第六十話
Side:詠
「それにしてあなたも無茶なことしますね。咲夜。今回の作戦では別にあなたの正体を明かす必要もないと言うのに」
「確かにそうですね。しかし彼女達には話しておきたかったのです。私にとって初めてできた友なので。
それに刹那様が以前おっしゃっていました。
『仕える主君を変えることは罪ではない。見限られる奴に問題がある。だが卑怯な罠で裏切る奴は屑だ。きっちり分かれを告げ、正面から胸を張って行け』と。」
なるほど。だから咲夜は私達に正体を明かしたのね。
「しかし私達があなたのことを裏切り者として処分するとは考えなかったの?」
「勿論考えたさ、詠。だが、それは微々たるものだ。私はお前達のことはそれなりに知っているつもりだしな。万が一殺されそうになっても最後まで足掻くだけだ」
「さすが咲夜やな。気持ちええわ」
「私達は別に裏切られたとも、騙されていたとも思っていませんよ」
「咲夜さんは咲夜さんですから」
霞、真夜、月が言った。他の者も頷く。
「良い友達が出来て良かったわね。咲夜」
「はい、姉上。私は恵まれています」
決戦前夜だというのに、なんと穏やかな雰囲気なことだろうか。
本来なら切迫しているはずだというのに。
だけどこっちの方が良いに決まっているけどね。
「咲夜。話は変わりますが、刹那様がすぐ傍までいらしていますよ」
「なっ!ここは敵のど真ん中ですよ!刹那様の身に何かあったらどうするのですか!?」
「まぁ、あの方は身内には甘いですからね。しかも心配症ですし。あなたのすることが分かっているので心配なのですよ」
曹進がここに来ているですって。咲夜が驚くのも無理はない。
いくら自分の上に曹操がいるからといって勢力の大物が敵地に乗り込むなんて。
なにを思ったのか咲夜が急に挙動不審な行動を始めた。
「あ、姉上。鏡!鏡持っていませんか!」
鏡?何に使うのかしら。
公孫真の後ろに控えていた女が咲夜に手鏡を差し出す。
「おお、すまないな」
咲夜は手鏡を受け取ると髪を整え始めた。
……なんですって!?
「姉上。どこかおかしなところは無いですか?」
「大丈夫よ。可愛いわ」
まさかこんな光景を見ることになるとは。今日は驚かされることが多いわね。
女性なのだから身だしなみを気にすること自体は可笑しくない。
だが咲夜もそうだが武人達はあまりおしゃれ的なことには興味があまりないことが多い。
外見を気にしている時があるのなら、武、指揮に磨きをかける方が大切なので当然とは言えば当然だ。
だが元が良いせいか、あまりこだわっていないが皆美しい。
「……よし。姉上、刹那様は何処にいらっしゃるのですか?」
どうやら咲夜の準備が終わったようだ。
ついに曹進のお出ましってわけね。
「‘すぐ傍’にいるわよ」
そういって横にずれた。咲夜と公孫真の後ろに控えていた女が向かい合う。
咲夜が怪訝な表情で女を見詰める。
「ッ!せ、せ、せ」
「久しぶりだな、咲夜」
「刹那様!!?」
なんですって!?何処まで私を驚かせれば気が済むのよ!
驚いているこちらを無視して、あちらは久しぶりの再会に盛り上がっている。
しかし本当にあの咲夜が唯の女の子にしか見えないわね。
話が一区切りついたらしく曹進が私達の方を向く。
「初めまして。曹操軍の曹進です。呂布殿と張遼殿はお久しぶりです。
こんな格好で失礼します。一応言っておくと私に女装の趣味はありませんよ。
ただここは一応敵地ですからね。私の顔を知っているものなどほとんどいないだろうけど念のためと言われましてね」
どうやら公孫真が準備をしたようだ。
背が女性としては高いが不自然と言うほどでもない。
体格はゆったりとした服を着ることで誤魔化せる。
問題の顔は厚化粧でなんとかしたと言うが、そこらの男ではこうはならないだろう。公孫真の技術も相当高いようだが元の素材もそれなりに良いようだ。
「さて、それでは時間は有限なので本題に入らせて頂きます」




