冬眠中のグリズリー
「何?その景気の悪い顔」
「そんなデリカシーに欠けたこと言うのは、平原さんくらいだな」
「チワワに噛まれたくらい、なんてことないでしょ?自業自得なとこあるし?」
綾音はいつになく険のある声で智哉を睨み付ける。
「自業自得か……、俺はもう誰とも付き合っちゃいけないってことか?」
「違うわよ。中途半端なことするからでしょ?チワワは完全に被害者よ」
「……中途半端?はっきり言えよ」
「アイツは弱くて、黙ってられない。そう言ったのは、西口先生じゃなかった?」
綾音は智哉の目の前に立ち、挑むように見上げる。
「……新山が何を言ったんだ?」
「……先生の離婚を聞いたときに、やっぱりまだ待ってるんだってぼそっと言ってた。……忘れられない人がいるのに、誰かと付き合うなんて、失礼にもほどがあるわ。ましてや丸野なんて、真っ直ぐで正直でバカだから、気付いたら、問い詰めないではいられないのよ。だから、言ったのよ。どうして丸野なのって。……私の考えすぎ、先生の気持ちも変わってる、そう考えてみたけど……」ふうとわざとらしくため息をつく。
「……済んだ話しだ」
「頭ではわかってても、心はついてこないのよ?済んでないから、丸野は聞かずにはいられなかったんでしょ?」
「……携帯を洗濯機に投げ入れるぐらいの気合いがいるのか?」
「相変わらず、嫌なこと言うわ。でも、かなりしつこいみたいだから、もっと気合いいるんじゃない?鍋で煮るくらい?衣を付けて、油で揚げないとダメかもよ?」
クマはクマらしくずっと冬眠してれば?吐き捨てるように言い、立ち去る綾音の背中を見送る。
外科病棟の小さな窓に風が吹き付け、ガタッとなる。その窓から見える曇天は低く重い、街路樹はすっかり葉を落とし、細い枝が風に揺れている。
まだ、冬は始まったばかりだ。
お付き合いいただきまして、
ありがとうございます( ´∀`)
他のシリーズでちょこちょこ登場する二人が
付き合ったらどうなるかしら?
そんな大楠の思いつきで書き始めました。
西口先生、ダメすぎやし……。
丸野、やっぱりイライラするし……。
わたしの愛がたりないわ(´д`|||)