晩冬の朝
終わりは、突然にやってくるものだろうか。始まりは曖昧なのに、終わりは突然、はっきりと訪れる。
まだまだ、寒い日が続くものと思っていたにも関わらず、いつの間にか、街路樹の細い枝の先にふっくらと芽がついている。
風の身を切るような冷たさも緩み、布団から出ることも、容易になっている。
すんなり布団から出られた朝、
エレベ ーターをおりて病棟に向かうと、深夜勤務中の綾音が、走り寄ってくる。
「西口先生っ!携帯、繋がらないんですけどっ?!」
「何かあったか?」
「沢口さんの内服っ、昨日で切れてます。当直の先生に出してもらいましたけど、ちゃんと繋がるようにしといてくれないと、緊急とか、急変とかあったら、困るからっ」
「あぁ、携帯、ちぎったから。番号、変わったんだ」
綾音の大きな目が更に丸く見開かれ、智哉を見つめる。
「……私、煮るか、揚げるかって言ったけど、ちぎったってか……。クマはやることが違うわ、さすが、グリズリーって?」
ふうっと大きく息をはき吐き、にこりと微笑む。智哉も笑ってみせる。
今更ながら、目の前の女と、ずっと心に引っかかていた女の質がよく似ていることに気付く。
「平原さんもある意味、被害者だな」
「やめてくれる?私を可哀想な目で見るの。何を言ってるのか、わからないし……。わかりたくもないわ」
綾音は眉をひそめ、智哉を睨む。
「新しい番号は、師長さんに言えばいいか?」
「……うん、そうね。バックアップとってないなら、高井君に電話帳の復旧を頼むといいわ。結構、顔ひろいから」
「経験談か?」
「……性格悪いわ、やっぱり。腹黒グリズリーね。善良で無害そうなふりして」
「相手に合わせることにしてるんだ」
「何?私のせいにするわけ?」
肩をすくめて微笑み、綾音は仕事に戻っていく。白衣を翻し、パタパタと足音を響かせる。
智哉は白衣のポケットの中にある、真新しい携帯の大きな画面をつるりと撫でた。
まだ、誰からも着信のないそれは、智哉の心を思った以上に軽くした。
一番初めの着信は間違いなく、病棟からになるだろう。
病棟から見える景色が、少し霞んでいる。
春はきっと、もう少しでやってくる。
お付き合いくださいまして、
ありがとうございます( ´∀`)




