第四十三話
Side:愛紗
季衣達が連れ去られたがどうしようか……。
とりあえず食事を済ませることにした。
食事を済ませ代金を払おうとしたら朱嫂殿に止められた。
私は何もしていないので心苦しかったが、時には人の行為を素直に受けることも大事だと言われ頷いた。
季衣達の様子でも見てこようかと思ったら声を掛けられた。
「お姉ちゃん!」
「沙希か、どうした?」
この少女の名は関平、真名は沙希。
私の妹だ。
今は春蘭の隊で下級将校をしている。
「なんかね、袁紹のところから使者が来ているんだって。それで召集がかかったから呼びに来たんだ」
「袁紹から?分かった直ぐに向かう。季衣にも……別に構わないか」
私は急いで城に戻った。
Side:華琳
麗羽からの使者として、文醜と顔良がやってきた。
二枚看板の二人をこんなことに使うなんて贅沢なことね。
だがまぁ、これは麗羽の本気を伝え、これを拒めばどうなるか分かるな、という意味合いもあるだろう。
もしくは唯の見栄っ張りの馬鹿か。
袁紹、袁術、公孫賛、西方の馬騰。よくもまぁ、有名どころの名前を並べたものね。
暴政を行っている董卓を討つ為『反董卓連合』ね。
大層な名目を並べているが董卓という無名な者が権力の中枢を握っているのが我慢ならいのだろう。
この連合で大きな手柄を立てれば、私の名は諸侯、民の間に一気に広がるだろう。
麗羽がこのような行動に出ることは想像できた。
あれが自分よりも下、無名の者が自分の上にいることなど我慢できるはずがない。
私は二人に同盟に参加すると伝えた。
二人はほっとした表情と共に帰って行った。
その晩季衣が一人の女の子を伴いやってきた。
少女は典韋と言う名で、真名を流琉というらしい。
「あの、華琳様。以前の御褒美の約束覚えていますか?」
「旗のことでしょ。当然よ」
なるほど。そういうことね。
「華琳様。流琉を華琳様の配下に加えてあげてください」
「それが望みと言うのであれば構わないわよ」
季衣と典韋も喜んでいる。
「典韋。私を華琳と呼ぶことを許します。季衣。流琉の事はあなたに任せるわ。流琉も、分からないことは季衣に聞くようにね」
「はい!」
「分かりました!」
Side:刹那
反董卓連合の参加が決定し、忙しくなってきた。
今回の件に関しては以前よりかなりの時間と人を使い下準備はして来ていた。絶対に成功させなくてはならない。
季衣が流琉と言う少女を連れてきて華琳の配下にさせて貰った。
昔は季衣とほぼ互角の実力だったらしいが、今は季衣が数段上になっている。
当然だな。一方は村で大人しく暮らし。もう一方は格上の連中にしごかれ、実戦も積み重ねてきた。差がつかない方が問題だ。
流琉は季衣と同じく華琳の親衛隊に配属された。
連合の参加までまだ日はあるのだからできるだけ軍隊としての動きに慣れさせないとな。
皆、自分仕事が忙しいので、そこは季衣に任せるしかないのだが。
流琉が加わったことにより、華琳の護衛が強化されたことによって、俺にも護衛を付けるべきだと桂花が言いだした。
確かに基本的には俺の専属の護衛はいない。俺が必要と感じた時だけ適当に付けているだけだ。
桂花には護衛はちゃんと目星を付けているから心配無用と言っておいた。確かにこれから戦いも厳しくなるだろうしあいつ等を迎えに行くか。
俺がそんな事を考えていると春蘭がやってきた。
「夜分遅くすみません。今宜しいでしょうか?」
「構わないよ」
「失礼します」
春蘭の顔が芳しくないな。何か悩み事か?
「実は沙希のことなのですが」
「沙希か。確かお前の隊で下級将校をやっていたな」
「はい」
「何かあいつに問題でもあるのか?」
「いえ、問題はありません。むしろよくやっていると思います。同年代の早苗や凪と比べると劣りますが、よく兵もまとめられています」
流石は愛紗の妹……いや、こういうのは沙希に失礼だな。親兄弟と本人の実績は関係ないものだろう。
「二百や三百の兵の扱いには長けています。同数なら凪にも引けはとらないかと。しかしそれ以上になると」
「なるほどな。しかし少数を率いる事に特化している者も少なくないぞ」
「確かに。ですがあいつはもう一皮剥ければというか、きっかけがあれば凪達に並ぶものを持っている気がします」
春蘭がそう感じたのならばそうなのだろう。
「それにあいつは兵に対する思いが些か強すぎます。確かに兵を思うのは大事なことなのですがあれでは……」
「自分の命を落としかねない、と言う訳だな」
春蘭は無言で頷く。
それで俺に相談しに来た訳か。
俺が凪の時みたいに面倒見てやってもいいのだが、いかんせん時間がないな。
数日の猶予はあるがこういったのは短時間では無理だ。
……ちょうど良いからあいつ等を迎えに行くときに、先生のところに預けるか。
「分かった。沙希のことは俺の方でやっておこう。しばらくは沙希を軍からはずすから隊の変更をやっておけよ」
「はっ!」




