第三十四話
Side:早苗
黄巾党の問題が見事解決し私達は陳留に帰還した。
戦いの終結祝いとして今日はもうのんびりしていいと華琳様からのお許しが出た。
私は凪ちゃん達と宴会をすることになり、宴会で一発芸でもやろうかと考えていた。
しかしいざ陳留に着くと荷物を解く暇もなく、広間に召集をかけられた。
真桜ちゃんと沙和ちゃんはもちろん、他の皆も顔に出さないようにはしているが不満そうである。
「華琳様、今日は会議はしないんじゃなかったのかしら?」
紅様が笑いながら問う。あの笑顔はとても恐ろしい。
「私はする気はなかったわよ。宴会とかするつもりの者達もいたんでしょう?」
「宴会……駄目なん?」
「馬鹿を言いなさい。そのために貴方達には褒美をあげたのよ?……私だって春蘭や秋蘭とゆっくり閨で楽しむつもりだったわ」
ちょっ!朝廷からの使者がいるのにそんなにはっきり言って大丈夫なんですか!?
「華琳」
いらだってしょうがない華琳様に刹那様が一声かけた。
「……すまんな。みんな疲れとるのに集めたりして。すぐすますから、堪忍してな」
あ、この人も真桜ちゃんと同じ関西弁だ。……なぜ関西弁。
「あなたが何進将軍の名代?」
「や、ウチやない。ウチは名代の副官や」
それからは自分の上司に無茶苦茶なことを言った。一応悪い人ではないのかな?
どうやらこの人は張遼らしい。張遼って言ったら結構な有名人じゃない。
華琳様、刹那様の人材マニア兄妹がじっとみて観察している。
まあ史実でも張遼は曹操の元に下るから、来るんじゃないかな?
でも関羽のこともあるしなぁ。
どっちにしても、この二人が張遼ほどの武人に手を出さないなんて、考えられないんだけどね。
「呂布様のおなりですぞー」
あどけない声でそういうと、扉から更にもう一人が姿を現した。
……あれが呂布。三国志最強の武将か。
見た感じ普通の女性なんだけどね。
実力者には二つのタイプがいる。
一つは一目見た瞬間に圧倒的な実力がわかる。
もう一つは普段は何でもないのに、本気になると一瞬にして豹変する。
呂布はどうやら後者のようだ。
あの二本のくせ毛が俗に言う呂布の触角か!?
二本の飾りのせいでGとよく言われる不憫な御方でもある!!
……さっきから呂布の後ろにいるものが気になってしょうがない。
赤い毛の大きな犬がそこにいた。……いや、狼かな。
呂布の腰ぐらいの高さがある大型だ。しかも顔がかなり怖い。
あいつに襲われたらまちがいなく殺される自信がある。
……呂布が連れている赤い動物……。もしかしてあれが赤兎馬の代わりなのか?!
性別が変わっているんだから動物の種類が変わっていても可笑しくはないはず。
「曹操殿、こちらへ」
「はっ」
「…………」
呂布は何も言わない。場が静まり返る。
その様子を見た少女が慌てて話しだす。
「え、えーと、呂布殿は、此度の黄巾党の討伐、大義であった!と仰せなのです!」
「……は」
「して、張角の首級は?と仰せなのです!」
張角の首は殺した敵の兵の首で代用した。髪、眼、髭など分かりやすい特徴を噂で流し、それに近い首を選んである。
私達以外は知らないのだからばれる可能性は極めて低いはずだ。
「今日は貴公の此度の功績を称え、西園八校尉が一人に任命するという陛下のお達しを伝えに来た。と仰せなのです!」
「は。謹んでお受けいたします」
「…………」
「これからも陛下のために働くように。では、用件だけではあるが、これで失礼させてもらう。と仰せなのです」
「…………ねむい」
やっとしゃべったと思ったら眠いの一言ですと!
「ささ、恋殿!こちらへ!」
「……ま、そゆわけや。堅苦しい形式で時間取らせてすまんかったな。あとは宴会でも何でも、ゆっくり楽しんだらええよ」
そう言うと張遼も去って行った。
「…………」
怒っている。……間違いなく、怒っている。
「「「「「…………」」」」」
自然と皆、刹那様を見ている。
逝ってください、刹那様!あなたしか今の華琳様に声を掛けられる人はいません!
骨は拾ってあげますから!
「話は終わったな。これにて解散だ。作業は明日からで構わない。明日は二日酔いで遅れてきても眼をつぶるから、思う存分羽目を外していいぞ」
それだけ言うと刹那様は出て行ってしまった。
ちょっと-!華琳様このままにして出ていかないで!!
一時の静寂の後、華琳様の怒声が広場に轟いた。
Side:呂布
めんどくさい。
お仕事だからしょうがないのは分かっているけど面倒くさいのは面倒くさい。
今はねね達が帰る準備をしている。私はやることが無いので少し離れたところでセキトと待っている。
早く帰って寝たい。
……誰か来た。知らない奴だ。
振り返ると男が一人こっちに歩いて来ている。
誰?
「初めまして呂布殿。我名は曹進。曹操の元で軍部の指揮を執っている者です」
……どうでもいい。
「そちらに行っても宜しいでしょうか?」
「かまわない」
「立派な狼ですね。名は何と言うのです?」
「セキト」
「触ってもよろしいでしょうか?」
「セキトに聞いて」
男は腰をおろしてセキトに目線を合わせる。
セキトと男が束の間見つめ合う。
セキトに対して恐怖がないようだ。セキトは大きいから皆怖がる。
「セキト、触ってもいいかな?」
セキトは唯男の眼を見ている。
セキトが私以外の人間に興味を持つのは珍しい。
男がゆっくりとセキトの頭に手を伸ばす。
その動作は自然で落着いてみていられた。
男の手がセキトの頭を撫でる。セキトも嫌がっていない。
セキトの頭を撫でならがら男は何か話しかけている。その顔は優しい感じがした。
「動物が好きなの?」
「はい。私は馬が一番好きなんですけどね。何か語ると、馬は聞いてくれます。喋れはしませんが。私はたまに愛馬と喋ってきました。華琳や他の者に喋れないことが、時々ありましたからね」
男はセキトの首を抱いている。
少ししてセキトを挟んで男が座る。
特にこれといって中身のある話をした訳ではない。
たわいない話ばかりだ。
不思議と嫌ではなかった。
「ちんきゅーきーーーーっく!」
ねねが男に飛び蹴りをやろうとしたが、男は撫でもないようにねねを抱きとめた。
「君のような子がそんなことをするものじゃないですよ」
「うるさいのです!ねねの眼を盗んで恋殿と楽しくおしゃべりとは良い度胸なのです!」
嫌ではなかったが、楽しいとも思っていなかったのだが知らない間に顔が笑っていたのかもしれない。
「ねね。別に構わない」
「むむ。恋殿がそう仰るのであれば」
「どうやら準備が終わったようですし私はこれで失礼しますね」
「まって。名前もう一度教えて。今度は覚える」
「曹進です。またこうやって話ができる時が来ると良いですね」




