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霖雨蒼生流の門下生  作者: zinto
第二章
9/43

密談

グランドから講義で野球やサッカーなどを行う生徒たちの声が聞こえてくる。


しかし、一般の高校の体育とはどこか様子が違う。


そう、これは選択科目として各種スポーツを専攻している生徒達の講義だ。


取り組む生徒たちの表情は真剣そのもの、


そしてそれを教えている指導者も名のある監督や元プロ、そう言った者達が指導にあたっていた。


設備などを見ても、プロが使用する物と遜色ないように見える。


学校内での各教室では理系、文系などの専門的な講義は勿論のこと、


歌や踊り、演劇、料理、IT、美術、服飾などなど多種多様な講義が


こちらも一流の講師によって行われ、生徒達の目には信念が宿っているのがわかる。



学園中の空気がピンッと張り詰めている中で、


その空気にはそぐわない、ダラケタ雰囲気の部屋が1つあった……



「結局機嫌取りはできなかったみたいだね」


他人事だと思って和輝は楽しそうだ。


「……機嫌取るも何も、取り付く島も無いのにどうしろっていうんだよ」


隼人はゴロンとソファに寝ころびながらすねている。


ここは生徒会室の隣にある本来ならば備品などが置かれる一室だ。


だが、近年使われていなかったことに目を付けた和輝が


生徒会の仕事を手伝っている代わりに好きに使わせてもらっている


学園での隼人達の隠れ家……そんなような場所である。


辺りを見渡すと、どこから持ってきたのかソファや机、冷蔵庫なんかも置かれていて


なかなかの快適空間だ。


棚や机の上には可愛らしい造花なども飾られているところから見ても、


隼人と和輝だけではなくアスナもここに入り浸っていることがうかがえる。



「まぁまぁ拗ねない拗ねない。


それだけアスナちゃんが隼人のことを好きなんだろう」


そんなことを言っている和輝の口調は相変わらず笑いをこらえながらと言うのが容易にわかる。


「笑ってるけどさ……


うちの実権は母さんが1、次いで2はアスナなんだ……


そして、1を怒らせると2も……


2を怒らせると1も……


かなりの確率で結託するから俺は笑えないんだよ。


それにさ……俺は咎められるようなことはしてないのに…」


隼人の頭に3日間晩御飯抜きの悪夢がよぎる……


なかなかの大食いの隼人にとっては死活問題だ。


「ごめんごめん……ククッ」


「………」


「わるかった。もう笑わないよ」


呼吸を整えた和輝が気を取り直して話しかけてきた。


「それで? 問題の三千院さんとはどんな知り合いなの?」


学園で周囲から俺は運動神経がかなり優れている生徒……と言う認識を持たれているのだが、


家業のことを知っている人はほとんどいないし、


更に力のことまで知っているとなるとアスナを除けば


和輝ともう一人くらいだ。


和輝なら今回のことを話しても何の問題もないだろう。


「それがさ……話すとまぁほどほどには長くなるんだけどさ……」



言葉通り今度こそ笑うのを止めた和輝につい先日起こった


黒服達の襲撃事件のこと、


そして、三千院と知り合ったきっかけになったパーティのことを話した。



「なるほどね……


偶然にも隼人が2度も三千院さんのピンチを救ったことになるわけだ……


その結果があの態度なわけか……」


ブツブツ呟きながら笑うとは違う…ニヤける?


そんな表情をした和輝だったが、すぐに真面目な顔にもどると


「三千院さんは警察を頼らなかった……


と言うことは、相手に思い当たる節があるんだろうね。


あれだけ大きい企業だし、複雑な事情も多そうだ……


流石に三千院さん個人の原因でそんな連中に襲われるようなことは考えにくいし。


そして……そんな物騒なことが起こっていることは世間に知られたくない……」


今度はなにやら考えだした。


「表沙汰にはならない裏の出来事か……


そんな連中がこの町に入り込んできてるんだ、


あいつならそう言ったことの情報は持ってそうだけど……


まったく、人が珍しく必要とした時にはいないな……あのバカは」



和輝がバカと言っているのは晃のことだろう。


東堂(とうどう) (あきら) 俺の中学からの友達で、


この辺りでは有名な極道の親分を父に持つ、若頭だ。


確かに今日は見ていない。


まぁ晃が学園を休むことはよくあることだ。



ちなみに和輝は中学の間留学していたので晃との面識は高校からと言うことになる。


今でこそ俺、アスナ、和輝、晃の4人で行動したりするけど、


初めて和輝と晃が顔を合わせたときはそれはもう大変だった……



「僕が目を離している間に隼人とアスナちゃんに害虫が付いた。


これだから2人は目が離せないんだ!」


和輝がそう言ったかと思うと、


「てめーみたいな陰険眼鏡野郎が義理人情に厚い隼人やアスナちゃんの


幼馴染とは笑わせてくれる。こんな喜劇見たことないぜ!!」


まさしく犬猿の仲だった……



それがどうだろう……


ある時二人が怪我だらけで登校してきた日を境に、


今でもよくぶつかっているけど……


以前とは違う、どこかお互いに認めるところがある……


そんな雰囲気を感じるようになった。



「そうだね……


晃ならこの町のそう言ったことに詳しいからなにか情報とかもってるかもね」


「助けに入ったのが隼人だったからよかったけど、


多分それ、たまたま通りかかって目撃してしまっただけの人でも……」


隼人と和輝の顔が険しくなる。



「そんな連中に狙われている生徒がこの学園に通うようになったんだ。


事件が解決するまで、用心するに越したことはないよ」


確かにそうだ……


あれだけの手練れを送り込んでの襲撃。


相手はその後の手も既に打っていたはずだ。


それをたまたま通りかかった俺に潰されて、オメオメとこのまま引き下がるとは思えない。


そしてその対象は俺達と同じ学園に通学している…



「……今日、三千院さんが自己紹介を終えて自分の席に戻ろうとしたとき


どこからかすごく嫌な視線を感じた……」


「それって…」


「そうだね……その時は気のせいかとも思ったけど


相手は諦めていないよ……」


「………」


「とりあえず、身に降りかかる火の粉は全力で振り払う。


アスナだっているんだ、そんな物騒な連中にこの町をうろつかれたらたまらない」


「そういうことなら僕も協力するよ。


アスナちゃんがすぐに変なのに声かけられるから登下校はいつも一緒だけど、


いつも以上に一人にはしないでおこう。


まぁ隼人と二人でいても二人まとめて変なのに声をかけられるけどね……プッ」



和輝が隼人のタブーに振れたその時、


隼人の恐ろしく速いチョップが風を切り裂く音と共に和輝の頭部めがけて繰り出される。



しかし、和輝はそれを寸前のところでかわす。



見ればいつの間にか眼鏡をはずしている……


「卑怯だぞ!!」


「何言ってんだよ。


隼人が本気なら流石にかわし切れないよ」


常人では何をやったのかわからないほどの速さで行われた二人の応酬……



見れば二人の顔は笑っている。


世の達人と呼ばれるような人達が見れば顎が外れるようなことも


二人にとっては遊びの一環なのだ……




「………お二人ともとても仲がよろしいんですね」


第三者から突然かけられた声に二人は驚いて入り口に目をやる。


そこには三千院と茜が並んで立っていた。


いくら和輝に意識を集中していたとはいえ、


人が部屋の中まで入ってきて気が付かないと言うのは隼人に限って言えばありえない……


あの刀といい……三千院、それに茜もなにかやっているのかもしれない……



「三千院さん。どうしてこちらに?」


先に声をかけたのは和輝だ。


「実は私の転校は急に決まりました。


それ故、今行われております、選択講義の準備まで学園側が間に合わなかったようでして……


どの科目を専攻するか見学をしてきてほしいとのこと。


折角ですから隼人様のお姿を拝見しようと思ったのですが、なにやらそこでは自習中。


ですが隼人様がいらっしゃらないので茜に探させた……と言うことです」


ニッコリと笑うその姿とは正反対に何気に恐ろしいことを言っている……


茜に探させたとは……この人はどうやってここを探し当てたんだろうか……


茜と呼ばれているメイド服の美女を隼人は改めてよく見てみる。



すらっと伸びた足や綺麗な瞳、肩につくくらいの長さので切り揃えられたセミロングの髪型も


よく似合っている。


でも、腰のラインの辺りにわずかな違和感を感じる……


なにか隠しているのか?


それにごく普通に立っているように見えて重心を置く位置も普通とは違う……


この人は普通のメイドじゃない……


いや、まぁメイドなんて呼ばれる存在自体が普通じゃないんだけど……


心の中で思わず自分でツッコミを入れてしまう。



「隼人様……そんなに見つめられますと茜は照れてしまいます……」


「え?」


茜は表情こそ無表情に近いがその頬は赤く染まり、


両手で頬を覆って恥ずかしそうにしている。


確かに見れば見るほどその美貌とは無関係のところが気になりだし、


思わず見つめてしまっていたけど、


この人クールビューティーだと思ったのにこういうことを言う人なのか?


「どうやら茜は隼人様を大変気に入ったようでして……


普段は殿方をこう毛嫌いするところがあるので、よく態度のことで注意してはいたのです。


私が初めて助けていただいた時のことや、


先日のことを話しても特に隼人様のことには興味を持たなかったのですが……


制服をお渡しいたときに……その……”理想の女性”……いえ……その美貌で殿方……


なにやらそのようなことを申していまして……」


「ああ……申し訳ありません……隼人様にはお嬢様と言う御方がいらっしゃるのに……


でもわたくし…生涯殿方にこのような感情を持つなどありえないと思っておりましたので……


お嬢様……茜は隼人様への気持ちが抑えられません……」


「良いのです茜。


隼人様の魅力に茜が気が付いてくれて私嬉しいです。


二人で隼人様をお慕いしていきましょうね!」


「お嬢様……なんという御心の広いお方……茜生涯お嬢様に仕えていきます」


俺と和輝のことなど置き去りにして二人はひしと両手を掴み合っている。



「いや~隼人の魅力はすごいな!流石”理想の女性”」


三千院の一言を和輝が聞き逃すはずもなく……


美人な女性からまぁ告白?なんだろうな…されたにもかかわらず……


”理想の女性”ってなんだよ……


隼人はそのプライドから全く喜べないのだった……




そんなやり取りも一段落して


折角お客さんが来たんだからと和輝に促され、4人はソファに腰かけた。


「なにか飲む? と言っても三千院の口に合うようなものはおいてないけど……」


「まぁ隼人様……そんな……三千院などと……


他人行儀な呼び方はおやめください………


どうか………どうか……」


この後世界が滅びるのではないか……そんな絶望的な表情をする三千院に思わずビビる。


「ええ……!?


じゃあなんて呼べば?」


「下の名前で読んでくださいませ……」


茜の時と同等か…それ以上にこちらの頬も赤い


「……じゃ、じゃあ……怜奈?」


「きゃーーーーーー!!! やりましたわ茜!!! 呼び捨てですよ!!!!」


「やりましたね……お嬢様。正直御家族以外の殿方がお嬢様の名前を呼び捨てにする日が来るかもしれないと


考えるだけでこの茜、夜も眠れませんでしたが……


隼人様という素晴らしい御方なら……涙が止まりません」


「ああ……茜……」


「お嬢様」


今度は二人がひしと抱き合った……


「どうするのこれ?」


「さぁ………?」


隼人と和輝が困り果てていると、



「………コホン! 失礼いたしました」


「申し訳ありません……お見苦しい姿を……」


我に返った二人は恥ずかしさからだろう部屋を見渡している。



「ここはどういった部屋なのです?


見れば手入れも行き届いていますし……このお花もセンスがあって非常にいいです」



恐らく怜奈の目は華やかな世界で養われているだろう……


その怜奈にセンスがあると言わせるのだ……やるな! アスナ


「ここは……まぁ本来は備品置き場になるんだろうけど


和輝がうまく話をつけてね……俺達が休み時間に集まったり、


今日みたいに自習になったり……そんな時にナイショで勝手に使ってる部屋かな……


入り口なんて生徒会室の本棚の奥だし……


普通ばれないと思うんだけどよくここがわかったよね?」


隼人は疑問を茜にぶつける。


「ええ……お嬢様から隼人様の動向には気を払っておくように仰せつかっておりましたので、


生徒会室の方に向かわれているのは把握しておりました。


ですがその後出てくる様子はなく、お嬢様と中に入ってみるとその姿はない……


始めは驚きましたが、窓から外を見てみると隣に窓があり、人の気配がしましたもので」


……やっぱり動向をおさえられてるのか、俺は犯罪者か何かだろうか……


でも待てよ……


あ………


注意深く探ってみると、確かに普通の人と違う気配が学園の中に複数ある気がする……



「……流石隼人様です。


もう勘付かれてしまいましたか……」


茜が驚きの声をあげる。


「え? 何?」


わけのわからない和輝は俺と茜さんを交互に見ている。


「ん~……


なんか俺の動向を探ってたみたいなことを言ってたけど、


茜さんは恐らく常に怜奈……についてるだろ?


なのにここに入るのがわかってたってことは他に俺を見ている人がいたのかな?


と思って、気配を探ってみたら普通の人とは明らかに違う……なんていうのかな……


気配がほとんどない? 人が複数この学園にいるなって」


和輝の頭の上に?が出ているのがわかる。


まぁ口で言ってもあんまり伝わらないよな……


「でも茜さん。こんな普通の学園にあんな気配の人が複数いるとかえって目立ちますよ?」


「これは御戯れを……隼人様。


正直この気配に気が付かれる物などそうそうおりません……」


怜奈と茜の表情からは称賛そういった物が読み取れる。


「確か雑賀さん……でしたよね?」


「和輝でいいよ」


「……でしたら和輝さん。


和輝さんは隼人様の古くからのご友人と言うことでよろしいのでしょうか?」


「そうだね、小学校1年の頃からの親友になるね」


それを聞き、怜奈の視線が隼人をチラリとみる。


「……でしたら隼人様のお家のことや……力のことは……」


「うん知ってるよ。和輝は全部知ってる。


それにごめん、和輝はとても頼りになるから……勝手に先日の事件のことを話してしまった」


「そうですか。でしたら問題ありませんね。


事件のことも隼人様が信用できると判断されたのでしたら、


お話していただいても問題ありません。


……では、茜改めて御挨拶なさい」


「はいお嬢様……」


茜さんが指を鳴らすと突如音もなく4人がどこからともなく現れる。


「!?」


和輝は流石に驚いているようだ。


その姿を見ると、


忍び装束を思わせるピッチリとした黒い服からはどれも女性的なラインがうかがえる。


しかしその顔はどれも狐のお面に隠されて、表情を読み解くことはできない。


「皆控えなさい……」


茜さんのその言葉に4人は一糸乱れずに片膝をつく。


「……隼人様。


お初に御目にかかります。


我ら5人、怜奈様の御世話と身辺警護を務めさせていただいております。


そして、総括の一文字(いちもんじ) 茜と申します。


以後お見知りおきを……」


そう言いながら茜さんも俺の前で片膝をつく。


「大変遅くなりましたが、隼人様……


先日はお嬢様の危ないところをお助けいただき本当にありがとうございます。


隼人様には我らと言う存在があるにもかかわらず2度もお嬢様をお助けいただき……


なんと申せばいいか……もう言葉すら出てきません」


茜さんと後ろの5人が床に頭が付いてしまいそうな深く、深く頭を下げる。


「いや……そんな……やめてください。


どうか顔を上げてください……」


しかし、一向に頭を上げてくれない……


でもおかしいな……こんな人達が付いているなら


先日の事件ならまだしも、パーティーの犯人程度なら相手にすらならなそうだけど……


「パーティーのあの事件のときも皆さんが警護を務めてたんですか?」


その問いかけにやっと頭を上げてくれた。


「はい……我らでございます……


ですがあの当時、海外に留学されておられました、奏多様の御世話と身辺警備を啓一様より


仰せつかっておりましたので……」


なるほど、そういうことか


国外にいては助けようもない。


でもまた気になることが出てきた……


「今怜奈の警護って……」


「当時通常警備の上に立つ特殊な存在は我らだけでした……


ですが、あの事件があってからは、


当主の啓一様、夫人の百合子様、ご子息の奏多様それぞれに


専用の身辺の御世話と警護を行う物がついており、


我らは怜奈様専属と言う任を仰せつかっております」


家の中で誘拐がおこりかけたんだ……そりゃ警護の重要度は吊り上がるよな。


「そういうことだったんですね……


では先日の襲撃の時は……?」


「はい……じつはお嬢様が偶然にも隼人様と遭遇する直前に本隊と思われる者達から


すでに襲撃を受けておりました……」


「え!? あいつらだけじゃなかったんですか?」


「最初に襲ってきた賊の中に我らと同程度……と思われる者達が少なくとも4名ほど


見受けられました……


お嬢様に隼人様との一件を後ほどお聞きいたしましたが……


刀で武装していた物と技量は似ているかと……」


正直俺としては特に問題なく対処できたけど、あの刀を持っていた男は世間一般的には


かなりの実力者の部類……だと思う。銃を持っていた連中も雑魚ではなかった。


あれが本隊じゃなかったのか?


「実力者の構成などから1隊集中の短期強襲と睨み、


お嬢様の安全を第一に、残りの護衛と共に先にお逃げ頂いたのですが……


まさかまだそれほどの実力者の別動隊を隠していようとは……


なんとか賊を退け、お嬢様の元に向かった時には、


隼人様が手配された者たちが隠蔽作業をしてる所でございました……


この茜……面目次第もございません」


茜さんは下唇を強くかみしめている…


「あの夜も言いましたが……良いのです、茜。


あの状況ではあれが最善の策だったと私も思います。


茜は何も間違った行いをしていません。


それに私も剣に生きる端くれ……


あの男一人くらいであればなんとかなったかもしれませんが……」


茜さんのひどく落ち込んでいる背中を怜奈が優しく撫でている。



その反対の手に持っている美しい紫色の包みが目にはいった。


恐らくあの時に見た見事な刀だろう。


常に携帯しているところと、左手薬指の付け根辺りのタコから怜奈がこれを振るうんだろう……


とは予測していたけけど……今なかなかお嬢様からは出てこなさそうな台詞を聞いたな……


ちょっと聞いてみるか……



「怜奈? あの刀の男一人くらいならどうにかなったの……?」


俺の急な問いかけに怜奈が驚きの表情をむける。


「え? ……ええ。


実は私、隼人様に助けていただいたあの日に自分の置かれている環境を理解しました……


それまでは正直、自分の立場といいますか……そういった物を考えたことなどありませんでした」


それは仕方のないことだろう……


その辺りをしっかりと理解して自ら行動している……そんな子供がいるだろうか?


「それから数日幼いながらに考えました……


家族や周囲の皆には反対されたのですが、それを押し切る形で茜の御師匠様である


桐生(きりゅう) 徹扇(てっせん)様に弟子入りをいたしました」


あの危機的状況を経験したから自らの護身に意識が回ったんだな……


それに桐生という名前はどこかで聞いたことがあるきがする……


まぁ爺ちゃんの話のどこかに出てきたことがあるんだろう


隼人がそう納得していると


「私の軽率な行動のために、関係のない、幼い隼人様を危険な目にあわせてしまった……


私の立場上、どうしても周囲には護衛してくださる人達がいます。


きっと今後もその方達を危険に晒すこともあると思います……


ですから、私が強くなれば私を守ってくださる人達を守れるのではないかと考えたのです」


予想の遥か斜め上の言葉に隼人と和輝からは驚きの表情が見て取れる。


「自分でもおかしなことを言っているのはわかっております。


ですが、守られるだけでは駄目だと考えました。


我が三千院グループには直系だけでも数百万を超える社員がおります、


その御家族までとなると……


それだけの人々の支えの元に私達はあるのです。


私は守られる前に守りたい。


三千院グループの皆を守りたいのです。


そしていつの日か隼人様を御守りしたい……そんな思いから必死で鍛錬いたしました」


「お言葉を挟み申し訳ありませんが……お嬢様の御覚悟は本物でした。


正直我らや周囲もここまで反対しても曲げないのならば、


思うようにやらせれば鍛錬の過酷さからすぐに音を上げて辞めるだろうと思っておりました。


ですが、結果は違いました……わが師も驚くほどに鍛錬に耐え、


その感覚もみるみる研ぎ澄まされて行きました。


お恥ずかしながら、お嬢様の実力は我らと同程度かと……」



そんな覚悟があったのか……


そしてその怜奈の実力……


正直怜奈を侮っていた……



「御師匠様から免許皆伝も頂き、


この刀、【久遠】を授かりました」


怜奈はとても大事そうに……そして愛おしそうに自らの刀を抱きしめる。


「そんな矢先です。お父様から例の件のお許しも出たので、


これで、今度は私が隼人様を御守りできると


喜び勇んで飛び出してみればあのような事態に……


昔の自分とは違う。そう思ったのですが……あれほどの数の手練を揃えられてしまっては……


ですがそんな時にまた、隼人様は私を助けてくださいました。


あれ程の者達をまるで赤子の手を捻る様に御一人で倒されていく……


隼人様は私の想像の遥か彼方を歩んでおられました……


私如きが隼人様を御守りするなど……なんと浅はかな考えでしょうか……」


怜奈は俯いてしまった…


彼女の努力が報われなかった…そんな風に思っているのではないだろうか?


なにかフォローしなくては……


隼人が怜奈に近づいたそのとき



ガバッ!!!!!



物凄い勢いで抱きつかれ思わず態勢を後ろに崩し、


怜奈が俺に抱きついたまま馬乗りになる状態になってしまった……


「やはり隼人様はすごいです!! すごすぎます!!!


それでこそ私の愛しい人です!!! ああ……やはり私の運命の……」


怜奈の目には明確にハートマークが見て取れる。


「ちょ!? ちょっと!!」


更にはモゾモゾと頭や顔更には身体…なんかを擦り付けてくる。


あまりの事態に俺がワタワタしていると


「おお~これはこれは……」


「まぁ! お嬢様なんて大胆な! 羨ましい……茜も隼人様と……いえ!


とてもお似合いで御座います」


和輝と茜さんはとても興味深そうで見ているだけで助けてくれない……


更に後ろに控えていた人達は一糸乱れぬ拍手を披露している。


なんなんだよ……


でも今回は母さんの時とは違う! これならば自力で抜けられる。


怜奈の束縛から逃れようと行動を開始した直後


生徒会室の自動ドアが開く音がする。


時計を見るといつの間にか4時限目は終了し、昼休みに突入していた。


昼休みに生徒会室にやってくる生徒は殆どいない……


つまり……


「マズイ……ちょっと怜奈! 離れて!!」


今思えば自分で抜けられると思ったばかりなのに、


この後現れるであろう人物とその後に待っている事態を想像してパニックになっていたんだと思う……


ガチャ


案の定何の迷いも無くここの部屋のドアが開かれる。


そして先ず目に入ってくるのはピッチリとした黒い服を着て狐のお面をつけた


なぜか拍手をする女性達。


「!!!? 何? 貴方達??」


次に何かに注目して視線を下に向けている和輝と朝教室に現れた女性。


「え? 何であなたがここに??」


そして勿論その視線を追って下を向くだろう……


終わった。


そこには床に寝転んでいる隼人とそれに抱きつき喘いでいる三千院怜奈……



隼人はチラリとアスナを見る。



なんだ……まだいるんじゃん……阿修羅。

実は頭の中で今回はここまで書こう!と思ってた部分の半分くらいかな?

そこまでしか到達していません……

書いてたら楽しくなって…どんどん文字数が増えます……

丁度キリがいいんで分割にしました。


修羅場ですね……


ちなみに隼人がアスナの後ろに見えている阿修羅ですが、

某週刊少年誌の…残念ながらまた休刊に入ってしまった大人気漫画で、

観音様の能力を使う爺ちゃんを想像してくれると近いと思います!


アスナ怖い……

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