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霖雨蒼生流の門下生  作者: zinto
第二章
11/43

軽蔑

「あの二人完全に意気投合したな……」


「だね……」


クラスメイトが一人、また一人と別れを告げ、部活動へ向かったり、帰宅するために教室から出ていく。


隼人と和輝はそれに答えながら盛り上がっている女子二人を遠目から見ていた。


「しかし、あれだけの美女が並ぶと絵になるな……」


「うん……我が妹と言う贔屓目なしにそう思うよ……」


その視線の先にいるのはアスナと怜奈。


二人は昼食の一件以降意気投合し、


今では旧来の友人の様にお互いをレナちゃん・アスナちゃんと下の名前で呼びあっている。


時折隼人の名前が聞こえるのだが何を話しているのやら……


「アスナ~そろそろ帰ろう」


よほど話が盛り上がっているのだろう、教室にはもうほとんど生徒は残っていない。


「え? ああ!! もうこんな時間なんだ。 ごめんねお兄ちゃん」


「あら……アスナちゃんとのお話があまりにも楽しくて時間を忘れてしまいました……」


二人は隼人の呼びかけに時計を確認して驚いている。


「気にしなくていいよ。すっかり二人が仲良くなったみたいでよかったよ」


隼人は本心を口にする。


それもそのはずだ、今後学園生活を送るうえで二人にいがみ合われれば


正直心穏やかに学園にいられる気がしない……


そして、もちろん学園だけではない……なぜなら帰っても阿修羅(アスナ)はいるのだから……



「うん!」


アスナの元気のいい返事に二人は手をつなぎ合い微笑み合っている。


「じゃあまた明日だね! レナちゃん」


カバンを持ってこちらにやってこようとするアスナを怜奈が引き止める。


「アスナちゃん、隼人様、実は隼人様の御家に御用があります。


宜しければ御一緒させてください」


見るとまたいつの間にか現れた茜さんと二人が頭を下げていた。



”御家に御用がある”


怜奈のような立場がある人物が俺の家に用があると言うのだ……


この前の一件と言い……まぁそういうことなんだろうな。



「家への依頼……ってことかな?」



その問いに二人の顔があがり怜奈のニッコリとした顔が見える。


「ええ。 ですので御一緒させていただいても? 既に車を手配しています」


アスナと顔を見合しお互いに頷き合う。


「いいよ! 一緒に帰ろう……あ、和輝」


「ん? 別に僕のことは気にしなくていいよ? 


隼人じゃなんだし一人で歩いていても僕は問題ない」


こ……こいつ……和輝だけだよ……俺の心を土足で踏み荒らすのは……


「あら? 勿論和輝さんも御一緒にどうぞ? そんな1分1秒を争うようなことでもありません。


和輝さんを御家まで御送りした後に向かいましょう」


「……いいんですか?」


「ええ! 何も問題ありません。 では皆さん向かいましょうか」


怜奈のその言葉を合図に一同は正門へと足を向けた。



正門へ向かう最中生徒たちがざわざわと騒めく。


登校中などに感じるよりはるかに大きいそれは怜奈がいる為だろう。



案の定、二人はそんなことを考えているのだが、


実際は違う。


学園で最も容姿が優れているであろう三名が更に一人増え四名になって列をなして歩いているのだ。


色めき立つのもうなずける。



様々な同級生や先輩、後輩に声をかけられながらやっとのことで正門に到着した。


「皆様すごい人気なんですね。 私びっくりいたしました。」



この人も隼人やアスナちゃん側の人間か……和輝は思わず頭が痛くなるのだった。



「車まだ来てないのかな?」


怜奈が手配していると言っていたので勝手に正門前に待機しているものと思っていた。


しかし、見渡してみてもそのような車の影はない。


「隼人様……まもなく到着するかと思います。


正門前に待たせてはほかのご学友の皆様の迷惑になるだろうとのお嬢様からの御配慮でございます」


なるほどな……きっとすごい車が来るんだろう。


そんな物が正門前に鎮座されていては皆何事かと思うだろう。


そういうことには配慮できるのに昼の件のようなぶっ飛んだことをする……


怜奈と言う人物はまだまだ底が見えそうにない。


そんなことを隼人が考えていると、それらしい白い車がこちらに向かってきているのがみえた。


「あ……あれって三千院ブランドの最高級セダンだね」


「和輝さん、私共の製品を知っていただいてありがとうございます」


「ああ、父がのっているからね」


「まぁ! ユーザーの方でしたか!! 乗り心地などはどうです??」


怜奈と和輝は車の話題で盛り上がりだした。


ごめんよ……怜奈……


車に特に興味のない俺はどの車がどのブランドかなんて区別は正直つかない……


と心の中で謝る。



盛り上がりが最高潮に達した頃、和輝は何かに気が付いたようだ。


「運転手の人と茜さん……それに隼人とアスナちゃん怜奈さんに俺……6人


ダメだ……6人じゃ定員オーバーだ……」


「フフッ……大丈夫です和輝さん。御心配にはおよびません」


見ていてくださいと言わんばかりに視線を車から外さない怜奈に習って


一同はだまって車を見ている。


正門前には長い一直線の道路があり、学園前でロータリーになっているのだが、


下校途中の生徒達の横を通り過ぎるたびに生徒達が驚いているのがわかる。


ここから見る車はいまだ普通のセダンなのだが……


しかし車がロータリーに差し掛かった時、やっと違和感に気が付いた。


「長い!?」


誰かの口からでたその言葉通り、長いのである。


賊に言うリムジンタイプ。


「あれ!? あの車にリムジンモデルなんてあったっけ??」


驚きの声を上げたのはやはり和輝だ。


「これは残念ですが市場には出ていません……。


お父様が特別に作らせた特注品になるので、世界に4台のみと聞いております」


怜奈の前に丁寧に停車したそのリムジンは


外観から受ける印象とは真逆にとても静かでエンジンはかかっているのだろうか?


アイドリング音などもほとんど聞こえない。


自然な動きで茜が車の扉を開ける。


観音開きだ。


一般の車には余り馴染の無いその扉の開き方に3人からは思わず「お~」と言う声が漏れた。


しかしその驚きもすぐさま別の光景に興味はかき消される。


その扉の分厚さだ……鉄板の部分の厚みが15cm以上はあるんじゃないだろか??


こんなのは見たことがない。


これには流石に車に興味のない隼人も興味をそそられ注目していると


「隼人様に助けていただいたあの家での事件以降……その、お父様の過保護に拍車がかかりまして、


先ほど4台といいましたこの車はお父様、お母様、奏多お兄様、私それぞれに


同じ仕様の専用の車を用意させました……


なんでも、ロケット砲で撃たれても大丈夫……タイヤをパンクさせられても走れるなどと


何やら子供の様にはしゃいでおられまして……」


「………どこの大統領だ……」


和輝はなにか思い当たる節があったのだろうそのあまりの規格外さに目を白黒させている。



「怜奈……その辺りにしてくれないか? 恥ずかしいじゃないか。さあ乗りなさい」



そんな声に一同は、扉から顔を突っ込み長い車内を見渡した。


ここは車の中なのだろうか? 


外装にあわせて白を基調として創られた内装は何処かの高級ホテルの一角のような……


そんな雰囲気だ。


そしてその奥のソファ……いや車だからシートに一人の正しくダンディ……そんな風貌の男性が


1人で腰をおろしていた。


怜奈に促され一同はリムジンに乗り込む。 茜さんは助手席に乗るようだ。


「お父様!? てっきり先に向かわれているものだと……」


「怜奈を驚かせようと思ってね。 どうだい驚いたかな?」


「ええ。 相変わらず子供みたいなことをしますね。


スケジュールなどは大丈夫だったのですか?」


「大事な友人に久しぶりに会うんだ。 スケジュールなんて無理やりにでも空けさせたさ。


明日の朝まで私はオフだ!」


「まぁ……兵藤さんはさぞかし苦労しているでしょうね?」


「ん? ハハハハ!! いつも過密スケジュールを文句も言わずにこなしてるんだ


たまのワガママくらい通してもらうさ」


車が走り出し、お父様と呼ばれた男性は怜奈との会話を楽しんでいる。


その顔には確かに覚えがある。


「お父様、隼人様とアスナちゃん。 それに今日友人になった雑賀 和輝さんよ」


その言葉に男性はこちらに向き直した。


「怜奈と盛り上がってしまって悪かったね……挨拶がおくれてしまった。


改めまして、三千院 啓一 怜奈の父です」


これがあの三千院グループのトップの人の態度なのだろうか?


たかが高校生の俺達にとても丁寧なお辞儀をしてくれる。


「雑賀君……といったかな? これから怜奈のことをよろしく頼むね」


「え? ええ。 むしろこちらこそよろしくお願いしますと言いますか……」


流石の和輝も三千院グループのトップと言うことを意識しているのだろう動揺の色が隠せない。


「雑賀……珍しい名前だね? 違っていたら申し訳ないのだけれど、


君のお父さんはもしかしたら警察庁の……?」


「ええ、父は警察庁長官をしています」


「ああ! やっぱり。 うん……少し面影あるな。


以前お父さんとはお話をしたことがあってね。 よろしく伝えておいてくれるかな?」


「ええ……必ず」


付き合いの浅い人にはわからないだろうが、やはり和輝はこの話題になると良い顔をしない……


「そして、アスナちゃん。 はじめまして」


「は、はじめまして……」


「雑賀君もそうだが……皆そんなに緊張しないでもらえるとうれしいんだけどな」


「が……がんばります!」


アスナの様子に笑いながら啓一さんは話を続ける


「いきなりは難しいかな?


剛久からアスナちゃんの話はよく聞いていてね、そうそう写真も見せてもらってたんだよ。


でも、本物は別次元だね! とても美人だ…… 


君を妻に迎えらる男はこの世界で上位に入る幸せ者だろうね」


男の魅力全開モードの啓一さんをみて男二人も危なく魅了されそうになる。


「お父様……お母様に言いつけますよ?」


怜奈のその一言でその魅力は跡形もなく消え去った。



「最後になったが、隼人君。 久しぶりだね! 大きく男らしくなっ………」



なんでしょう? なぜそこで止まるのでしょうか?? 


隼人の脳裏に嫌な予感が浮かぶ。


「男らしくというか……隼人君も美人になったな!」


ズガーーン!! そんな効果音と共に隼人はフリーズしてしまった。


そんな隼人は念仏のように


「ワルギハナイ、ワルギワナイ、ワルギワナイ」


と繰り返し呟き、


それを見た和輝とアスナは緊張などどこかに忘れて爆笑している。


「あれ? 何かまずいことを言ってしまったかな?」


「隼人様?」


状況が呑み込めない啓一と怜奈はほとほと困り果ててしまった。



「ハハハハハ!! それはすまないことをしたね」


和輝から事情を聞き、啓一と怜奈は笑いあっている。


「………いえ」


そうは言っているが隼人は見るからに不機嫌そうである。


「いや~~……本当にすまない。 しかし隼人君はさくらさんにますます似てきたね。


だから……いや、いかんいかん」


恐らくまた美人の話題に行きかけ啓一は咳ばらいを一つすると、話題を切り替える。


「怜奈や茜から聞いたよ。隼人君には一度ならず二度までも怜奈の危ないところを救ってもらい、


本当にありがとう。 怜奈の親としてもう私は隼人君には足を向けて眠れないよ」



天下の三千院のトップに足を向けて眠れないなんて……正直身に余りすぎる……


「いえ……そんな」


「いいや、この御礼は隼人君の家に着いた時にしっかりとしよう」


少し強めの口調から啓一は何か決めていることがあるのだろう。


確かにまだ子供はいない隼人だが、自分の大切な人を助けてくれた恩人には何かしたいし、


逆に何かしないと自分の気持ちが収まらないのは理解できる。


「そうですか……? ありがとうございます」


その言葉に啓一は隼人の心遣いを読み取ったのだろう


「ありがとう」とにこやかに答える。



隼人の一件があったからだろう、和輝とアスナの緊張がとれその後の車内は


和気あいあいとした物だった。


三千院啓一と言う人物はとても気さくな人物で、こんな人が世界経済を左右するとは思えない。


しかし、それはうちの親父もそうだ。


普段あんなにちゃらんぽらんな親父がとても要人警護なんて仕事をしているとは思えない。


きっとこの人も仕事の顔とオフの顔をしっかりと使い分けられる人なのだろうな……。



そうこうしているとまずは和輝の家に着いた。


この界隈で一番と言われる超高層マンション。そこの最上階が和輝の家だ。


その利便性に優れた立地やデザイン性などからかなりの人気物件で、その上最新の防犯設備なども


備えている億ションなんて呼ばれる物件である。


「送っていただいてありがとうございます」


和輝は礼儀正しく啓一と怜奈に頭を下げる。


「いやいや、そんなに改まらないで。


怜奈の友人をただ送っただけだよ。 これから怜奈のことをよろしく頼むよ」


「和輝さんよろしくお願いいたします」


「こちらこそ」



挨拶が終わり離れていくリムジンを和輝はしばらく見つめていた。



「剛久さんも……そして啓一さんも。


力の方向性は違えど、真の実力者とはああいう人達なんだろう……」



和輝はゆっくりとマンションの最上階に



「貴方とは大違いですね……」



軽蔑……そんな物が色濃く感じ取れる視線を向けるのだった。

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