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霖雨蒼生流の門下生  作者: zinto
第一章
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救出

それは12歳の夏休みの頃だったと思う。


親父からVIPの人達が集う立食パーティーに招待されたから家族みんなで行こうと言われ、


俺とアスナは指折り数えて今か今かと楽しみにしていた。


だけど、その当日の朝にアスナが高熱を出してしまって……一度は皆で欠席しようか?


って流れになったんだけど、



「私がアスナを看病するわ。


せっかくの機会なんだからあなたと隼人で楽しんできて」


と言う母さんと


「お兄ちゃん……ごめんね……お熱出ちゃって……


お兄ちゃんも楽しみにしてたんだからアスナの分もお料理食べてきてね……」


自分が一番行きたかったろうに涙目で謝ってくるアスナに背中を押されて、


親父と二人で立食パーティーに出席したんだ。



会場はお城と言われても遜色無いそんな場所だった。


中には巨大なシャンデリアをはじめ、


噴水があったり、


踏むと足が沈み込むようなフカフカの絨毯が敷き詰められていたり……


ちなみに土足はダメだと思って絨毯の前で綺麗に靴を脱いで揃えていたら、


優しそうな執事のおじいさんに、


「”お嬢様”土足で大丈夫ですよ


御召し物が男性用なのは仮装かなにかですかな?


よくお似合いですよ」


と優しく注意されてしまったことは今でも鮮明に心に突き刺さっている……



それはそれは豪華絢爛な場所だった。


見たこともないような料理が山のようにあったし、


会場の隅ではたくさんの人が楽器を演奏していた。



始めのうちは見るものすべてが新鮮でテンションも上がりっぱなしだったけど、


家に残してきたアスナも喜んだだろうな……と考えるとあまり楽しめなくなった。


親父はいろんな人に声をかけられてとても帰りたい……なんて言える雰囲気じゃなかったし……


そんな煌びやかな場所から俺の足は自然と静かな場所に向かっていった。



たどり着いた先は広大な庭。


そこではパーティー会場の賑わいが嘘のように静かで穏やかな空気が流れていた。


中央に配置されている巨大な噴水を中心に物がシンメトリーに配置されている。


自宅の日本庭園とはあまりにも違うこの空間は何処かの異世界? だろうか…


そんな不思議な雰囲気さえ漂ってくる。


芝生や花壇の花、生垣、青々とした樹木、


どれも手入れが行き届いており、


生き生きとした緑の香りがモヤモヤとした心を包み込んでくれるようだった。




時間になるまでここでのんびりしていようかな……


そんなことを考えていた時、


微かだけど女の子の悲鳴のようなものが聞こえた。


普通の人では聞き逃してしまう……そんなか細い悲鳴だ。


俺は悲鳴が聞こえたと思う庭の隅に視線を向ける。



力のおかげで意識すれば暗がりでも難なく見渡すことができた。



……見つけた!



2人組の男だろうか……コソコソと麻袋に何か詰めたかと思うと


ガタイが良い方の男がそれを担いで広大な庭の奥へと向かっていく……



なにやってるんだろう……



でも間違いなく女の子の悲鳴はあちらから聞こえた……


そんなことを思いながら注意深く見ていると



麻袋が動いてる?



間違いない……袋の中に入っている物がモゾモゾと動いているのだ。


「おとなしくしろ!!」


ついにはそんな声まで隼人の耳に届いてきた。


男達と隼人はかなり距離が離れているため、向こうはこちらの存在なんて認識すらしていないだろう。


助けを呼ばないと……


そう思ったのだが、賑やかなパーティーの最中に子供の助けなどすぐに信じてくれる人がいるだろうか……


親父を探し出しても、その時にはもう女の子は連れ去られてしまっているんじゃないのか?


そんな考えが頭を駆け巡る。



「俺が助けよう」



そう決断すると驚くほど速く身体は動いた。


相手は成人の男二人……さらに一人は見事なガタイだ。


闇に乗じて急所を一撃で打ち抜かないと流石に勝算は低くなる……


なにか武器だって持っているかもしれない。


その点タキシードを着ていて良かった。


全身黒ずくめの衣装は闇に溶け込みやすい。



力があるとはいえ俺はまだ12歳のガキだ……


手加減など考えていれば返り討ちにされかねない…


今俺にできるありったけで……!!!



隼人の眼が色濃く蒼色に染まっていく……


闇夜に溶け込んだ小さい身体が一陣の風の如く凄まじいスピードで駆ける



男達は気がつかない……


パーティー会場からはかなり離れた。


この暗がりだ……


ここまでくればすぐには自分達を追ってくることはできない。


後はこの高い塀を乗り越えて外に待機させてある車に乗り込めば自分たちの仕事は終了だ。


待っているのは見たこともないほどの報酬……


そう言った男達の気のゆるみも隼人に味方した。



十分な距離からの全力疾走……


良好な視界、無防備な相手……条件はすべて揃った。



先に片付けるべきは…ガタイの良い男!!!


狙いは顎先! 俺の全体重×スピード×腕力で……打ち抜く!!!!



ゴギャァァ!!!



人間を殴ってこんな音がするのだろうか……


そんな不思議な音をあたりに響かせながら糸が切れた操り人形のように男は崩れ落ちた。


地面に放り出される形になってしまった麻袋から衝撃で何かが飛び出してきた。


人だ。


その人物に一瞬目を奪われた。


それは見事な着物に身を包んだお人形のように美しい女の子だった。


さっきまで見ていたパーティー会場の出席者や西洋風の庭などからはかけ離れたその姿に、


どこか現実離れした印象を受ける。


みると手足は縛られ、口には詰め物をされているようだ……


モゴモゴと何か言っている。


「やっぱり……」


隼人は自分の耳に届いた声が聞き間違えでは無かったことに安堵する。


「な!? なにがおこった!!?


おい! しっかりしろ!!」


幸いにも残ったもう一人はまだ状況を把握できていないようだ。



ドゴォ!!



情け容赦の無い凄まじい蹴りが後頭部に決まり、


鈍い音とともにもう一人の男も動かなくなった。




「…………」




周囲の状況に気を張り巡らせる。


高い塀の向こうに車と一人だろうか……人の気配を感じる……


異変に気が付かれたか……



しかし、気配に変化は無い。


どうやらこの立派で高い塀が音を遮ってくれたようだ。


隼人は女の子に駆け寄る。


「今から縄をほどく。


でも、声を上げちゃだめだよ。


こいつらの仲間がまだこの塀の向こうにいる……


異変に気が付くと恐らく逃げられてしまうから」


出来るだけ優しい口調で話したつもりだ。


涙で顔をグチャグチャにしている女の子はウンウンと頷いてくれた。


「これでよし……


今から俺の親父をさがそう。


きっと後のことはうまくやってくれるから」


そう言ってその場を離れようとしたのだが、


「アッ………」


女の子はショックで腰が抜けてしまっているようだ。



「おんぶしてあげる」


自分で言って気が付いた……


着物じゃおんぶできないじゃないか……



ちょっと恥ずかしいけど緊急事態だ……我慢してもらおう。


「………と、思ったんだけどできないね。


抱きかかえるけどいいかな?」



その提案に女の子はありがとうと言って素直に身体を預けてきた。



そしていわゆるお姫様抱っこの状態で立ち上がる。





女の子を抱きかかえた瞬間、


なぜだろう……


女の子が急にこわばった気がする。


それになんだろう心なしか身体が熱い?



まぁ特に問題はないから気にしないでおこう。


「走るよ。揺れると思うからしっかりつかまって」


一瞬の間があり


女の子の腕が隼人の首にしっかりとまわされ


隼人は走り出す。





速い!




女の子は驚いた。



とても人一人抱きかかえて走っているような速度じゃない。


それも同い年くらいの男の子……


さっきまでは女の子だと思っていたんだけど……


が走る速度じゃない気がする。


ああは言っていたけど上下の揺れは速度と反比例して不自然なほど無い。


男の子に身体を預けるなんて初めてのことだ……


誰でもこんなに安心できるものなのだろうか?


女の子は男の子の顔を見上げる。


とても整った顔立ちだ。


長めの髪は走る風を受けてサラサラと揺れている。


正直いまでもこの顔立ちで男の子だとは信じられない。


それほど美人だ……


しかし、抱きかかえられて……その身体にふれて気が付いた。


その外見からは想像もできないほどに引き締まった筋肉に。


これはとても女の子のものではない……



安心できるのはこの男の子だからなんだろう。


大人の男の人をあっという間に倒してしまって……



パーティー会場がみるみるうちに近づいてくる。


縛られている時はあんなに戻りたかったパーティー会場が


今は戻りたくないと思っている……


自分の不思議な心境の変化に驚きながら女の子は目をつぶり


隼人の首にまわす手にもう少しだけ力を籠めるのだった。




パーティー会場に戻ると周りから黄色い歓声を浴びせられた。


「ヒュー!やるじゃないか坊ちゃん。


みせつけてくれるなぁ! ……ん? 坊ちゃん?」


大人たちはお酒も入っているからだろう、


俺とこの子の状態をみて何やら盛り上がっている。


あちこちで財部塚(たからづか)だと言っている人もいたけどどういうことだろうか?




「親父は……いた!」


パーティー会場のちょうど中心辺りで夫婦のような人と話している。


なぜだろう? 不自然にその周りだけ人がいない。


近づいてみると次は私が……みたいなことをヒソヒソと話している。


申し訳ないけど邪魔だ。


周りで囲んでいる人を掻き分けて親父のもとへと急ぐ。



「親父!」


「おう隼人! お前どこに行ってたんだ? 探してたんだぞ……


ってなんだ? 女の子なんて抱えて……お前も意外と隅に置けないな~」



こっちの気も知らないで上機嫌な親父だよ……



夫婦のような人達の目が俺に集まった後、俺に抱かれている女の子を見て驚いている。


「ん?怜奈じゃないか?どうしたんだい?」


名前を知っているってことはこの子のご両親か?


「パパ! ママ!!」


緊張の糸が切れたのだろう再び大粒の涙が流れ出した。


女の子を父親に預けると


元々視線が集まっていた上にパーティー会場に似つかわしくない女の子の鳴き声で、


周りはザワザワとざわつきだす。


俺の真剣な表情と女の子の状態を見てやっと親父は真顔に戻った。


「なにがあった?」


夫婦も女の子は泣きじゃくるばかりなのでこちらに耳を傾けている。


「それが……」


俺はことのあらましと、まだ犯人の仲間が敷地の外にいるかもしれないことを手短に親父に伝えた。



そこからの親父は早かった。



夫婦も何やら警備の人に詰め寄り何か言っていた。


ものの数分もしないうちに親父が敷地の外から協力者を締め上げてもどってきた。


俺が片づけた男達も警備の人達によってそのままの状態で発見されたようだ。



どうやら今回のパーティーの騒ぎに乗じて


夫婦の娘である女の子を誘拐し身代金を要求するのが狙いだったらしい。


用意周到に準備された計画だったため、警備人数や防犯カメラの位置、各種セキュリティーのコード、


そんな物も漏れていた。


女の子はメイドの一人に勧められた飲み物を飲んだらしく、


その後の記憶があいまいで気が付いたら男に担がれていたのだと言っていた。



親父から一言だけ”よくやった”ってぶっきらぼうに褒められて、


それに対して女の子のご両親からはものすごくお礼を言われたっけ……


なんか……将来……


なんだっけ………


だめだ…あまり思い出せないな……







「あーあの時は結構大変だったね……


……って


え? あの時の女の子って三千院の家の子だったの?」



「なんだ? お前やっぱ覚えてないのか……?


あのパーティーは啓一……怜奈ちゃんの親父と母親、


三千院啓一・百合子(ゆりこ)主催の自宅で開いたホームパーティーだぞ?」



あのお城だと思っていた会場は家なのか……


まずそこに衝撃を受けた…


「初耳だよ…


立食パーティーに行くってのと、


親父の友人の夫妻……


それとその娘の女の子……


それくらいしか聞かされてないっての……」



そうだったっけ?そんな表情で親父はポリポリと頭をかいている。



「すまんな。まぁその当時はお前にそんなこと説明しなくてもいいと思ったんだろ。


付け加えるなら怜奈ちゃんには兄妹がいて、


名前は確か奏多(かなた)君だったかな?


あのパーティーの時は海外留学に出ていていなかったが、


もう日本に帰ってきているはずだな」



「ふ~ん……」


何処かで見たことがある気がするとは思ってたけど……完全に忘れてたなぁ……


そりゃ事件自体は覚えてたけど、


そこに結び付く情報が親父から与えられてなさすぎる


でもまぁ向こうは即俺だって気が付いたのか……覚えててくれたんだな。


なるほど……だからああもこちらの提案を疑いもせずにすんなりと受け入れてくれたのか……



グイッ!



突如シャツの裾が引っ張られてそんな考えが中断された。



見るとアスナがジト目でこちらを睨んでいる……




なんでしょうか……?




アスナの無言の訴えに俺が怯えていると



「隼人……」



親父が改めて声をかけてきた。声のトーンからして真面目な話のようだ。



「どうしたの?」


「お前飯終わったら道場に来い。」



しっかりと俺の目を見据えてそう告げるのだった。

強さを表現するのって色々ありますよね。

乱打戦を制するのも強さですし、

相手の攻撃をすべて受けきるってのも強さだと思います。

精神面の強さそういうのもありますよね。


隼人の場合基本相手を一撃で倒すことにこだわりたいなぁなんて現状は思ってます。

もちろん考えてるだけなんで、今後変わってくることもあるとは思いますが…


ただ一撃で終わらせるならどうしても戦闘シーンがあっさりしすぎるのかなぁ?

なんて心配もしてたりしてなかったり…


どう思われます?


もしよろしかったら皆様の考えをお聞かせくださいね。

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