1話 「6人の生活というか日常というか話のつかみのようなもの」
「ふぁ~あ あっちぃ」
7月のある日神城雄は夏の日差しの暑さによって目が覚めた。
ここは温帯である日本だが、廃教会に暮らしている雄には冷房のない部屋で暑くないと言うほうが無理であった。
といっても生まれてから一度も捨て子である雄は冷房が効いている部屋には入ったことがないのだが……
「あ おはよう雄。」
その時雄の1歳年下である義妹の渚が日本人なら誰もが言うであろう朝のあいさつをしながら雄の部屋の前を通ってきた。渚も雄と同じ時期に親に捨てられた捨て子である。
「ああ おはよう。」
そんなことを思いながらも結局雄も同じようにお決まりの朝のあいさつをしてしまうのだが。
渚とともに1階の食堂スペースに下りると、焼いたパンの香ばしい香りが部屋全体に広がっていた。雄たちが暮らしているこの教会は1階が食堂スペースとなっており、2階がそれぞれの部屋となっている。
「あら おはよう 雄 渚。」
「おはよう」
「おはよ~」
「お おはよぅ」
すると雄たちが起きてきたのに気が付いたシスターと3人の義兄妹がシスター、義兄の翔、義妹の茜、奏の順に声をかけてきた。どうやら雄が一番起きるのが遅かったようだ。雄、翔、渚、茜、奏の5人はみんな親に捨てられ、シスターに拾われた。茜と奏は同じ日に並んで教会の前に捨てられていたので、もしかしたら血の繋がった双子かもしれないが、雄たちはまるで本当の家族のように6人で8年前から暮らしてきた。
「それじゃあ朝ごはんにしましょうか。」
朝ごはんを食べ終わるとシスターはお金を稼ぐために仕事に出かけ、残った5人は、教会の掃除をしたり、近くの町に出かけ町の人のお手伝いをしてお駄賃をもらったり、夕食の買い出しや日用品を買ったりしていた。それが6人の毎日であり、幸せだった。