第四十四話
Side:沙希
沙希です。どうしてこうなったかは分かりませんが何故か刹那様と二人で旅をしています。
あれは五日ほど前のことでした。私は刹那様に呼び出され部屋に行きました。
特にこれといった成功も失敗もしてないので何のようなのか見当もつかず部屋に行きました。
『お前をあるところに預ける。明日出発するから準備しておけ』
なんて言われた。
…………なんですと??
訳が分かりません。
二人で旅に行くと聞いて、お姉ちゃんや凪は凄く羨ましいなんて言っていた。
宿に泊まった時、同じ部屋だった時は驚いた。
身の危険を感じた訳ではないが、少しは女性として認識してください!
理由を聞いたら『経費節約』の一言で終わった。
私は普通の宿の一泊の代金に負けたのか……。
勿論何も無かった。それはそれで少し寂しいような……はっ!い、今のなし!
「あそこが目的地だ」
低い山の、もうひとつむこうの山を指し、刹那様が言った。
歩き続けて低い山を越えると、すぐに谷川があった。その向こう岸の平地に、家が建っている。
私は、静かな、澄んだ心気に自分が包まれるのを感じた。
谷川を渡った。石積みの段を登り平地に出ると、少女がひとり立っていた。
長い金色の髪を風になびかすその姿はとても神秘的だった。
まるで妖精でも見ている気さえした。
「よお、瑠璃。出迎えありがとうな」
刹那様が優しい声で言った。
「ん。刹那も元気そうで良かった」
少女は声も可愛らしかった。
……って、呼び捨て!?
私が驚いている間に二人は先に行ってしまった。
少女は刹那様の腕に自分の腕を絡ませていた。
……恋人っていうより完全に兄妹だね。
畠の中に人ひとりが通れる道が作られている。家の前は、広場だった。
「刹那、刹那ではありませんか」
家の中から声がした。女性が縁から降りてきた。
「お久しぶりです。伯母上」
お、伯母上!?
どうやら家から出てきた女性は刹那様の伯母様らしい。
私は二人を見ていたがふと気がつくと金髪の少女がすぐそばに来ていた。
少女は私のことをじっと見つめてくる。
あっ、此の娘、左右の眼の色が違う。片方は黒でもう一方は青だ。
「……瑠璃」
「え?」
「瑠璃」
突然のことで困惑している私に少女は二回目は自分のことを指さしながら言う。
えーと。『瑠璃』って真名だよね?真名で呼んで良いってことなのかな?
「だからお前はいつも唐突なんだよ。それじゃぁ相手が戸惑うだけだって」
今度は赤髪に短髪の少年がやってきた。こちらは少し年上で私と同じくらいかな。
「俺もこいつも刹那様に命を捧げているからな。難しく言うと絶対の忠誠を誓うってやつかな。刹那様が言うんだったら白も黒になるし、殺せって言われれば誰だって殺すし、死ねって言われれば何時だって死ぬ。
というわけで刹那様が真名を預けた奴なら俺達も真名を預けるって訳さ」
「なるほどね。うちのお姉ちゃんもそんな感じだからなんとなく分かったわ。でもなんで私が真名を預けて貰って分かるの?」
「簡単なことさ。ここは刹那様にとっては特別な場所だからだ。そこに連れて来たってことはある程度の‘信頼’があるってことだよ」
……信頼ねぇ。
「自分ではよく分んないようだな。まぁあの人の人を見る目は確かだから大丈夫さ。もっとも考えるだけ無駄かもしれないがね。あの人は一度決めたことは簡単に変えないから、あんたが裏切らない限り変わりはしないよ」
そこまで断言されると確かに考えるだけ無駄かもしれないかな。
「ふーー。分かったわ。別に私も悪気がする訳じゃないしね。気にしないことにする」
「それが良いよ。俺は李松。真名は焔だ。んで、こっちが武姫。真名が瑠璃だ。よろしくな!」
「私は関平。真名は沙希だよ。こちらこそよろしくね」