスクスと笑いだした。

むむ、元気になった?


「大地さん……優しい」


そのまま微笑みながら見つめられる。

ヤヴァイ。


完全に惚れた。




 そのまま花見をしつつ、出店も回る。結局琴音さんのサンドイッチはほとんど俺が食ってしまった。

ちなみに俺の作ったオニギリは大半売れ残っている。

それでも琴音さんは美味しいと言いながら二つも食べてくれた。


そんな琴音さんの顔をまともに見る事が出来ない俺。

完全に惚れた。

やばい……コレが恋なのか.


琴音さんの車椅子を後ろから押す晶。

俺は先頭を歩き、琴音さんの顔を見ないようにしていた。

見たら絶対目を反らしてしまいそうだったから。

まともに顔が見れない。もしかしたら今俺、赤面してる?


「兄ちゃん、そろそろ旅館行かない? 風出てきたし……」


「ん? おぅ……」


そうだな、本当に風邪ひいたら大変でござる。

主に琴音さんが。




 車で花見会場から二十分ほど走り、旅館へと到着した。

質素な木造の旅館。しかしかなりの老舗で人気がある。

予約を取るのにも晶は苦労したそうだが……。


「ごめんくださーい」


荷物を持って旅館に入り呼び掛けると、何やら忙しそうに仲居さんが出てきた。


「おまたせしましたー。ご予約の方ですか?」


「はい、真田で……」


そのまま受付をする晶。


しかし


「あぁ……大変申し訳ありません……実は本日飛び込みでお客様が……それで……」





 んで、どうしてこうなった。

二部屋予約していた筈だったが、なぜか一部屋に四人放り込まれた。

ちょ……これ不味くない?! 不味いだろ! どう考えても!


晶は琴音さんに平謝りしているが……そもそも晶が悪いわけじゃない。

飛び込みがあったからって……予約してたのに!

まあ代わりにかなり値引きしてもらったあげく、料理のグレードも竹から松に変わったが。


「いいよいいよ、晶ちゃんが悪いわけじゃないし……私は全然大丈夫だけど……大地さん……平気ですか?」


え?! 平気ですかって……全然平気じゃないです……だって……琴音さんと同じ部屋で寝泊まりするなんて……! やばい、俺ドライバーなのに寝れるかな……。

今夜は寝れる自信が無い……。

しかし仕方ないのだ、部屋は一つしかないし、仲居さんの話ではこの界隈の旅館は全て満室になっているそうだ。なので俺だけ別の所に泊まる考えも当然却下された。


「いえ、俺は……押し入れの中で寝るんで……」


こうなったらドラ○もんになってやる、と思いつつ押し入れを開ける。

ふむ、結構広いな。これなら足も伸ばせそうだ。


「本気なら止めませんけど……その場合私も突入します」


「ごめんなさい」


本気で謝りつつ、とりあえずテーブルを囲んで座り一息つく事にした。

部屋の窓からも桜が見れる。

最初からここで花見でもよかったな、これ……。


「じゃあ温泉入ろっか。兄ちゃん、ここ混浴だから。久しぶりに一緒に入れるね~」


「あぁ、そうなんだ。混浴ね……」


ん?

混浴……って……なんだっけ。

え、もしかして……混ざって入浴の混浴……?


「ちょ……晶。え?! ま、マジで……?」


「何嬉しそうに鼻の下伸ばしてんの。スケベ」


クスクス笑う女三人。

いや、ちょっと待て! 不味い! それは不味い!

今この状況で混浴だと?!


そ、そんな事したら……いよいよ自分を抑えれる自信が無い……!

自然と想像してしまう。

琴音さんの入浴している姿を。


あぁ、バカ! 観覧制限付いてしまう!


「じゃあご飯の前に入ろっか。たかこちゃん、兄ちゃんと先に行ってて」


「ぁ、はい」


え、先にって……たかこちゃんだって女子だぞ?!

なんで男子の俺と先に入らねばならんのだ! 可哀想すぎるだろ!


「行きましょうか」


何の躊躇もせず温泉に向かうたかこちゃん。やばい……相手は年下なのに……

なんか俺むっちゃ心臓バクバクなってるやん。

うわぁ! 待て……待て待て待て! 

ダメだ、ここで……たかこちゃんにもしも手を出す事になったら……

もう終わる。俺の人生が。


 そのまま二人で当たり前のように脱衣場に入る。

たかこちゃんは水着もってるみたいだが……俺持ってねえ……


「ぁ、お兄さんの分も用意しといたんで……晶さんから言われて……」


「え、あ、悪いね……」


ん? 晶……さん?

たかこちゃんってば、晶の事さん付けしてるのか?

友達なのに……むむ、なんか気になるな。

もしかして晶……たかこちゃんをペットのように扱っているのでは……


「ん……っしょ……」


って、ぎゃー! 何いきなり普通に脱いでるん! この子! 危機感とか無いんかい!

全力で目を反らして顔を手で塞ぐ。やばい、完全に顔……赤くなってるぅぅぅぅ


「お兄さんお兄さん、大丈夫です」


何がやねん! 怖いわー! 最近の子は!


「僕男ですから。騙しててゴメンナサイ……でも悪いのは晶さんです……」


男ですからって! そういう問題じゃないの! 男の子が今日初めて会った男の前で服ぬぐとかって……

ん? 男……?


ゆっくりと、たかこちゃんの方を見る。

すると男性用の水着を身に着けた少年の姿が。


「え……え?! た、たかこちゃん?!」


「そうです。ゴメンナサイ……何度も言いますが悪いのは晶さんです」


むむ……なんとなく状況が飲みこめて来る。

あのアホ妹め……俺をハメやがったな……。

こんな可愛い男の子を女装させて俺を騙すとは……


「え、えっと……じゃあ名前も……」


「はぃ、本名は拓也っていいます……」


柊 拓也……もうどっからどう見ても男の娘やん!

なんてこった、晶が男装癖あるのは知ってたが……まさか正反対の友人が出来ているとは……。


コホン、と咳払いしつつ拓也君へ質問攻めする俺。


「年齢は……?」


「十七歳です」


「趣味は?」


「女装です」


「好きな食べ物は?」


「辛い物全般、あと姉さんのビーフシチューが大好物です」


「嫌いな食べ物は?」


「アボガド……」


「晶の事なんで……さん付けして呼んでるの?」


「年上だから……?」


ふむぅ。大体こんなもんか。

しかし辛い物が好きか。将来酒飲みになるかもしれぬ。

しかし……男だと分かった後でも可愛いな、この子。

なんか別の道が見えてきてしまう……。


「お兄さん……僕女装が趣味ですけど……恋愛対象は女性なので……」


「ァ、そうなん? あ、アハハ……」


ってー! なに期待してるんだ俺!

あかんですよ! ボーイズラヴとか観覧制限付くんだから!


 そんなやり取りをしつつ俺も用意してもらった水着に着替える。

ふむぅ、水着で温泉とか初めてだな……。っていうか混浴がもう初めてだわ。

ぁっ、琴音さん……晶だけで大丈夫なのかな……。


「他にお客さん居ないみたいですね……残念……」


むむっ、やはり男同士……考える事は同じだな。

でもそれより……


「拓也君……琴音さん大丈夫かな……その、晶一人で」


「ぁ、はい。大丈夫だと思いますよ。旅館の人に事前に事情説明してるんで……手伝ってもらえる事になってるんです」


マジか。前準備整ってるな……。


「はぁ……俺はそんな気遣い出来ないわ……晶はいつのまにか成長してたんだなぁ……」


何いってんだ俺。

当たり前だろう、晶だってもう大学生なんだ。いつまでも小学生なわけじゃない。


「えっ? お兄さん凄いと思いますけど……さっきの車の中でだって……」


ん? 車の中? あぁ、そういえば途中でサービスエリアに寄った時の事か……。


「タバコ吸ってくるって颯爽と車から抜け出した時、流石出来る男は違うなぁって思いましたよー」


え? え?! なんでそんな評価になるん?!


「え、えっと……拓也君、あの時何が起きてたのかな……俺サッパリなんだけど……」


やばい、コレ聞いたらアカン奴だろうか……でも気になるぅ……俺の事、琴音さんどう思ってるのか……。煙草吸うんじゃねえよとかディスられてたらどうしよう……。


「あぁ、えっと……知らないフリしててもらっても構いませんか?」


いいつつ二人で先に頭と体を洗い温泉に入る。

親父っぽくため息を吐きつつ、話を続ける拓也君。


「姉さん……半身不随で……その……尿意とかもマヒしてるから、普段オムツつけてて……」


え?! は、半身不随って……尿意も無くなるのか……


「それであの時……匂いに気づいて……サービスエリアに入って交換してたんです。ぁ、って事は……お兄さん気づいてなかったんですか……」


は、はい……全然……。


「あーっ……それなら黙ってた方が良かったのかなぁ……姉さんには絶対に言わないでくださいね……僕怒られてしまうので……」


そうなのか……凄い優しそうなお姉さんだけども……


「まあ、だからあの時……タバコ吸ってくるって颯爽と出て行った大地さん見て……凄いカッコイイと思っちゃって……僕も煙草吸おうかなぁ……」


「止めはせんけど……二十歳になってからね……」


禁煙するのに苦労するぜよ……。

それから拓也君と普段、晶はどんな感じでバイトしてるのかとかを聞いた。

どうやら元気にやっているようで安心した。

そうか……晶の執事姿か……今度行ってみようかしら。


そして数分後、晶達が温泉にやってくる。

二人とも水着姿……って、琴音さんも?! いや、当たり前なんだが!

ヤヴァイ、琴音さんの水着姿なんて直視できぬ!


「兄ちゃん兄ちゃん」


そんな俺に耳打ちしてくる晶。現在琴音さんは車椅子に乗っているのだが


「琴音さん抱っこして……温泉入れてあげて」


「……はぃ? ちょ……お前……」


グッジョブサインしてくる妹。おい、それは不味い! 色々不味い!


「クシュン……」


と、小さくクシャミが聞こえてくる。あぁ! やばい……早くしないと琴音さんが風邪ひいてしまう!

や、やるしか無いのか……?

恐る恐る琴音さんに近づく俺。やばい、眩しすぎりゅ。


「あ、あの……よろしいですか?」


「ぁ、はい……お願いします……」


落ちつけと自分に言い聞かせながら、お姫様抱っこする俺。

って、軽っ?! うぅ、高校時代にレスリング部で男をお姫様抱っこしてグランド走ってて良かった……。

まさかこんな所で役に立つとは……。


「大地さん……力持ちですね……」


「ひゃ、ひゃいっ! そ、そんな事ないですわよっ……琴音さんが……可愛いから……じゃない、軽いから……」


ぎゃぁぁ! 何言ってん! 俺! 可愛いからとか!


チラ、と琴音さんの顔を見る。

うわぁー! めちゃめちゃ恥ずかしそうにしてるやん!

モウダメダ! 俺絶対今日眠れねえ! 


「兄ちゃん、こっちこっち」


晶に手まねきされ、温泉に入る。お姫様抱っこしたまま。

あうぅぅ、やばい、理性吹き飛びそう。


琴音さんも緊張してるのかガチガチだった。

温泉入ってるのに……こんなんじゃ楽しめない……

仕方ない、ここは我が妹に……ってー! 拓也君と一緒にすんごい離れてるぅー!

こっちこいよ! 楽しく四人でワイワイ温泉入ろうZE!


「あの、大地さん……温泉旅行とか……私久しぶりで……」


む、むむぅ、俺もだ。数十年前に……まだ晶が小学生の時に家族で行った以来か。


「大地さん……彼女とか居ますか?」


うぎゃぁ! ちょ、ちょっと待って!

え、な、何……そんな事聞いてくるって事は……あかん! あかんですよ!

勘違いするな! こ、これはただの世間話だ!


「い、いや……俺今まで……彼女とか居た事ないんで……」


えーっ、と意外そうな顔をする琴音さん。

普段の俺の生活見てたら意外なんて思わないですよ、たぶん……。

とことんインドアだし……。


「なんで……恋人作らなかったんですか?」


なんで……なんでって……なんでだろう?

いや、ただ単純にモテなかっただけだが……。

女子と顔を合わせれば赤面して黙りこくっちゃうし……。


うーむ、なんて答えれば……。

まあ正直に言えば父親が死んだからか。


「まあ……晶がちゃんとするまでは……俺が父親代わりにならないと……って感じでしょうか……」


シーンと静まり返る。

やばい! 琴音さんメッチャ気つかってるやん!

父親死んだのなんて、もう十五年も前の話だし……

ど、どうしよう。気にしないで~とか言うべきだろうか。


「私も……拓也が一人前になるまで恋人は作らないって決めてたんです。でもこの間……拓也に言われちゃって……」


むむ、拓也君何言ったんだ。あれ? ってことは……もしかして琴音さんの両親も……。


「姉さんに大切な人が出来るまで……僕が支えるからって……言われちゃって……」


グス……と泣きだす琴音さん。

ちょ、ちょちょっ! ど、どうすればいいん?!


困惑する俺に甘えるように体を預けてくる琴音さん。


ぁ、やばい……理性無くなりそう。

誰か……晶……俺を止めてくれぇ!


「大地さん……」


「ふぁ、ふぁい……」


凄い見つめられる。

え、いや、初対面なんですけども……

こ、このままキスするパターン?! 

え、なんか琴音さん目瞑りだしたし!


ちょ、待って! 待って!


「俺……琴音さんの事……もっと知りたいです……。ヘタレですみません……だから……」


何か……気の利いた事を言うんだ!


「琴音さんも……俺の事、もっとしてほしいって思うし……え、えっと……だから……その……」


いやいや、何言ってるん俺!

やばい、やばい!


「兄ちゃん、そろそろ出ない? 琴音さんも顔真っ赤だし……」


「ふぁっ?! お、おう、ソウダナ……」


そのまま琴音さんを抱っこしたまま温泉から出る。

これから女性陣だけで体を洗いっこするらしい。

なんてうらやま……




 それから女性陣が部屋に戻ってくるまで、拓也君と旅館内を探検する。

むむ、ダーツとか卓球台もあるな。

やっぱり旅館に来たら卓球なのか……俺超苦手だけども……。


「ぁ、マッサージとかもあるんですね。大地さんしてもらった事あります?」


「いや、整体ならあるけど……同じようなもんなのかな……」


高校時代に通っていた整体師は……。

なんか男連れ込んでたし。ちなみにその整体師も男だ。


そんなこんなで温泉を出てから三十分程探検して部屋に戻ると、既に仲居さんが料理を運び込んでいた。


すげえ、グレード上がって松になったわけだが……むっちゃ豪華になってる……。


それから女性陣も戻って来て四人で食卓を囲む。


むむ、蟹とかある……すげえ。

こっちは飛騨牛だろうか……牛肉が光ってる……。


夢中になって会話も忘れて食べまくる四人。

蟹を食うと無言になると言うが、マジだったんだ……それに気づいた琴音さんがクスクスと笑いだし、続いて晶、拓也君も気づいて笑顔になる。


「ほら、兄ちゃん」


「ん? お、おう」


晶にビールを注がれる俺。

俺も晶に注ぎ返す。

そうか、晶も二十歳だもんなぁ、ビール飲めるよなぁ。

冷蔵庫の中身ツマミだけだったもんな、ゴルァ。


ちなみに琴音さんと拓也君はオレンジジュース。

琴音さんは酒を飲むと壊れるから控えてるらしい。

そんな事を聞くと一度飲ませてみたいが……いや、今日は勧めるの止めとこう……俺も酔ってて何するか分からんし……。


「姉さん、今日くらいお酒飲んだら? たまにはいいでしょ」


っておい! 拓也君! あかんて! 俺のHPはもう○よ!?


「んー、でも……」


俺の方をチラチラみつつ躊躇う琴音さん。

う、うぐぅ、どうしよう……どうするべきか……。

まあ、ちょっとくらいなら大丈夫か……


「琴音さん、俺らに気使う事ないですから。飲みたくなかったら俺が飲みますんで」


言いつつグラスにビールを注いで琴音さんの前に。

恐る恐る口を付ける琴音さん。


まあ漫画じゃあるまいし……一口飲んで別人に豹変するなんてあり得ない……ってー! 一気飲みしてる?!


だ、大丈夫か?!


「んっ……ぷぁ……美味しい……もう一杯……」


「えっ、ぁ、はい……」


差し出されたグラスに注ぐ俺。

え、琴音さんって実は酒豪だったり……。


「ぷはぁーっ……ぁー……大地さん……カッコイイよー……どうしよう……拓也きゅんー……」


その発言に耳を疑う三人。

晶は呆然とし、拓也君はどこか嬉しそうに俺に羨望の眼差しを向けてくる。

そして俺は……


完全に酒とは別の理由で顔を赤くしていた。


か、かっこいいって……本日三回目ですが……。

いや、今回のは酒入ってるんだ。ブンブンと頭を振りつつ冷静になろうとする。

しかし俺も酔っている。

やばい、こんな状態で琴音さんと一緒の部屋でなんか寝れぬ!


「ちょ、ちょっと俺……風に当たってくるわ……」


頭を冷やす為、ちょっと外で煙草吸って来ようと立ち上がる。


「ぁー、私もいくぅー……」


と言いながら浴衣の裾を引っ張ってくる琴音さん。

え、いや、あの……ど、どうしよう?

晶に助けを求めるが、止める所か車椅子を準備しだしている。


「兄ちゃん……分かってるよね……?」


そう耳打ちしてくる晶さん。え、分かってるって……何が?


「琴音さん……風邪ひいちゃうから、すぐ戻って来て」


ぁ、そういうことね。分かりました……。


「キスくらいで帰って来て。それ以上はまた今度って事で」


お前も酔ってんな?! しねえよ! さっき温泉でやばかったけど!


 そのまま琴音さんを車椅子に乗せ、旅館の正面玄関から庭園に出る。

夜桜が月に掛かって綺麗だった。

酔ってるせいもあるかもしれないが、こんな綺麗な光景は見た事が無いとも思ってしまう程に。


「大地さん……オチ……」


オチ? ぁ、そういえば……花見の時に桜がなんでピンク色なのかとか……自分で言ってて忘れてた。

晶が絶妙なタイミングで帰ってきたから言えずに終わってたんだった……。


「えっと……」


オチ……そうだ、オチを言わねば……。

夜桜の近くまで行き、琴音さんと一緒に見上げる。

ヤバイくらいに綺麗だ。

本日ヤバイって何回言ってるのか。

作者困ったらヤバイって書くのがクセになってるからな。


「えっと……琴音さん。桜が何てピンクなのかっていうと……」


「はい……」


そっと目線を合わせる様に、琴音さんの正面にしゃがむ。

両手を取って、冷たい手を温まるように包み込んだ。


「昔からよく……桜の木の下で告白するカップルは結ばれるとかって……いうじゃないですか」


「……はい」


「それで……それを聞きつけた男女が……続々と桜の木の下で告白するもんだから……桜も恥ずかしくなって赤面しちゃったんです」


「…………」


「だから……この桜も……また少し赤くなっちゃうかもしれません……」


「……はい……」


「琴音さん……俺と……付き合ってください……」


そっと頬を撫でるように風が吹く。

桜の花びらが琴音さんの膝の上に一つ落ちてきた。

それと同時に、琴音さんの手を包む俺の手の上にも一粒の雫が。


「はい……」


その日、とある旅館の桜の花は


少しだけ赤くなった。


気がする。



最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。


是非花見に行きましょう! 恋の花が咲くかも……(*'ω'*)


煙草とお酒は二十歳から!!

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[良い点] キャラクターバトンから飛んできました。キャラバトンも秀逸ですが、やっぱ本文が最高ですね! お兄ちゃんの心の声が最高です。桜とかけたオチも。 二回の惚れた。も!! 読んでいて楽しかったです…
[良い点] たこすさんと小鳩さんにオススメされて、またまた読みに来ました! 前半、笑いました。繰り返される「シスコンではない」というセリフと数々の苦難(笑) 妹よ!電子レンジは買ってもらっちゃいなさい…
[良い点] お、面白すぎて、2度読み3度読みしてしまいました!! すごい、本当に面白いです。 爆笑、爆笑、最後にズキュン。 私が一番大好きな展開で、本当にすごくよかったです。 ヤバイ(笑) [一言]…
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