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第二十八話

※関羽と劉備、張飛の出会いはオリジナル設定になっています。




Side:関羽


~ 回想 ~


曹進殿と別れ私はまた一人旅を始めた。


旅を続けることで見えてくるものがあった。


何処の街でも、役人が幅を利かせていた。


関わり合うと、わずかでも銭を渡さない限り、その街にいられないような状態になることもあった。


身を潜めるようにしていても、人々の間に紛れこんで、眼だけ光らせているのだ。


旅人は、特に狙われた。


下手をすると、盗賊の身代わりに捕えられかねなかった。


腐っている。それが、私に見えてきた、この国の姿だった。


旅に明け暮れてきた。何かが進んだようでもあり、なにも変わらなかったという気もする。



曹進殿と出会ったのは、身も心も行くあてを失いそうになる私にとっては、一条の光のような救いだった。




ある時、女性と少女が賊に襲われているのを見つけた。


少女の方は相当なてだれで賊を撃ち倒していたが、女性のもうはろくに戦えずにいた。


女性を守りながらとなると厳しいようだ。私は二人の助太刀をした。


その二人が桃香様と鈴々だった。


二人は力ない人々を守ろうと立ちあがったらしい。




曹進殿と劉備殿は全く逆の考え方だ。


気高い志、強靭な力により理想を手に入れる。

いくら志を持とうとも、力がなければ潰される。

いくら力があろうと、志がなければ自滅する。


それが曹進殿の考えかただ。



力で作る平和は本当の平和とはいえない。

人と人はちゃんと話し合えば戦わず理解しあえる。


それが劉備殿の考え方だった。



曹進殿の対抗馬として相応しいと思った。それなりに有能な者なら探せばいくらでもいるだろが、比べるなら相反する者同士のほうが良いと思った。



~ 回想 終わり ~





私は話をするために桃香様達のところに行った。


今後のことに付いて話し合っているようだ。


「朱里ちゃん、どうしたらいいのかな?」


「やはり糧食の問題を解決することが一番の課題ですね」


「やっぱりそうだよね。う~ん。愛紗ちゃんは何か思いついた?」


「……今後の対策について話し合う前にすることがあるのでは?」


私の発言で桃香様はうつむき、黙り込んでしまった。


「曹進殿がしたのだからあなたも兵達に思いを伝えるべきなのではないのですか?なぜしないのかはっきり言ってあげましょうか。あなたは自信がないのです。兵達が曹進殿より、自分を選んでくれるようなことを言える自信が」


朱里と雛里の方を見ると彼女達も顔を伏せる。彼女達も分かっているから、桃香様に進言しないのだ。


例え朱里や雛里が言う通りに言ったとしても、桃香様に演技などできないので、気持ちが伝わらない。


「……桃香様。私があなたと共に行くと行った時のことを覚えていますか?」


「きゅ、急にどうしちゃったの?愛紗ちゃん」


私の様子がいつもと違うのが分かり、動揺している。これから起きる事態も気が付いているかもしれない。


「私があなたの傍にいるのは、私の中の主君とあなたが正反対の人物だったからと言いましたよね。あなたが彼を凌ぐものかどうか見極めたいと。


私はあなたに積極的な進言はしない。なぜなら私は困った時には、あの御方ならどう考え、どう行動するかと考えているからです。


それでは意味がない。私はあなたがどう考え、どう行動するのかが知りたいのだから。


その代わり私はあなたからの要望には、全力を尽くしてきました」


「そうだったね。愛紗ちゃんには無茶なことばかり頼んできたね」


「それは構いません。主の要望を叶えるのが臣下の役目ですので」


無茶な要望には慣れていた。曹進殿もたまに無茶なことを要求してきたものだ。しかしそれを達成すると確実に自分の糧になるのが分かりやりごたえがあった。


桃香様は理想が先に行きすぎていて、本人にも良く分からないことをたびたび要求され困惑したものだ。



北郷殿と出会い桃香様、鈴々、北郷殿が桃園で義兄弟の契りをかわす時も私は断った。



「私の胸の中に常にいる御方はもう分かっていますよね?」


「……曹進さんだよね。愛紗ちゃんの顔をみたらすぐにわかるよ」


「桃香様。私は曹進殿と再開したことにより、旅で観てきた辛さから知らず知らずのうちに、あなたの優しさに逃げていたことに気がついたのです」


あなた達といると辛い現実から逃げられた。私が真名を預けたのも。


「……ねぇ、……やっぱり曹進さんのところに行っちゃうの?」


桃香様が泣きそうな顔を見つめながら問う。


「……はい。十日程とはいえ共に闘い、やはり私が仕えるべき方は曹進殿しかいないと確認しました」


「……そう、いっちゃうんだ。私はどうしたら良かったのかな?」


「何をやれば良かったのかは私にはわかりません。私が言えるのはあなたの優しさは尊いものですが、これからの世では唯の甘さになるでしょう。優しさと甘さは違う。


後、あなたは周りの一部の人間に固執しすぎている。

他は知りませんが、曹操軍では将軍は将校と、将校は兵と話を良くするらしいのです。自分より上のものと話をするだけでも落着くものらしいです。


あなたは真名を預け合った者同士とは親しくしていましたが、兵とろくに話をしたことはないはずだ。私達にそういったことを命じたこともない」



いずれ窮地に陥り、我々のだれか一人の命と引き換えに何千、何万の兵、民を救えることができる方法があっても、この人なら仲間一人の命を取るかもしれない。


その選択を美談と感じるのは、周りの人間だけだ。

兵や民からすれば、自分達の命より一人の身内が大事かと非難されるだろう。




私は横で束ねている髪の根元に偃月刀をあて、斬り裂いた。


皆が驚いている。

それも当然であろう。この髪は私の自慢だった。曹進殿が美しいと褒めてくれたこの長い黒髪。


「これは私なりのけじめです。あなたの優しさに逃げ込んだ弱い私は今死にました。私があなたを真名で呼ぶことはもうないでしょう。


おさらばです、劉備殿。ご武運を」



私は劉備殿たちに別れを告げ、その場を去った。


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