依頼
「で? 庭の連中の件はまぁわかったが……表のトレーラーはなんなんだ?」
そうだ、啓一さんと怜奈のやり取りで忘れかけていたが、いったい何なのだろうか?
確か話の最中に怜奈の荷物がどうとか言ってはいたが……
「………」
「御父様!!」
あの一言で完全に意気消沈し、心此処に在らず状態な啓一さんに怜奈が声をかける。
「は! はい!!」
「御話の続きを剛久様が待っておられます。
御父様のくだらない悪戯のせいで本題からズレてます。
例の件、御父様の口からしっかりと御伝えください」
「あ……ああ……そうだな」
怜奈にそう促され気持ちを切り替える為に一つ咳払いをして、
姿勢を正した頃には先ほどまでの情けない啓一さんはどこかえ消えてなくなり、
三千院グループのトップとして相応しい雰囲気に切り替わった。
すごいな……
勿論”武”をもつ人間にそういった面では啓一さんはかなわないが、
この雰囲気で議論の場などに立たれれば、大半の人間は縮こまってしまうのではないだろうか?
王者としての風格……
それは”武”を持つ人間とて例外ではないだろう。
「剛久すまなかった。ここからは真面目な話だ」
「ああ、聞こうか」
啓一さんの雰囲気にあわせて親父もそれ相応の対応をする。
啓一さんの持つ”王者としての風格”
親父の持つ”武”
お互いがぶつかり合いピリピリとした空気が辺りに立ち込める。
この空気に思わず逃げ出してしまいたくなる物がいても不思議ではないが、
母さんを始め、怜奈、そしてなによりアスナが何食わぬ顔でこの場にとどまっていることに
隼人は驚いた。
母さんはおちゃらけているように見えて芯は本当に強い人で、何より親父の唯一頭の上がらない人だ。
怜奈はまだ見たことはないが茜さん曰く”武”を持っている。
しかしアスナだ……アスナはそんな強さの欠片は今まで見たことはない……それなのに……
「恐らく隼人君などから聞いているとは思うのだが……」
「ああ、大体の所は隼人とうちのイリーナから聞いてはいる。
だが、まぁその大本はまだ知らん」
「……そうだろうな」
啓一さんはお茶を一すすりし、本題を切り出すべく深呼吸をする。
「まず結論から言おうか。
我が三千院家は現在ある者から狙われている」
その言葉に驚くものはここにはいない。
怜奈が襲われたことは知っているし、
和輝も言っていたが怜奈個人だけがあんな連中に狙われるのも考えにくい……
そうなると三千院家の全員が狙われていると考えた方が自然だからだ。
「その為、我が三千院家の護衛を剛久をはじめとするチームに依頼したい」
「三千院家か……それはお前と百合子さん、奏多君、怜奈ちゃんってことでいいのか?」
「そうなるな」
「……母君はどうする?」
「正直母は最近体調を崩し気味で家からあまり出ることはない。
それに大体の場合は百合子と一緒だ……
家の中から動かないのであれば恐らくだが、相手も手を出してはこないだろう」
「なるほど……その口振りでは相手に心当たりがありそうだが?」
「………心当たりは……というかまぁほぼ100%で相手はわかっている」
「ほぉ?」
正体を隠すような相手からの脅しなどは正直、三千院ほどの家ともなるとさほど脅威ではない。
なぜなら私設の部隊や、茜などのような存在でどうとでも対処できるからだ。
しかし、そんな家に100%と言わしめるほど相手が断定できているにも関わらず、
脅しをかけてくる存在は脅威以外の何ものでもない……
そう、自身の存在がわかったとしても表立った対処……
警察や司法などでは対処できないような権力を持った者なのだから……
「六星財閥……」
「なに!?」
「六星財閥 現当主の六星高徳……あいつで間違いないだろう」
六星財閥と言えば三千院グループよりも古い歴史を持ち、
軍事事業、造船、自動車、石油化学、不動産など幅広く手掛ける財閥で、
一時期は日本を支えるトップ企業だった。
しかし三千院グループの登場により、その地位を明け渡してからは低迷が続き
現在では業界第4位の位置にまで落ちてしまった。
しかし古い歴史を持つ分、権力者への顔が利き、半ば無理やりのような仕事の獲り方や、
他社や下請けなどに対する圧力など、近年アンダーグラウンドでは黒い噂が絶えない企業である。
「あの古狸か……」
「ん? 剛久もあったことがあるのか?」
啓一の問いかけに剛久はイライラを隠そうともせずに口を開く。
「あったことがあるもなにも、数年前にいきなりうちの前に車をよこして乗れときたもんだ。
聞けば六星財閥 六星高徳の使いだって言う……
少々イラッとしたが、その時丁度手も空いてたし六星にはまだかかわったことがなかったから、
顔をだしてやることにした」
ああ……そういえば親父が突然やってきた黒塗りの車に乗って出て行ったことがあったな……
しばらくして帰ってきたらこう……とてつもなく近寄りがたい雰囲気だして……
俺とアスナが怯えていたら母さんにお玉で頭を殴られてたっけ……
「六星高徳の別荘まで2時間だぞ!? こちらの予定も聞きもしないで何の説明も無しに
2時間も車に乗せられて、いざ別荘についたと思ったら取り込み中だからソファにかけて待て。
30分過ぎても出てくる気配がありゃしないからこっちから向かおうとしたら
警護が取り押さえようとしやがる……
頭に来たから弾き飛ばして部屋に怒鳴り込んでみたら複数の女相手によろしくやってやがった!!!」
親父の怒りは最高潮に達している……
アスナや怜奈がいることを忘れて続けようとしているところに
「いってぇ!!」
「あなた! アスナや怜奈ちゃんもいるのよ?」
母さんに太ももをつねられた親父は正気を取り戻す。
「………わるい……つい
まぁそんなとこに入ってみたら、”失礼なやつだ”ときたもんだ……
余りの怒りに逆に冷静になったよ俺は。
で、そんな状況を無視して要件を聞いてみれば
”なかなか腕が経つ人物らしいな? 俺のお抱えの警護にしてやってもいいぞ?
給料は弾んでやる。 六星財閥当主の専属警護ともなればお前も鼻が高いだろう?”」
母さんによって一瞬冷静になったものの思い出してまた腹が立っているのだろう……
親父の握り拳からはギチギチと音がしている。
どれほどの力で握っているのだろうか……
「大人げなかったとは思うが、
そのまま回れ右して帰り際に玄関を壁ごとフッ飛ばして帰ってやった!」
壁ごととなるとかなりの本気度だ……力も使っているだろう。
ビル解体用の鉄球でも激突したんじゃないだろうか? そんな大穴を開けていてもおかしくない……
「あの男らしいな……」
啓一さんもそれを聞いて六星高徳と言う人物に呆れ果てている。
「で? お前が六星高徳に脅される理由はなんなんだ? 今更になって三千院が疎ましくなったか?」
「まぁ三千院が力をつけ出した曽祖父の代の頃はそういったこともあったとは聞いてはいるが、
祖父の代からはそんなことが通用しないほどにうちが力を付けたため、
そんなこともなくなってはいたんだがね……」
話をいったん遮り啓一さんは茜さんに視線を向ける。
「茜。 周囲に私たち以外に賊は? さらに盗聴などの危険性は?」
「はい。 問題ございません」
「オイオイ……家だぜ? 俺や親父がそんなことさせるかよ?」
「すまない……剛久や清十郎さんをみくびっているわけではない……
剛久は勿論のこと、さくらさん、隼人君、アスナちゃん。
皆さんを源家の一員と見込んで話す。
だが、このことをくれぐれも他言しない様に……」
啓一さんはまっすぐに家の家族一人ひとりに視線を合わせる。
「勿論だ。 みんなもいいな?」
親父の問いかけに一同はしっかりを頭を縦に振った。
「ではお話ししよう。皆さん携帯端末をもっているね?」
その問いかけにアスナが自分の端末を取り出す。
学園で使っているこの端末は"SANZENIN"ブランドだ。
「ありがとう。
アスナちゃんが取り出してくれたこの携帯端末は
今現在も各社が他社よりも優れた製品を開発しようと、日々しのぎを削り合っている」
啓一さんはそういうと胸ポケットから手のひらほどの大きさのケースに収納された石を取り出す。
「数年前にとある小国で画期的なレアメタルが発見されたと言うニュースを
見たことはあるかな? 隼人君やアスナちゃんは小さかったろうから覚えていないかもしれないが」
その当時のニュースは覚えていないが、
知識としてそういった物が発見されたのだと言うことは知っている。
親父や母さんはどうだろうか? そんなことを思って表情を伺ってみる。
?
なぜだ? 親父は先ほどの件で不機嫌だったがそれよりもなんだろう……何とも言えない表情?
母さんも少し伏し目がちと言うか……
しかし俺の視線に気が付いた二人は何事もなかったように振舞った。
なんだろう? 少し頭に引っかかったが話を続ける啓一さんによって意識はそちらに戻っていく。
「それが、この鉱石だ。
この鉱石に含まれるレアメタルの発見によって、IT業界は爆発的な進化を遂げ、
今皆が手にしている携帯端末を始め、様々な最先端な製品に使われている」
啓一さんが鉱石を動かすたびに鉱石に含まれる貴重な物質と思われる部分が
虹色にキラキラと輝いている。
「しかし、まだ未知の部分が多く、その素晴らしい性能を100%発揮させることが出来ずにいた。
我社も長年その性能をフルに発揮するべく研究開発に力を注いできたんだ。
今主流の薄い端末は言わば最終目標の商品を開発するための前段階」
こんな石ころから人類の暮らしを変える物が現れるなんて
学業では凡人以下の俺からは想像がつかない……
和輝あたりなら目の色を変えて聞くような話なんだろうけど……
「そして、ついにその成果が実り、
我社の研究チームはその性能を100%引き出せる技術を確立した。
これによってIT業界は更に画期的な一歩を踏み出せる。
その第一歩がディスプレイレス端末の開発だ」
怜奈以外の面々は正直頭の上に?マークが表示されている。
恐らく凄い事なのだろうがそのすごさがわからない。
「……と言われてもピンとこないな。
すまない、簡単に言うとSF映画で何もない空間に画面のようなものだけが宙に浮いている……
そんなシーンを見たことがないかな? まさしくあれだよ」
そう言われればピンとは来るが………本当にそんな物が出来るのだろうか?
「皆の顔にそんな馬鹿な話……そう書いているのがわかるよ」
啓一さんは源家の一同の表情は予測していたのだろう、その反応に満足げだ。
「茜、例の物を……」
「かしこまりました」
車を降りて来た時から気になってはいたのだが、
茜さんはジュラルミンのような素材で作られた、
手提げかばんほどの大きさのケースずっとさげていた。
それを長机の中央に置き、懐から取り出した電子キーのような物を差し込んだ後、
啓一へと手渡す。
それを受け取った啓一は自身の指紋と声紋を照合しケースの開いた。
恐ろしく厳重なんだな……
「さて、これがその試作機の第一号だ。論より証拠……とりあえず見てもらおうか」
そういうと啓一さんは慣れた手つきで5cm×1㎝ほどの大きさの小さい端末を起動させる。
本当に目から鱗だった。
その小さい端末の上に50インチほどのディスプレイが空中に浮いている……
映像も鮮明でディスプレイにはニュースが流れているのだが、
今流通している高画質なテレビとも素人目には遜色ないようにみえる。
そんなディスプレイに啓一さんが手を突っ込むと、
難なく突き抜けてその空間には何もないことがわかる。
「まだ画質に関しては調整が必要だが、実用は1、2年後を目途に考えている。
この端末から出る特殊な光をこれまた特殊なレンズで屈折させることで、
何もない空気中にディスプレイを出現させているんだがね……
その計算がかなりややこしくてね……
それを処理しきるチップを開発するのにこのレアメタルの性能をフルに出し切ることが
絶対条件だったわけだ……」
端末の電源を落とすとディスプレイは跡形もなく消え去る。
「どうかな?」
「す……すごいです!」
「たいしたもんだ……」
「すげー……」
「お風呂で使えたら大画面でドラマ観れるわね」
啓一さんの問いかけに各々素直に感動を伝えている。
既に用途まで考えているあたり母さんは流石だ。
「しかし、恐らくはまだまだ高額な商品になるとは思う。
そのキーアイテムのレアメタルが現在発見された小国でしか獲れないんだ……
流通量も少ない。 今後これを普及させていくうえでその課題をどうクリアしていくか……
そこがネックになっていくだろう。
しかし、それは私共の仕事だ。 開発者達はよくこれを形にしてくれてと思っているよ」
啓一さんの目には少し涙が浮かんでいるのだろうか? そんな風に見える。
「なるほど、やっと話が見えてきたぜ……
あの古狸の野郎、三千院がそんな画期的な物を発明しやがったことに苛立ってんだな?
でも珍しいな。お前んとこが発表前にこんな情報漏らすことなんてないだろ?
古狸はどこで嗅ぎ付けた?」
啓一さんは端末をケースにしまい込むと大きな溜息をついた。
「ところが、そんなに単純なものではない。
うちへのやっかみからの脅し程度ならばこちらでどうとでもできるんだが……
ここからは少し恥ずかしい話になる」
先ほどまでの明るい表情とは打って変わり啓一さんは項垂れる。
見れば怜奈の表情も暗い。
「うちには世界で争えるだけの技術者が多数在籍している。
研究開発部門は勿論のこと、現場で作業をする者も含めてだ。
その者達が最高の環境で働けるようにすることこそが私の仕事だと常々考えている」
世の中のブラック企業と呼ばれる社長さんたちに是非聞かせてあげたい言葉だな。
「しかし、今回はその優秀な技術者が多数いることがあだになってしまった……
当初この商品を開発するチームは2つあった。
プレゼンテーションと実機テストの末、
正式採用が決定したアナソフィア・フォーラニ率いるチームと
惜しくも採用されなかった 中山徹率いるチーム……
計200名からなる大所帯だ」
「2つのチームを作ったわけは?」
親父が代表して啓一さんに問いかける。
「この開発は社運は勿論だが、今後の人々の暮らしにとって大きな変化をもたらす商品になる。
私はそう確信している。
しかし、このキーアイテムであるレアメタルはまだまだ未知の部分が多い……
少しでも多くの視点、角度、常識にとらわれないアプローチそういった物を私は求めた。
そのためお互いのチームで情報共有ができない様に研究室は離し、極力接触は控えてもらった。
向こうのチームがこうなったのだからこれが正しいと言う固定概念に陥ってほしくなかった。
なにせ未知だ、研究に時間はかかるが後から発見したほうがより効率的かもしれない」
確かに……同じ研究をしていて違うチームの方がリードすればその方法が正しいと思ってしまうかもしれない。
「正式採用、不採用と判断をしなければならなかったが、
両チームとも本当に素晴らしい仕事をしてくれたと思っている。
惜しくも不採用になったチームの研究員も今ではアナソフィアのチームに合流し、
商品化に向けて自分たちの持つ知識を惜しみなく発揮してくれているんだが……」
啓一さんの顔がより一層暗いものに変わる。
「中山徹と言う男はそれを認めなかった……
彼の高いプライドは不採用と言う結果を受け入れることはできなかったのだろう……」
がっくりと肩を落とす啓一さんを怜奈が優しく支える。
「ありがとう怜奈……話を続けよう。
私も彼と面談し、その素晴らしい研究結果を評価していることは重々伝えたつもりではいたのだが……」
「なにが不採用の要因だったんだ?」
「うむ……
細かいことは省くが、決定的なのはレアメタルの使用量だろう。
中山チームが優れている能力を発揮している部分も多々あったが、
アナソフィアチームの倍以上のレアメタルを使用していた。
当初はその能力を抑えレアメタルを減らせば行けるかとも思われた。
しかし、蓋を開けてみればその使用量でなければ機能しない製品だったのだよ……
実用化を目指す以上、高額すぎる商品はもちろん普及しない。
その点アナソフィアチームの技術は今後さらなる研究を重ねることで、
レアメタルの使用量を減らしていける可能性が大いに見える。
役員会議でも満場一致だったよ」
結果を求められる世界では誰しもが成功者にはなりえない。
どうしても優劣が決まってしまう……それは仕方のないことだ。
しかし、話を聞く限りでは啓一さんの言い分は正論だと思う。
そして結果ではなく、研究課程を評価している。
現に不採用の研究者は採用されたチームに合流しているのだからその人達も納得しているのだろう。
「先ほども言ったが、中山と言う男を私は高く評価している。
不採用になりはしたが、その考え方は独創的で今後の我社の発展に
必ず貢献してくれると思っていたのだが……
不採用が決まった1週間後から忽然と姿を消してしまった」
「蒸発か……」
「事件に巻き込まれていたり、もしかしたら失意の末に……
なんてことも想定してこちらでも手を尽くして捜索はしたのだが……結果は行方不明」
「三千院の情報網にも引っかからなかったのか?」
「それがおおよそ半年前だ。
チームも正直一時期はいい雰囲気ではなかったよ……
そんな雰囲気もやっとのことで払拭し再びチームが動き出したのが1か月前。
そこに六星財閥から手紙と写真が送られてきたんだよ」
そういうと啓一さんは一枚の封筒を取り出し親父に差し出す。
「読んでもいいのか?」
「ああ」
親父は確認をとった後、手紙を取り出し皆に聞こえるように声に出して読み始めた。
三千院グループ 代表取締役 社長 三千院 啓一殿
2089年 5月18日 六星財閥当主 六星高徳
弊社開発によるディスプレイレス装置開発について
拝啓
貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
この度弊社が以前より開発を進めておりました、
ディスプレイレス装置が完成いたしましたことをここに
御報告させていただきます。
しかし、弊社の知る限りでは貴社が開発を進めておられます
ディスプレイレス装置は弊社の物と酷似し、
非常に憤りを感じております。
つきましては即刻開発の中止、並びに商品化中止の措置を取っていいただけますよう
お願い申し上げます。
尚、迅速に適切な措置が取られない場合
しかるべき対応をとる用意がこちらには御座います旨を御伝えいたします。
敬 具
記
・ディスプレイレス装置開発の即刻中止
・ディスプレイレス装置商品化の即刻中止
以上
「はぁ!? なんだこりゃ? 古狸の所もこれ作ってたってことか??」
「封筒に写真が入っているだろう? それも出してくれるか?」
「ん? ああ……」
ゴソゴソと封筒をあさり1枚の写真を取り出す。
そこには1人のよく言えば恰幅のいい……性格の悪そうな笑みをこぼす中年の男と、
20代前半だろうか? 少し気の弱そうな青年が握手をしている写真が入っていた。
古狸……親父のその表現がぴったりとあてはまる中年の男が恐らく六星と言う人物だろう。
「古狸じゃねーか……この忌々しい笑顔……見るだけでぶん殴ってやりたくなるな。
で? ここに写ってるもう一人は誰だ?」
「………中山徹だよ」
「なに!? 中山ってやつこんなに若いのか!? 勝手におっさんだと思ってたぞ?」
源家の一同は剛久と同じ考えだったためその青年を食い入るように見ている。
「日本ではあまり馴染がないだろうが、
彼は15歳でアメリカで最も難関と言われるサーザード大学を首席で卒業し、
当時アメリカでは神童と騒がれた人物だ。
彼が在学中に私がアプローチをかけて卒業と同時に我社で研究員として働いてもらっている。
ちなみにアスナちゃんが先ほど出してくれた端末は
入社後初のコンペで彼の案が採用され商品化に至っている。
いわば生みの親だ」
俺達よりも幼い歳で今や全世界に普及するこの端末を生み出すなんて一体どんな頭してるんだ……
隼人もアスナと一緒に自分たちの生活に溶け込む端末をしげしげと見つめる。
「彼の長所は性能にこだわること、そしてまた欠点も性能にこだわること……
良い材料をふんだんに使用し良い設備良い人材で物を作れば結果もついてくる場合が多いだろう。
しかしだ、それに伴って商品の価格は掛け算で高くなる……
そうなるととてもじゃないが一般のユーザーは手が出ない。
富裕層や大富豪にだけ絞って商売をすればそんなことは気にしなくてもいいかもしれないがね。
もちろんそこに絞っている企業だって多くある。
我社もそういった層へ向けての商品を数多く持ってはいるが、
私が一番やりたいことは三千院ブランドの普及だ。
一部の層だけが持っている憧れのブランドではなく、ユーザーの側に寄り添えるブランド。
社会全体が豊かになるブランド……そういったことなんだよ」
今や三千院の名前を知らない人間はほぼいないとまで言われる所以はここなんだろう。
三千院啓一と言う男の考えを間地かで聞かされた隼人はただただ感心するばかりだ。
「そして今回はその考えに彼の成果が当てはまらなかった……
ただそれだけだ。
彼の優れた性能への考えと私と考え方がよく似ているアナソフィアが
最終的に研究結果を持ち寄れば素晴らしい商品になると期待していたのだが……」
「古狸と一緒に写ってるってことはあれか? やっぱり……」
「恐らくは何処かで嗅ぎ付けた六星が彼を誘ったのだろう……
これとは別に権利関係を主張する資料と映像を送りつけてきていたが、
資料はうちで中山が作っていた物とほぼ同じ、
そして映像にはうちほどのクオリティではないが中山案の試作品が映っていたよ。
短い期間で急ぎ形にしたのだろう、あらさがかなり見える……」
「つまりはお前んとこの会社を飛び出してウロウロしていた主力研究員を引き抜き、
先に開発していた商品を後から急ぎ形にして、権利はうちにあるって主張してんのか?」
「いいや、中山との契約はまだうちが結んでいる。5年更新だから残り3年か……
契約解除の手続きは行っていないから、六星はうちの研究員を勝手に連れて行って
六星財閥の研究室で働かせていることなるな」
「なんだそりゃ?? 無茶苦茶じゃないか」
「そうだ。無茶苦茶だ……
この事業を手にすれば恐らく六星財閥は昔の輝かしい時代を取り戻すかもしれない。
そして、うちがこれを発表すればもう六星財閥がうちにたてつくことは難しくなる。
だから是が非でもこの金の卵を力で押し通そうとしている。
その一つが隼人君に助けてもらったあの一件さ……」
怜奈の誘拐未遂……
怜奈の方に顔を向けると目が合った……何処か寂しそうな表情をしている。
「あの後匿名を装ってはいるが、自宅に家族の身辺に注意するように……
みたいな封書が届いたよ。 ご丁寧にその手紙と同じ特徴のある紙を使ってな」
「ここまで大ぴらに行動してるんだからまぁ無駄なんだろうけど警察なんかは動かないのか?」
「六星財閥と警察の癒着は正直エグイ……
いくらうちでもよっぽどの何かをもっていかない限りはその腰を上げないだろう」
「……ほぉ、日本も腐ってるな」
「まぁ仕方ない事さ……権力のある所にはこれまた別の権力が付きまとうんだよ……」
警察か……
隼人の頭に和輝がよぎる。警察のトップは和輝の親父さんだ……
こんな事態になっているのに啓一さんは和輝のことをどう思ったんだろうか
車内では何か含んでいる……そんな素振りは見えなかったけれど……
「これは六星からうちへの正面切っての戦争だ。
申し訳ないがここまでやられて手加減する気はない。
ディスプレイレスの件、中山の件、そして私の大切な家族に危害を加えようとした件、
しっかりと表舞台で決着をつけるつもりだ」
「なるほど」
「そこで、正式に六星との決着がつくまでの間、私の大切な家族を警護してもらいたい」
「事情は分かった。 で? 人員はどうする?」
「茜から話は聞いている。あいつは本気だ……
正直うちの者達だけでは心もとない……最大限の者をお願いしたい」
「だろうな……となると俺とリスターは確定として……
うーんそこまでのやつとなると正直人員が足らんな……
襲われる可能性が一番高いのは誰だ?」
「怜奈だろうな……私や奏多は表立った行事が多いため、いくら警察が動かないとはいえ、
そこを狙うにはリスクが大きいだろう。 そういった点では怜奈はまだそういった行事はない。
一番先に狙われたのもそういったところからだろうな。
逆に百合子は今の所ほとんど家から出ない。
避ける人員が限られているなら後手に回してもらっていい。
家の中ならばうちの者達だけでも十分すぎる警備はできる」
「となると……怜奈ちゃんには俺がつくか、
啓一と奏多君にはリスターと………親父……にきばってもらうか?」
爺ちゃんか……現役を離れて年数も経っているうえに、歳と共に衰えてきている。
しかし、そこら辺の特殊部隊くらいなら今だ難なく片づけるだろう……
「剛久、実はなお願いがあるんだよ」
「ん? なんだ??」
「ほら怜奈お前の口から言いなさい」
啓一さんに背中を押され、怜奈が立ち上がり俺の目の前に座り直した。
「隼人様?」
「は、はい?」
覗き込むような視線を俺に向ける怜奈の瞳は少し潤んでいて色っぽい……
「どうか………私の警護として雇われてくれないでしょうか?」
深々と頭を下げながら怜奈は隼人にそう告げるのだった。




