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第四十二話

Side:愛紗


今日私は季衣と一緒にとある食堂に食事に来ていた。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


元気の良い少女に案内され、席に付いた。


この食堂の名物料理と言えば二種類の饅頭だ。


一つは熱した鉄板の上で脂を吸わせながら焼いたものだ。この脂が素晴らしい。良質の肉の脂と香料を混ぜたものである。

鉄板の上で焼いている時の匂いは思わず足を止めてしまう。

口に入れた瞬間、甘い味がする。それから肉の味がするのだ。


いかん、思い出しただけでも涎が出てきそうだ。


脂で焼いているのでこってり気味だ。本来は朝から食べるものではない。夜、酒を読む前に食べるものだ。しかし物凄い人気商品で食べたいと言う人が多く朝からやっている。


特に男性などから大人気の商品だ。


今度中に肉を入れたものや野菜を入れたものを出すらしい。楽しみだ。



二つ目は魚肉入りの饅頭だ。魚肉を刻んだものを麦の粉で蒸してある。生臭くならないように、魚肉は一度湯に通し、わずかに塩味をつける。


こちらはさっぱりしている。男性は勿論だが特に女性やお年寄りに人気である。



私達は二種類の饅頭といくつかたのんだ。



この食堂の店員は若い者や子供がほとんだ。

なぜならこの食堂は孤児院も兼ねているからだ。


陳留は昔から他の街に比べてかなり平和だった。しかし孤児がまったくいないわけがない。

貧しさから親に捨てられたり、売られたりする子もわずかとはいえいた。


この孤児院を作るのに刹那様は相当苦しんだ。


面倒を見てやれるのは数十人が限界だ。全体の数からしてみればほんの一握りだ。


資金面でもいくらあっても足りないような時代だ。財政にも負担は出てくる。


悩み続ける刹那様の背中を押したのは勿論華琳様だ。


目の前の数十人さえ救う事が出来ずに、世界を変えられるのか? と


今この孤児院には五十人ほどの子供たちがいる。


子供達はここの生活に入る時に必ずある約束をする。


『お前は一人だった。だけど今日からは私達が親になってあげる。一緒に暮らす子達が兄弟だ。お前が一人で生きていけるようになるまで、私達が面倒を見てあげる。だからお前が一人前になったら私達が困った時には助けて頂戴』


ここの子供達は自分達がどれほど恵まれているか知っている。


皆、自分達が出来ることはなんでもする。出来ることを増やす努力をする。


ここでは本人が望めば学問も武術も習う事が出来る。


上の子は下の子に。下の子も成長したら同じように面倒を見てあげる。





私が季衣と話しながら待っていると料理が運ばれてきた。


「お待たせしましたー。あ!愛紗様」


「おお、なぎさか。今日は休日か?」


「はい。だからこうやって家の手伝いをしているんですよ」


「そうか、あまり無理して体を壊すなよ」


「ははっ、平気ですよ。今までお世話になった分はしっかり返していかないといけませんからね」


この少女の名は周倉、真名は渚。

私が刹那様と初めて会った日に盗賊に人質に取られていた少女だ。


私達が去った後、私達の後を追ったが見つからず、さまよったあげく行き倒れていたところを拾われここの世話になったらしい。


これも何かの縁なのだろう。


渚と入れ替わりに女将さんがやってきた。


「やあ、いらっしゃい。関羽、許緒ちゃん。ぼっちゃんは元気かい?」


「はい。相変わらず忙しいようですが、私も含め周りのもので出来る限り補佐していきます」


「そりゃー心強いね。あの子は昔から一人でしょい込むところがあるから心配でね」


この女性は朱嫂しゅそう

ぼっちゃんというのは刹那様のことだ

朱嫂殿は刹那様の御母上の侍女だった。刹那様の面倒も見てこられた。

かなりの実力者で並みの兵が五、六人でかかっても軽く打ち負かすほどだ。

刹那様にとって初めての武術の師である。


ちなみに朱賛しゅさんという夫がいる。

朱賛殿は刹那様の教育係であった。

かなりの知識を持っており、軍学も相当なものらしい。

今は子供たちに学問を教えるのが生きがいらしい。


二人とも刹那様が幼い頃からの数少ない味方だ。



「悪いんだけどちょっと人探しを頼みたいんだけどいいかい?」


「構いませんよ。警備部門に私から依頼した方が優先してもらえますしね」


「ありがとうね。今日は私の奢りで良いから」


朱嫂殿が一人の少女を連れてきた。少女の名は典韋というらしい。


親友に呼ばれて三日ほど前にこの街に来たのは良いが、結局合流できなかったらしい。それで手掛かりが見つかるまでここで働いているらしい。


少女にその親友の特徴と名前を尋ねる。


少女。食べるのが大好きで力持ち。名は許緒。


…………


私は自分の横でひたすら猛烈な勢いで食べまくっている季衣をみた。


「…………にゃ?」


「あーーーーーーーーっ!!」


「あー。流琉―♪どうしたの?遅いよぅ」


やはり探し人は季衣だったか。これで一件落着。


……とはいかないようだ。


「季衣のばかーーーっ!!」


「流琉に言われたくないよぅっ!」


あー、どうするかな。


季衣が以前言っていた親友がこの子だとすると季衣と同等の力量らしい。勿論ここに来る前の話なので、今は力の差がそれなりにあるだろう。しかし私一人で止めるのは至難だな。

とはいえ私が止めるしかないだろう。

私が立ち上がろうとしたその時。


「五月蠅いよ餓鬼共っ!!」


朱嫂殿の拳骨が二人の頭に叩き込まれた。


「他のお客様の迷惑になるだろうが!喧嘩なら外でやりな!!渚!この馬鹿餓鬼共訓練場まで連れて行きな。そこでへたなしこりが残らないように徹底的にやりな!」


渚が目に涙を浮かばせ、頭を抱えながら崩れている二人を抱え出していった。



流石は刹那様の元世話係だ。



後に二人は語る。今までのどんな痛みよりも痛かった……と。


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