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第二十七話

「皆知っているとは思うが、改めて名を名乗っておこう。我名は曹進。この曹操軍遠征部隊を指揮しているものだ。


初めに先程の戦いの労をねぎらうべきなのだろう。しかしお前達は本当に満足しているのか?お前達がやったことは、我軍が崩しに崩し、逃げまどう兵を後ろから斬っただけだ。


貴様らは脆弱だ。武装が貧弱というものもあるが、何より明らからに調練不足だ。


関羽や張飛のような優れた武将がいるにもかかわらず、なぜこれほどまで不足しているのか。答えは明白だ。


志も持たず、ただ食糧をもとめ加わった軟弱共に合わせているからだ。


気高い志を持ち、真にこの国の平和を、民の安全を願う勇敢なる者達に問いたい。


君達は本当に現状に満足しているのか。

我軍の戦を見て何か感じたのではないのか。


我軍の精兵達ももとは君達と同じ唯の平民だ。

彼らは志を持ち、過酷な調練に耐え、精強な兵達になりえたのだ。


この国は今乱れに乱れている。漢王朝は力を失っている。


我々には一人でも多くの同士が必要だ。


そこで我々は兵の募集を行うことにした。性別、年齢、出自は問わない。


求めるのは志のみ。食糧を求めてくるような軟弱共は一人もいらぬ。


たが覚悟はしておけ。我軍の調練は今までお前達が受け来たものとは次元が違う。

死よりも辛いものと思っておけ。


明日、陳留に向け行軍を開始する。

劉備軍の速度でいけば三十日はかかるだろうが、我軍なら十日もかかるまい。君達には流石についてこられないだろう。従って、我軍の新兵の調練を元に行軍する。おそらく二十日程だろう。

この行軍に遅れるものは容赦なく捨てていく。


それでもなお、我軍に加わりたいという者を我らは歓迎しよう。


明日の日の出とともに受け入れを開始する。今晩じっくり考えておいてくれ」





Side:関羽


演説を終えた曹進殿が私の傍にやってきた。


「関羽、お前も良く考え置いてくれ。別に今回断れば敵同士って訳じゃない。お前がどうして奴らと一緒にいるのかは知らんが、長引けばそれだけ分かれにくくなるぞ」


「今回の選択が私の最終決断です」


「分かっているだろうが、俺達と劉備達では考え方が違いすぎる。共に歩んで行くとことなど不可能だぞ」


「はい、それを踏まえて決めます」


曹進殿は頷き、自陣へ戻って行った。



兵達がざわついている。



兵が十数人ほど私の元にやってきた。


「関羽様は如何なさるおつもりですか?」


兵が私に問うてくる。


「私がどうするかではない。これはお前達自身で判断することだ」


この選択は自分の人生の大きな選択の一つだ。それぞれが考えるべきことだ。


「……俺達は曹進殿のもとに行こうと思います。あの人の話を聞いて、俺は自分を騙してきたんだって気付きました。

この国を少しでも平和にしたいと思い、義勇軍に参加しました。しかしやっているのは小さな事ばかり、力がないのだからしょうがないというのは分かります。

劉備様や天の御遣い様を信じていれば良い、って何度自分に言い聞かせたか」


別の兵が続ける。


「行軍や調練もそうです。食い物のことしか考えていない連中に合わせている。あんな調練じゃ力がつくとは思えない。関羽様が調練を厳しくしようとしていることは知っています。厳しくするとあの連中共は直ぐに離れようとする。それだと困ると劉備様が関羽様にやめるように言うのを何度か見たことがあります」


「食事の時に向こうの兵と結構話をしました。調練は相当厳しいらしいです。何度死にそうになったか分からないとも。だけど自分が強くなるのが分かるって、自分自身を誇れるって言っていました。俺達はそんなこと感じたことなかった」


「暗闇を当てもなく歩んできた俺達にとって、曹進殿の誘いは光なんです」



始めて兵の本音を聞けた、そう思った。


私も自分自身にけりをつけなくては。





Side:煉華


陽が沈み、夜食を済ませ兵が寝始めた。


刹那様は一人でたき火の火を見つめている。


「不安ですか?」


私は隣に座り言葉を掛けた。


「……まぁな。自分が練った策がうまくいくかどうかのこの瞬間は何時も不安でいっぱいだ」


はたから見る分には刹那様は自分に絶対の自信をもっているように見える。本人がそういう風に見せているわけだが。


「あの演説もうまく言えたか分からん。というか何言ったのか全く覚えていないんだよな。ああいうのは本来華琳の担当だし」


確かに目立つことは華琳様がやり、刹那様は裏で色々手をまわすのが本来の位置づけではある。裏方といっても、本人の存在感から割と目立ってしまう訳なのだが。そのくせ本気で暗躍する時にはだれにも知られることなくやってのける。


「大丈夫ですよ。今回の仕込みはうまくいったと思いますよ」


「……うーん。そうかなぁ…」


刹那様は自信が無いようにつぶやく。


「兵の方もそうだがやはりあいつが来るかどうかが不安だ」


「関羽ですね」


「ああ。あいつが来ないってことは俺はあの世間知らずな嬢ちゃんと小僧に負けたことになる。流石に自信なくすぞ。立ち直れないかもな」


苦笑いを浮かべながらため息交じりに言う。


「それこそ問題ないでしょう。あの二人との差は見せつけたし、部隊の指揮をとらすことで武将としも動かされたはずです」




人に最も喜ばれるものは何か。よく切れる武器?頑丈な防具?違う。食糧だ。しかも我らの糧食は他のものより味が良い。まずはそこで兵の心をつかむ。


だが人は贅沢には直ぐになれるものだ。特に新しく加わった者にはそれが普通などと思う者もでるだろう。だから朝食はあちらで出させ、差を忘れさせないようにした。


小規模な戦では義勇軍を前に出し、実戦を経験させる。

最後の戦で我軍の兵の精強さを見せつけ、同時に自分達の弱さを感じさせた。


仕上げに刹那様が演説をし、受け入れる姿勢を見せれば強くなりたいと思う者が我軍に加わってくるだろう。


勿論いくら口で言っても糧食目的のものが来るだろう。その者たちは陳留に帰るまでの行軍でふるい落とされる。ろくな鍛錬を積んでいない者には辛い行軍だ。その辛さに耐えられるかどうかもはかる。


脱落していくものは当然宣言通り捨てていく。







「酒などいかがですか?刹那様」


「付き合ってくれるのかな?お嬢さん」


「私などでよければいくらでも」




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