第六十七話
Side:詠
突然現れた曹進によって場は一旦停止した。
塀の上に立っていた曹進は飛び降り、北郷達の元に向かった。
曹進の後ろには昨夜はいなかった、赤髪の少年と金髪の少女がついていた。
「やあ、北郷君。意外なところで会ったね」
「またお前か!どうしていつも俺の邪魔ばかりするんだ!」
余裕が見える対応の曹進に対して北郷は敵意むき出しだった。
随分と嫌われているわね。何やったのよ、あいつ。
「やれやれ、今回は君の相手をしていられるほど暇も余裕もないのだがね」
改めてみると曹進の身体にはかなりの血が付いていた。
服の破損からみるに自分の血と返り血のようだ。
「さて、北郷。くだらん話をしている時間はない。単刀直入に言うぞ。そこをどけ」
曹進の声色が雰囲気が変わった。
先程までとは打って変わり、相手を威圧するものだ。
「くっ、ふざけるな。お前みたいなやつに彼女達を任せられるか!」
北郷の言葉に曹進は心底うんざりしたように深いため息を吐いた。
「彼女達にどちらについて行くか選んでもらい、こちらを選んでもらえたら、彼女達からお前を説得してもらうのが本来の筋なのだろう。
しかしそんなことをしている暇などない。
急がないと他の連中がきてしまう。
彼女達のことは誰にも見られたくない」
確かに曹進の言う通りだ。
他の誰かに見られれば、それだけ僕達の危険が増す。
この非常事態に高順が率いる兵達に守られて移動するものなど怪しすぎる。
いきなり董卓に直結はしないだろうがそれなりの地位にいるものだと思われるのは当然である。
それが分かっているので皆、急いでいるのだ。
この場でそれが分かっていないのは北郷だけだろう。
しかしあの男が僕達が此処を通ると予測するのはまず無理だ。
おそらく奴に策を与えたものがいるはずだ。
後ろの化け物が咲夜達と戦ってでも、早々に私達を連れ去ろうとしたことから知恵者から説明はあったはずだ。
感情が常に先行してしまうようだ。
組織の上に立つ者としてはどうなのだろうか?
「なあ、北郷、よく聞け。こっちはこの作戦の為にかなりの人員、金、時間をかけているんだ。
貴様が昨晩、気持ち良く寝ていたのか、女とお楽しみだったのかは知らん。
俺達は一晩中、気が狂いそうな殺し合いをしていたんだ。
多くの敵を殺した。そしてこちらも多くの同士を失った。
この作戦で散っていった者達のためにも、必ず成功させんければいけないのだ」
場の雰囲気が豹変した。冷たく、肌を指すようだ。
曹進の身体から殺気があふれ出している。
「そこをどけ。殺すぞ」
声が大きい訳ではない。しかし圧倒的な威圧感があった。
この殺気を直接叩き込まれている北郷はどれ程の殺意を浴びているのだろうか。
曹進の殺気に押されたように、北郷が一歩、二歩と下がって行く。
三歩目にいこうとしたとき、後ろから化け物が支えた。
「残念ながらあなたの負けよ、御主人様」
大男の声に北郷が下を向く。
「私達は誰とも出逢わなかった、何も見ていない。それでいいかしら?」
「ああ。礼を言う」
大男に礼を言うと彼らの横を通り過ぎ、私達は走り去った。
安全なところに着いたところで私は先程の疑問を曹進に聞いてみた。
「ねえ、もしあの化け物が向かってきたらどうするつもりだったの?」
「俺と焔、瑠璃の三人で貂蝉であたり、蛟に北郷を徹底的に狙わす。俺達が時間を稼いでる間にお前達を逃がしていた」
蛟ってこいつ等のところの闇の部隊よね。
曹進の話によると、気配を断ち、三十人程の蛟のものが控えていたらしい。
化け物、もとい貂蝉もそのことは気が付いていたらしい。
一対複数で肝心なのは連携らしい。
いくら個人の武が強くても連携がなけれ一人で戦った方が強いらしい。
その点、この三人の連携の完成度は高く、無理に勝ちに行かなければ、あの恋とも互角にやりあう自身はあるのとのことだ。
以前、咲夜、霞、真夜の三人で挑んだときはあっという間に恋の勝ちだった。
確かにあの時、連携などあまりなかった気がする。
しかしそこまでやっても曹進は貂蝉に勝つとは言わなかった。
時間を稼ぐ、それが精一杯だと言う事か。
あの化け物、どれ程の強さなのよ。




