第四十八話
Side:愛紗
軍議を終えた刹那様達が戻ってきた。華琳様の表情から察するに良いことは無かったようだな。
「さてと。華琳、俺はちょっと劉備のとこに用事があるから行ってくるな」
「分かったわ」
焔と瑠璃が刹那様の元に駆け寄る。
妹の沙希をあるところに預けに旅に行き、帰って来た時にこの二人を連れて来た。
二人は刹那様の個人的な従者であり、刹那様の命しか聞く気がない。
華琳様は‘刹那様の大切な妹’だから一応言う事を聞く、といった感じらしい。
他のものは皆、横並びだ。
ちなみに二人は刹那様のために生きるものとして、義兄弟の契りを結んでいるらしい。あと上に二人いて、四人兄弟らしい。
焔は天真爛漫な性格だ。よく笑い、良く喋る。きついことを平気で言うがその通りだし、何故かあいつに言われると素直に受け止められる。嘘と命令されることを嫌う。まっすぐで純粋な男だ。
瑠璃は無口だ。必要最低限のことしかしゃべらず、殆ど刹那様の傍にいる。最初は表情も無いのかと思ったが、若干の変化があることに気がついた。何気ない仕草一つひとつが愛くるしい。
ちなみに早苗が初めて会ったときに……壊れた。
「早苗、お前も行くんだよ」
「えー、本当にやるんですか?」
早苗が嫌そうな声で聞き返す。
「やるんだよ。やって損はないだろう。それにお前の訓練にもなるかもしれないだろう」
早苗の時代では我らの世界と酷似している『三国志』がそれなりに有名らしい。しかし子供向けの娯楽、たしかげーむとか言ったか、それでは色々と史実とでは違う点も多く、勘違いして認識している若者がいるらしい。
今回早苗は、北郷に前世でそういった若者だったと思わせる課題を与えられていた。
早苗の前世の知識は各分野で活躍していた。だが『三国志』のことは言う事を禁じられていた。
「愛紗、お前も来い」
私を劉備達に合わせて、私の気持ちを確認しようと言うことか?
いや、違うな。私の気持ちは御存じのはずだ。そういった気持ちを踏みにじるかたではない。
それにあの笑顔は子供がいたずらをするときの顔だ。
大方、私を連れて行って劉備や北郷の反応を楽しみにしているのだろう。少しでも動揺してくれたら、楽に主導権を握れる。といったところかな。
また、動揺するようならその程度の器とも確認できる。
「曹操軍の曹進殿だ。劉備殿にお会いしたい」
私が来訪を告げると兵が駆けだしていった。
しばらくして兵が戻ってくると劉備達の元に案内された。
報告しに行くだけにしては時間がかかったな。なにかあったのか?
「そ、そ、曹進さん。お、お久しぶりです」
「……」
落ち着きのない劉備。敵意むき出しの北郷。
なるほど、そういうことか。
「やあ、劉備君。元気そうでなりよりだ」
刹那様はほがらかな笑顔で挨拶する。緊迫した雰囲気の二人との温度差が激しいな。
「曹進!何しにきた!?」
「そんなにがなるなよ、北郷君。それにしても嫌われたものだね」
「当り前だろうが!」
北郷が刹那様にくってかかるが、軽くあしらわれる。
「落ちつけよ。今回は君にとっても悪い話じゃない」
「……どういうことだ?」
「俺の用は君の所にかなり個性的な人物がいると聞いてね、ぜひ会ってみたかったんだ」
「それって貂蝉のことか?」
「ああそうだ。代わりと言っちゃなんだが、君が話がっていた早苗と話をさせてあげよう」
「……分かった。呼んで来る」
北郷が駆けだしていった。
お互いに会いたいものと会う対等な条件を出すことによって、向こうも警戒心が緩くなったみたいだ。
こっちは早苗の件も罠のようなものだが。
もっとも、間違った認識を植え付けることが目的というより、早苗の交渉や話術の訓練が目的だと思う。
刹那様と北郷が話している時、劉備と朱里達は相変わらずおどおどしていただけだ。進歩がない。
北郷が一人の男を連れてきた。そのものを見たときに、私は一瞬で凍りついた。
な、なんだあれは?!
言葉ではとても表現できない。したくもない。一言で表すのなら『変態』。
「初めまして曹進ちゃん。私が貂蝉よ」
やはりこのものが貂蝉か。
「……なんだお前は?」
流石の刹那様も驚いたようだ。それはそうだろう、あんなものを目の当たりにすれば!
しかしすぐに刹那様の様子がおかしいことに気がつく。警戒している。
「俺は旅している間に色々な人間にあった。神や仏、仙人と呼ばれる者達、最近では天の御遣い。どれもただの人間としか感じなかった。
しかしお前は違う。俺達とは根本的に違う。
焔と瑠璃は俺なんかより鋭い。お前から敵意を感じられないので、武器はだしていないが警戒はいている」
言われてみて気がついたが、何時の間にか二人が刹那様の前に立っていた。
「そんなこと言われてもねぇ。私は唯の踊り子。それ以上でもそれ以下でもないわ」
またしてもとんでもない単語が出たな。あの容姿で踊り子だと!?
「……そうか。なら一つだけ聞く。お前は俺にとって敵か?」
その場にいる全員に緊張が走る。
「私が尽くすのはご主人様だけ。あなたがご主人様と手を組むのなら味方だし、敵対するのなら敵ね」
「……そうか」
しばらく視線を合わせた後、刹那様が短くいった。
「俺の用は済んだ。早苗、お前は約束通り北郷と話をして適当なところで戻ってこい。焔、早苗の護衛に付け。悪いね、北郷君。疑っているわけではないが、手の速い君とうちの可愛い部下を二人っきりというのも心配なのでね」
確かに北郷ならやりかねん。とは流石に言い過ぎか。しかし気持ちも分かる。




