モ・テ・ル・オ・ト・コ -ショートショートー
友達だと思う彼は言った。
「君といると僕は楽しい。やっぱり親友っていいな」
僕は彼のことが嫌いだ。かもしれない。
良く二人で飲み歩く。
彼は顔がいい。調子がいい。うん、フロアレディーにもてる。
「だよなー?」と言って彼は僕の頭を強く平手打ちする。
なぜ僕は叩かれたんだろう。
彼が女の子に訊いている。
「なぁー、こいつと俺とどっちが好き?」
良く飲み屋で言う常套句だ。
「えー、どっちだろー」と女の子が言う。
彼の自信に満ちた顔が憎たらしい。
「こいつとは、親友なんだ。絶対離れないぜ」
やめてくれ。気持ち悪いから。
彼には妻がいる。子供も二人。
でも色々な女の子とホテルに行っている。
「うちのやつさー、働いてないくせにエアロビなんて通っててさー、ほんと頭くるったらねーよ」
いや。君よりも働いてるよ。育児全部、家事全部。君が女の子とイチャイチャしてる時にも、子供に絵本読んであげてるよ。
「親友のオマエなら俺の辛さわかるだろー?」
“シンユウ”の僕にだってわからないな。
僕は彼が嫌いだ。たぶん。
僕は一人でも飲みに行く。
気を遣わないでひとりで静かに飲める、誰にも教えない場所。
そこで、マスターに愚痴る。
「もてるヤツと一緒に、飲みに行くと寂しいね」
「そうかな? 自分の程の低さが理解できないよりも、私はもてない方がいいですけどね」
「あ……」
僕は彼が嫌いだ。
でも、なんだかそれが少し嬉しい。




