第六十五話
Side:咲夜
連合軍による攻撃が開始された。
すぐにも公孫賛、袁紹軍がなだれこんで来るはずだ。
私は二十人の部下と共に月と詠の二人を連れて、刹那様と外からの増援との合流地点に向かっていた。
二人の足では遅すぎるので部下達に背負わせて走っている。
妨害してくる敵は今のところ現れていない。
姉上達がうまくやってくれているのだろう。
ッ!
突如、私は言葉に表せない感じを覚えた。
なんだ、何だこの感じは。
「ぬっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
何かが近づいて来る!
「ぬっふぅぅぅぅ」
目の前に半裸の大男が降ってきた。
こいつか、こいつがこの妙な感じの原因か。
しかしなんなのだこいつは。
そこ知れない圧倒的な強さ。威圧感。
唯の変態ではない。
私は武器を構え、臨戦態勢に入ろうとしたが、すでに武器を構えていることに気がついた。
構えようとする前、奴を一目見た瞬間から身体がとっさにとった行動だった。
私の身体が、本能が警告する。
私ではどうあがいても、こいつには勝てない。
逃げろ!逃げるんだ!
「見つけたわぁん……。賈詡ちゃんたちぃ」
「…………ひ…………っ!」
月があまりの衝撃に気を失った。
無理もない。
気弱な月には衝撃が強すぎる。
しかし今こいつは賈詡を見つけたと言った。
詠も月程ではないが表に出ることはほとんどない。
外の人間で知っているものなどそうはいないはずだ。
「ゆ、月……っ!?な、なんなのよあんた達!どこから逃げてきた化け物なの!?」
「安心なさい~。私達は味方よん。あなた達二人、ここからだしてあ・げ・る」
「え…………?」
なん……だと。
「ちょっと待て。二人とはこの少女達、二人のことか?」
「ええそうよん」
ちぃ!やはり目的は二人か。
だが味方?助ける?
言葉通りに受け取っていいのか?
どうする?どうする?どうすればいい?
「さ、咲夜……」
詠のかすれる声が聞こえ、振り向くと不安そうな顔がそこにあった。
……私は自分の未熟を恥じた。
関係ない。
こいつが何ものなのか、何が目的かなど関係ない。
私は友の命を守り、刹那様からの命を果たすのみ。
逃げる選択肢はない。
なら答えは一つしかあるまい。
私は双鞭を一振りする。
部下達が私の意思を読み、武器を構える。
我、精兵達は例え相手がだれであろうと、一度戦うと決まれば臆することはない。
この場で求められる最良の選択。
我々が命に代えてこの化け物の足止めをし、なんとしてでも二人を逃がすことだ。




