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離婚の理由  作者: 大楠晴子
第2章 香苗
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寒風の止まない夜

 風が吹き付け、ザワザワと草木の揺れている音が聞こえる。

 オイルヒーターでじんわりとあたためられた寝室には、静かな寝息が心地よく響く。一度、目覚めたにもかかわらず、美結はすんなり眠りについた。

 小さな肩に毛布をかけ直す。


 智哉はもう、家に着いたのだろうか。

 誰もいない暗い冷たい部屋で眠ることを思うと胸の奥が少し重くなる。



「香苗……、もういいから」

 酔いつぶれて、眠っているはずの暁人がポツリと呟く。

「何?起きてるの?」


 音もなくベッドから起き上がり、フラリと寝室を出ていく、暁人の後を香苗はついていく。


 どさりと崩れ落ちるように、ソファに座り、暁人は、ぼんやりと空を見つめている。


「香苗、あいつは待ってる。前からずっと、お前のことを待ってる、わかっているんだろう?もう、行けよ」


「暁人……」


「あいつと話すお前の嬉々とした声を、俺がどんな気持ちで聞いているか、考えたことがあるか?……お前はどうして俺を選んだんだ?美結は本当に俺の子供なのか?」


「……暁人、美結はあなたの子供よ。私が大切に思うのは暁人、あなたよ。どうして疑うの?」

 暁人は、その香苗の言葉を噛み締めるように目を閉じている。


「あいつは……、あいつは美結が自分の子供だと思っているんじゃないのか?なぁ香苗?」

 開かれた瞳は、冷たく香苗を貫く。


「だから何?智哉が勘違いしているだけでしょう?私があなたの子供だと、言ってるのよ」


「香苗……、答えが違う」暁人は困った笑顔を浮かべ、言葉を続ける。


「……智哉はどうして自分の子供だと思うんだ?」


 香苗は言葉を失う。


「お前は俺を裏切った。そうだろう?よりによって相手は智哉だ。こんな仕打ちが許されるのか。なんであいつなんだ、なんで他の男じゃなかったんだ……」


「もう、やめて。言わないで」


「あいつがどうして離婚したか聞いたか?好きでもないどうでもいい女と結婚して、浮気されて、子供を認知して、捨てられたんだぞ。あんなにいいヤツなのにだ。どうしてか、わかるか?……あいつの心を捕らえていることに、気付いているんだろう?お前を待っているんだ、いつだって、いつまでだって。……あいつを幸せにしてやってくれ。だから、行っていいんだ」




「私が好きなのは、あなただけよ。どうしてわかってくれないの?どうして、私だけ責めるの?暁人だって、何度も他の女と……」


「わかってないのは、香苗だろう?俺の言葉を信じないで、適当な噂に流されたのは、香苗だろう?俺にやましいことは何もなかったんだ。」


「……」


「お前は、俺を選ぶべきじゃなかった。あのとき、お腹の子供の父親がおれだったとしても、智哉を選ぶべきだった。あいつもそれでいいと思っていたし、今だって、そう思っている。香苗を待っている。……香苗もわかってるんだろう?」


 まくし立てるように一息に、言葉を絞り出した暁人は、すがるように香苗を見つめる。膝の前で、だらりと垂らした手をぎゅっと握りしめ、香苗の言葉を待っている。


 どんなに言葉を尽くしても、香苗には暁人を納得させることはできないと思った。


 暁人が大切で、一緒にいたいと思いながらも、逃げ道を残したのは自分なのだから。


 夜が明けて、いつものように出掛けた暁人は、いつものようには、帰って来なかった。



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