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五行戦国史+にこいち  作者: にがよもぎ
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家族が出来た

 戦国の時代は約二十年と短いが、その短い期間だけを区切ってひとつの時代と数えられている。

それだけその前後と比して全てのものに劇的な変化があったためである。

それ以前の五王国時代は一千有余年の歴史を数えるが驚くほど変化に乏しい。

理由は神話時代から続く神の直系たる王家が、その血に宿る神の力を使ってそれぞれの民を支配し続けたからだ。

今日では民族がまじりあって純粋な色は少なくなったが、当時の王家は北にある木の王族が黒い髪をもつように、南の火の国は赤、東の木の国が青、西の金の国が白、そして中央の土の国が黄色の髪を持つ王家に支配されていた。

これは当時に作られた古墳で発見された遺体の遺伝子検査によっても確認されている。

当時は今の倫理観とは異なり王族の中では血脈を純粋に保つため近親婚こそが普通であり、他国の王族との婚姻などあり得ることではなかったのだ。

このことを根拠に火の国のレオン王子と水の国のシェリルシア姫の悲恋など創作物語だとされていたが、伝承に有るレオン王子の恋文などが実際に先年発掘された水の国の王城跡で発見されて史実だと認められている。


 火の国最後の王となるレオン王子について正史における記述は水の国に対しての使節団を束ねるものとして初めて名が挙がり、以降数々の伝説として民間伝承に名を残している。

しかし次に正史に名が登場するのは火の国滅亡の一場面のみである。

王子が王位を得ていたのかも実は怪しい。


 一方のシェリルシア姫については女性にしては珍しく、女性として戦国正史に一番多く名が残っている。

三の姫ということで、他にいるはずの姉妹や母の名前が一切伝わっていないにもかかわらずである。

同時代の民間伝承において、帝国始祖の妻としても同じ名が有るが、水の神殿でレオン王子の恋文と共に発掘された石版に十八年の長きにわたりここで祈りの生活を送り、帝国の始祖に真名をあたえたとあるので、年齢的には別人だと思われる。

始祖の妻は母で有る巫女と同じ名を与えられたと考えるのが自然だ。

事実として正史に伝えられているのは最後の攻城戦で城を守る主将に彼の名があり、攻める軍に水の巫女シェリルシアの名があるというだけのことである。

この時代については何名かの人物の実績を長命な一人のものとして記されていることが多い。


 この戦国時代は神々が地上で人と触れ合って生活していた神話の時代に続く歴史のかなたであり、魔法で行ったと記述があり、現在の理論で説明できぬことは創作の一言で片付けられている。

しかし水の神殿が発掘されていくにしたがって思いが強くなる。

かつてここに、確かに神はいた。







 宇宙から落とされる俺の頭に神の命令が当然しなければならない物として入り込んでくる。

俺の中の反骨がいやだいやだと叫びわめく。

俺が水の神によって転生させられこき使われるというのだ。

そのために必要な技能と知識が俺の中に刷り込まれていく。

俺は母の次代として水の神に仕えるべき人として生を受けるというのだ。

俺が水の神に仕える巫女だって?

笑わせるんじゃねぇ、、精いっぱい抵抗してやる。


 落下の軌道が固定されて逃れられないがただ一つだけできることが有った。

神に改造されて完全に俺が俺でなくなる前に自ら加速して母となる女性の腹の中に飛び込んだ。

しかしそこにあった生命の素と一体化したとき別の異物が飛び込んできた。


 な、何が起きたんだ?


 !


 俺に無いはずの知識が俺にある。

その代わりに俺にあるはずの知識がなくなっている。


 俺の名前は?

自分の名も分からないのか?

一拍置いてその質問に二人分の名が出てこようとする。

冷静になれ、俺は……私は?


 まいったな。

俺が転生させられた体に火の神が別の魂を転生させようとしたらしい。

その火の神の戦士となるべき少女が突っ込んできたのだった。

彼女は俺を認識したと同時に抱きついてきた、俺たち二人とも多分精神だけのものなのでは有るが。


 泣きじゃくる彼女を抱きしめて背中をトントンと優しくたたく。

体が無いけどそういうイメージだ。

きちんと彼女に伝わっているから問題ない。

彼女は今俺でもある。

ややこしいが。


 彼女が落ち着くのに、たぶんでは有るけど丸一日かかった。


「お姉ちゃんお話して」

「昔々有るところにおじいさんと……」

「それ知ってる。ちがうのして~……」


 参った。

俺と彼女は記憶、データベースが半ば共有化されている。

精神年齢が退行してしまった彼女は、それでも俺のことを正確に水の巫女と認識している。

それで俺をお姉ちゃんと呼ぶ。

自分は炎の戦士で一人称は【ボク】だ。

長く一人ぼっちでいたためか、俺と衝突したためか彼女の心は非常にもろい。

それで非常に不本意だが、勝手に俺の精神体にふくよかな胸までつけてすりすりしてくる彼女を拒めない。

おまけに始終対話を求めてくる。

彼女と俺は記憶中枢を共有している。

つまり以心伝心以上の仲にある。

だから即興で物語でも作らねばならない。

かつて俺が作った与太話も彼女は全て知っているのだから。

俺は彼女をあやしながら物語を適当なつむいでいく。


 俺の方だけ頭を振り絞っているせいなのか、俺は変わらないのに彼女の年齢退行が進んでいく。

俺はその彼女と半分つながった状態で、双子では無く同じ体に入り込んでしまっている。

最初はまだ小さな細胞の塊だったがだんだん人の形をしてきた。

俺たちが生まれるとき、この体は彼女に任せればいい。

俺には赤ちゃんのまねなど出来ない。

家族から不気味に思われて捨てられたり間引かれたりするリスクは減るだろう。

少しだけ気持ちは軽くなった。







 

 




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