第五十一話
Side:華琳
「華琳さん!何をやっているんですの!」
予想通り麗羽は汜水関に一番乗りした私達が気に入らないようね。
もっともらしい理由を告げ、適当にあしらっておく。
「キーッ!上手いこと言って!どうせ汜水関を一番で抜けたかっただけなのでしょう!」
あたりまえじゃない。
後のことも考えると汜水関攻略の名誉はどうしても欲しかったのよね。
第一あんな中途半端な位置でふんぞり返っている貴方にはどうせ一番乗りは無理だったでしょうしね。
私達が言い争っていると、劉備が止めにきた。
劉備自身が私達に助けられたと言っているので、麗羽も文句が言えない。
「ぐぬぬぬぬっ!」
悔しがる麗羽を見ているのも愉快だけど、貯め込んだものが爆発するのは避けておいた方が良いわね。
「どうしてもと言うのなら、次の虎牢関攻略、私達が指揮を取っても構わないけど?
ただ……追撃は、誰かに引き受けてもらうと助かるわね」
「なら、追撃はわたくしが引き受けてあげますわ!虎牢関の一番乗りは譲ってもらいますからね!」
「……分かったわ。なら、それでいいわね」
本当に分かりやすい馬鹿ね。張り合いが無いのよ。
「予定通り、虎牢関攻略の指揮権は引き受けてきたわよ。これで良いのね、桂花」
「はい。呂布、高順の二人も加わる虎牢関攻略は汜水関攻略とは違い厳しいものになるでしょう」
汜水関攻略で既に名は手に入れた。しかも愛紗が華雄の副官の首を取ったおまけつきである。
虎牢関攻略は他の諸侯にゆずるわ。孟将達と虎牢関の最悪の組み合わせ相手に存分に兵を消耗すれば良いわ。
私達は高みの見物をしているから。
「名は手に入れたわ。次は実を取るわよ」
「董卓軍の孟将達ですね。一筋縄ではいかないものばかりです」
呂布の武勇は天下無双。飛将軍の名は伊達ではない。
呂布の武と方天画戟はまさに天下無敵。一騎打ちで勝てるものは存在しないであろう。
呂布が率いる歩兵部隊は『地獄の番犬』と恐れられている。
かの部隊がある限り董卓を倒すことは不可能とさえ言われている。
徐晃の率いる歩兵部隊も呂布軍と比べると見劣りするが精強だ。
『死の猟犬』と呼ばれ、狙った獲物は確実に仕留める。
群れで巧みな連携をとり狩りをする狼のごとく、常に敵に数人でかかり一蹴で仕留めていく。
高順は千の騎馬隊を指揮し、攻撃した敵を必ず打ち破る孟将だったため、『陥陣営』という異名をとっている。
長く綺麗な白髪をなびかせながら駆ける様は、戦場の美と言われるほど美しいと聞く。
張遼は個人の武よりも用兵が凄まじい。張遼の用兵は正に神出鬼没と聞く。
華雄は孟将ではあるが春蘭以上の猪武者。我軍には必要ないわね。
「呂布、徐晃、高順、張遼。この四人はなんとしても欲しいわね」
「また悪い癖が……華琳様」
春蘭が溜息を吐き言う。
名と実。両方手に入れなくてはこの連合に参加した意味が無いじゃない。
二頭追うもの一頭も得ず。なんて言うけど、私は二頭手に入れてみせるわ。
私一人では駄目かもしれないが兄さんとならできないことなどない。
「しかし華琳様。四人手に入れるのは流石に無理があると思うのですが」
「秋蘭の言う通りかと。特に呂布です。呂布を相手にするのも困難を極めると言うのに、他の者を捕える程我軍に余裕は無いかと」
「秋蘭と桂花の意見ももっともね。当然何か策はあるわよね、兄さん?」
全員の視線が兄さんに集まる。
「当り前だろ。俺が今回の為にどれだけの時間と労力をつぎ込んでいると思っている」
「それでその策とやらは?」
「慌てるなよ、桂花。正直な話、危険な綱渡りしている気分なんだ。だが必ず成功されてみせるさ。あと付けたすと軍師の賈詡も手に入れる」
まったく、この兄は私より欲が深いわね。
「取りあえず言えるのは、俺の計画がうまくいけばお前達に相手してもらうのは、高順と張遼だな」
「二人だけですか?」
「ああ、その二人は生粋の武人だからな。実際に戦って認めさせるしかない。
高順の相手は煉華に任せる。騎馬隊同士正面からぶつかり、我軍最強の騎馬隊とお前の力をみせてやれ」
「はい。必ずや刹那様のご期待にこたえてみせます」
「張遼は兵と切り離した後、春蘭が一騎打ちで負かせてやれ」
「はっ!」
「呂布と徐晃はどうするの?」
「華琳。呂布相手にやりあうなんて馬鹿げている。殺すならともかく生け捕りは至難の業だ。別の方法を考えてある」
「では徐晃は?」
「それこそ問題ない。なんたってあいつは……」