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霖雨蒼生流の門下生  作者: zinto
第一章
4/43

帰宅

は~……帰りに人気がない方向に歩いていく趣味も考え物かなぁ……



静かでボーっとできる場所を探したいだけなのに


こんなでかいトラブルに巻き込まれるなんて思ってもなかった……



でもまぁこんな事がしょっちゅう起こるとは流石に考えられないし


あそこを通りかかったから女の子を助けられたんだ……良しとしよう。



それにしてもあれだけの男達……さらには手練れに追われるってあの子何者なんだ……?



考えを巡らしてみようとは思うのだが、隼人は正直そういった頭の回転は鈍いので


すぐにモーターから煙が上がってきた。



「考えても判らないや……イリーナさん顔出すって言ってたし……


それにしても、あの子どこかで見たことある気がするんだよなぁ」


隼人は記憶の中の整理をしながら家までの道のりをトボトボと歩く。




この常人離れした身体能力を持った少年は


源 隼人


私立桜ケ峰学園に通う高校2年生だ。


その外見は中性的で顔立ちは母親によく似ているため、


女の子に間違われてナンパされては心が砕ける日常を送っている。


しかし、その一方で源家に代々受け継がれてきた


特別な力に歴代で最も愛され


超人的な身体能力を宿している。


源家、一子相伝の流派


霖雨蒼生流に属す、ただ一人の門下生である。


霖雨蒼生とは


”苦しんでいる人々に、救いの手を差し伸べること”


を意味し、


代々、源家は要人警護を生業としている。


名のある要人には存在が知られているのだが、源家の警護を受けられる人間はそう多くはない。


源家が警護をすると見込んだ人物にしか警護につかないためである。


それは、権力や財力ではなく人柄……


己が命を懸けて守りたいと思った人物しか警護につかないのだ。


その為、大体、警護につけば依頼主と請負人という関係から


親友といった状態に変化するため、


源家は世界的に財界、政界さらには裏の世界などに幅広く顔が利く。


隼人が片付けた黒服達などを内密に引き上げられるのもそのためである。





立派な佇まいの日本家屋に隼人は入っていく。


塀で囲まれた敷地はかなりのものである。




「ただいま~!」


玄関を開けると夕飯のいい香りが漂ってきた。


「お兄ちゃん、おかえりなさい」


そんな声と共にパタパタと出迎えてくれる人物がいる。


「遅かったね~、また明後日の方向に歩いてから帰って来たんでしょう……


あれ? 制服はどうしたの?」


どうやら俺のTシャツ姿に疑問を抱いているようだ。




目の前で可愛いく首を傾げているのが俺の妹のアスナ。


絵に描いたようなモデル体型にエプロンの上からでもわかるような胸……


そして人形のように整った顔立ちにはめ込まれた


綺麗なガラス細工のような青い瞳


光を束ねたような美しい金髪はサラサラと揺れ見る者の目を奪う。


正直自慢の妹だ。



しかし、外見からわかるようにアスナは異国の地で生まれ育った。


あれは俺が4歳の頃、


親父の仕事が終わり今日の夕飯には帰るとのことで、


家族全員で食卓を囲み、親父の帰りを待っていると


突然


「ただいま! 皆喜べ!! 今日から源家の家族の一員になるアスナだ!!!」


衝撃発表をしながらリビングに入ってきたのだ。


俺を含め爺ちゃんと当時健在だった婆ちゃんはあまりの出来事に


ポカーン


と固まってしまっている中、


「まぁ! お人形みたいですごく可愛い!!」


なんて調子で母さんだけは即喜んで迎え入れていた。


本当に天然というか肝が据わっているというか……母って強いと思う。


そして親父がどこかから連れてきたアスナはそのまますんなりと源家の一員となった。


もちろん最初はものすごく戸惑った……


でも、なれない場所で言葉も通じず毎日不安そうに泣いているアスナをみて、


この子を守ろうと子供ながらに決意するまでにそう時間は掛からなかった。


いつもアスナと一緒にいた。


どこへ行くにも、ご飯を食べるときも、寝るときも四六時中。


するとだんだんとアスナに笑顔がこぼれだし、


あるとき俺を日本語で


「お兄ちゃん」


と呼んでくれた。


それからはアスナはいつも俺のシャツのすそをつかんでついてきた。


母さんが隼人のシャツはすぐにダメになる……とぼやいていたが


俺はそのシャツのすそが延びてしまうことが嬉しかったのを良く覚えている。




「ああ……ちょっと帰りに色々あって」


靴紐をほどきながらそう切り出そうとしたとき


「ただいま~!」


と玄関が開かれたかと思うと


「あら! 私の愛しい息子と娘が揃ってお出迎えなんてママすごくうれしいわ」


そんなことを言いながら背中から何かに抱き着かれる。



……この後頭部に感じる物凄い柔らかさは……



バンッ!!!!



突如家の奥からそんな音が聞こえたかと思った矢先、


ダッダッダッダッ!


けたたましい足音が聞こえだし



ガバッ!!



今度は前方から抱きしめられた。



「ただいまってどういうことかしら? ここはあなたの御家じゃありませんよ?


それに、隼人とアスナは私のカワイイ~~子供たちです! 何がママかしら?」



そんなことを言いながら俺を抱きしめる母さんの腕に力が入る。



胸で…4個の胸で…窒息死…する



そんな状況でワナワナ助けを求めて手を動かしていると


何を勘違いしたのかアスナががっちりと俺の手を掴み、にこやかに微笑んでくれた。



なんで…!?



「”若い”ママの方が剛久(たけひさ)さんはもちろん隼人君やアスナちゃんもきっと喜ぶと思いますよ」


「あらあなた29でしょ?私32だから対して変わらないんじゃ?」


「20代と30代って大きな壁があると思うんです」



頭上でバチバチと火花が飛び交っている…



ダメだ…俺のことなどお構いなしだ…



人生呆気なかったなぁ…



あ! 婆ちゃ~ん、ひさしぶり! 俺こんなに大きくなったよ!!



8年ぶりくらいに婆ちゃんとの再会を俺が果たしていると



「おう、イリーナじゃねーか。


どうした? 仕事の依頼でもきたのか?」



「あ! チーフ!


いえ、今回は別の用事ですわ」



親父の登場でイリーナさんが姿勢を正したため、


婆ちゃんは”身体に気を付けるんだよ~”との言葉を残して帰っていった。




「別の用事?」


「ええ、今回は隼人君からの用事でまいりました」


「ほぉ隼人か……ってお前そんなことろで寝ると風邪ひくぞ?」


剛久は玄関の床で伸びかけている隼人に目をやる。


ピクピクと動くその身体はいつの間にかアスナの膝枕に収まり、


ヨシヨシと頭を撫でられていた。





丁度夕飯時だったため一同は食卓へ移動し、


母さんとアスナ御手製の食事を囲んでいる。


イリーナさんの食事もちゃんと出してあげているあたり、


母さんも本気でこの人が嫌いということではないのだろう。



俺の隣が定位置のアスナは既に行儀よくご飯を食べはじめている。


いつも美味しそうにご飯食べるよなぁ…


そんなことを思いながら眺めていると


俺の視線に気付いたのか


「あ・げ・な・い・よ?」


と頬を赤らめながら口パクでそんなことを言ってきた……


そんな仕草を取られては逆にメインであるエビフライを


横から奪い取ろうか……


なんて感情がフツフツと込みあがってくるが


恐らく泣くし可愛そうなのでやめておく。



「で? 隼人への要件ってのはなんだ?」


親父がイリーナさんへさっそく疑問を投げかける。


「あら? 隼人君まだチーフに話してないのかしら?」


「ええ。イリーナさんが家に来たのとほぼ同時で帰宅しましたんで」


「ああ、そういうことね。


あの場所から結構距離あるもんね」


イリーナさんはウンウンと頷いている。


「では、私から説明させていただきますね」


コホンと可愛らしく咳ばらいをしたイリーナさんが気持ちを切り替えて


仕事口調で話し始めた。




「じつは本日1738に隼人君から秘匿回線を使用してコンタクトがありました」


秘匿回線という言葉に親父の目が細まる。


「要請内容は刃物及び銃器で武装した所属不明集団掃討後の隠蔽工作、


そして、身元不明少女の保護です」


刃物、銃器、掃討、隠蔽など物騒な言葉の嵐に


アスナと母さんの目がギョッっと見開かれる。


「掃討と言うんじゃから…まぁ隼人がやったんじゃろうなぁ…」


自慢の漬物をポリポリとかじりながら呑気にお茶をすすっている爺ちゃんは


特に動揺した様子はない。


「仰る通りです。救援要請ということではありませんでしたので、


工作班と万一の場合を考えてリスターを派遣しました」


「なるほど…」


親父も特に動揺しているそぶりは見せない


「工作班からの報告では、周囲に目撃者らしき人物なし、


現場の損傷具合も概ね予想通りとのことで、恐らくすでに修復は終わっているかと思います」


隼人はチラリと時計に目を向ける。


19:54…2時間ちょっとであれが直ってるのか…すごいな


「そして、銃器などを持っていた男達ですが、重体者6名 重傷者1名の計7名です。


組織的に管理されているのではなく寄せ集め…ですね


それぞれが最近裏のマーケットなどで絶賛売り出し中の輩でした。


重傷者のヤツリ・サガラと言う人物が意識が戻ったので現在尋問作業中です」




俺のシャツの裾が何かに引っ張られる感覚……


見るとアスナの手が俺のシャツを掴んでいる。


目線は完全にイリーナさんに向いているので恐らくは無意識なんだろう…



「ヤツリ・サガラ…だめだ聞かない名だな?


実力はどの程度なんだ?」



親父はただ一人の重傷者に興味を持ったようだ。


イリーナさんは端末に目を落とす。


「はい、ヤツリ・サガラ…年齢は37歳。


最近大きな仕事で成功を収めているようです。


コロンビアマフィアを襲撃、壊滅的な被害を与え、ボスを生け捕り。


対抗勢力のマフィアに雇われていたようです。


主な戦闘スタイルは……剣術となっていますね。


確かに回収した武器の中に日本刀がありました」


「なかなかにやんちゃしてるな…そいつ」


「で、隼人お前…闘ってみてどう思った?」


親父の目は俺の目をまっすぐ捉えている。


この場合のどう思った? は人を殴ってみてどう思った? なんてことを聞いているのではない。


小さい頃から自分が大切に思う者、守りたいと思う者に危険がせまったら躊躇なく力を使っていいと


教えられている。


もちろん俺は頭は良くないけど、人を見る目は爺ちゃんや親父と同じくあるつもりだ。


ここまで力を使ったのは初めてに近いけれど、咎められたことは一度もない。



「そうだね……手練れなんだろうとは思ったよ。


最後の一撃は俺の予想してないところから出てきたし……


でも特には脅威に感じるようなものはなかったかなぁ」



隼人は顔色一つ変えずにそんなことをつぶやく。



「我が子ながら逞しく育ったもんだねぇ……


裏社会の人間7人も再起不能にする高校生とは」


親父はおどけているがどこか嬉しそうだ。


「すまんね、話を遮った。続けてくれ」


「はい、次に隼人君が保護した少女ですが、


三千院(さんぜんいん)様のご息女でした」



ブーーーッ!


親父がお茶をふきだした。


「三千院ってお前、啓一(けいいち)のとこの怜奈(れな)ちゃんか!?」


「はい、仰る通り、大企業三千院グループのトップ


三千院 啓一様のご息女 怜奈様でした」




三千院グループと言えば世界経済を左右すると言われるほどに、


宇宙開発、航空機、造船、自動車、IT、石油化学、保険、不動産などなど……


幅広く事業展開をしている。


雑誌、テレビCM、スポーツ選手や大会の各種スポンサーなどなど


恐らく先進国に住んでいて三千院の名前を目にしない日はないのではないだろうか?


それほどの超巨大企業である。



なんでそんな子があんな場所にいるんだよ……


隼人が考えるのとほぼ同時に


「なんで怜奈ちゃんがそんな場所にいたんだ!?」


親父がイリーナさんに詰め寄ると


「そ……それがご事情はまだ教えられないとのことでしたが、


近いうちに父と説明にあがりますとのことで……


お迎えの方もいらっしゃいましたのでお帰り頂きました」


「啓一と一緒にだと……」


親父は何やら考え事をしている。


「それと帰り際に、”隼人様にくれぐれも宜しく”とおっしゃられていました。


どうやら、隼人君が助けに入ってきた段階で気が付いていたようです」




え? 俺に気が付いていた?? なんで???



ハトが豆鉄砲をくらったような顔をしていると



「隼人……お前覚えてないのか?


前に立食パーティーに連れてってやったろ?


その時の子だよ」


親父にそう促されその当時のことを思い出すのだった。

アスナと怜奈それぞれ魅力的なキャラクターにしていきたいなぁ…

それこそ【霖雨蒼生流の門下生】が有名になったとしたら

ファンの間でどちらがいいか揉めるくらいに…(笑)

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