第十八話
Side:関羽
二人の軍師である、朱里と雛里の策により倍近くいる黄巾党に勝利した。
味方が逃げる黄巾党に襲いかかる。
「関羽様大変です!」
「どうした?」
「南に砂塵を発見!敵の別働隊のようです!敵数およそ三千!!」
なんだと!今我々は戦いで披露している。三千もの敵と戦える余力はない。視認できる距離からして策を立てる時間もないだろう。
どうすればいいんだ!?
その時、敵の後方から騎馬隊が黄巾党の部隊に襲いかかった。
騎馬隊は実に鮮麗された動きをした。それは美しいとすら思えた。
公孫賛殿の白馬隊も見事だったがそれを上回る動きだ。
騎馬隊は五百ほどだったが六倍の敵をいともたやすく殲滅した。
騎馬隊は去って行った。
あれほどの騎馬隊を有するとは一体何者だ?
敵の放棄された陣地で本郷殿と朱里達がわきあいあいとしているところへ、慌てた様子の兵士が駆け込んできた。
「はいはーい。どうしたの?」
「はっ。陣地の南方に官軍らしき軍団が現れ、我らの指揮官にお会いしたいと……」
おそらく先程の騎馬隊の本隊だろう。
「官軍らしき、とはどういうことだ?」
「それが……通常、官軍が使用する旗を用いず、曹と書かれた旗を掲げているのです」
!!
「曹といえば…許昌を中心に勢力を伸ばしている、曹操さんかと」
兵の説明で雛里が曹操の名を挙げたが、私には曹進の名が浮かんだ。
「どうする、桃香?」
「曹操さんって味方でしょ?じゃ挨拶はしておいた方が良いと思う」
皆の意見を聞き北郷殿は曹操と思われる人物と会うことにした。
男性が一人先頭を歩き、後ろに女性が三人やってきた。
……間違いない。先頭の男性は曹進殿だ。
Side:早苗
刹那様がさっき見かけた義勇軍に会いに行くので煉華様、凪ちゃん、私の三人がお伴することになった。
「あんたが曹操か?」
会うやいきなり男が刹那様に問いかける。挨拶もなしに失礼な男だな。
「ご期待にそえず申し訳ないが曹操じゃないよ」
「じゃあ、一体誰なんだ?」
「人に名を聞く前に、自分から名乗れと教えられなかったのかい?まあ別に良いが。俺の名は曹進。君のご所望だった曹操の兄だよ」
「こ、こんにちは。私は劉備って言います」
「こんにちは、劉備君。劉備か……良い名前だね。君がこの軍を率いているのかな?」
なんだか刹那様も子供の相手をするような感じでやっているみたいだね。見下すとか馬鹿にしているのではない。それ以前の問題なのだ。
「それはその……私が率いていたのじゃなくて、私達のご主人様が……」
「……ご主人様?」
ぶーー!ご、ご主人様ってマジですか!?
本当に配下の女の子にそんな呼び方させているのがいたとは!!
刹那様も怪訝な顔をしている。
「俺がそれ。……北郷一刀。宜しく」
と、北郷は片手を前に差し出してくる。
刹那様は笑顔で応える。
「宜しく、北郷君。ひょっとして君が噂の‘天の御遣い’かな?」
「そうですよー。ご主人様が最近噂の天の御遣いなんですよ」
北郷一刀。名前を聞いた時にひょっとしたら、日本人かもと思ったけど。当たったみたいだ。着ているのは学生服だし高校生かな。転生した私と違って、目が覚めたら知らない場所だった。というお決まりの奴かね?
「なるほど。君がこの部隊を率いていたという訳だね」
「俺の力だけじゃない。皆の力があってこそ、部隊を率いる事が出来たってだけさ」
北郷の言葉に周りの子が、お兄ちゃんはちゃんとやっているのだ!とか、ご主人様は立派です!とかフォローしている。
って、ちょっとまて!
「ほら!いたじゃないですか!刹那様!!見てくださいよ、あのエロゲーの主人公みたいな設定!あれ絶対ハーレムルート突入していますよ!もうフラグ乱立しまくり!!あいつより刹那様の方が断然格好良いし、財力とか地位もあるんだ……し……」
気がつくと刹那様の目つきが鋭くなっていた。
ぎゃー!ごめんなさい!
刹那様がちょっとお怒りだ。
そりゃそうだよね。こういう時って後ろに控えている私達は、許可がでるまで喋っちゃいけませんよね
「まったく、お前は何を突然言い出すんだ。あちらの皆さんも困惑……」
あれ?なんですか、その興味深いものを見つけた眼は?
刹那様の目線を追っていくと、私の突然の暴走に戸惑っている義勇軍の皆さまがいらっしゃ……る?
一人だけすっごく驚いている奴がいる。
北郷一刀だ。
……しまったーー!!!!
あいつ日本人だから私の言っている意味わかっちゃた!
「ねぇ、君!なんでギャルゲーとかハーレムとか知っているんだ!?」
ぎゃー、やっぱりそうなるよね。しかも、やっと糸口を見つけたと言わんばかりに詰め寄ってきた!どうしたらいいの私!?
あたふたしている私と北郷の間に刹那様が割って入ってきた。
「君が周りの子に主人様と呼ばせたり、手を出すことにはどうこう言う気はない。しかし、会ってすぐに他の軍の娘にまで手出すのは感心しないな」
そう言いながら、さり気なく私を自分の背に隠してくれた。
あらやだ格好良い。
惚れ直しちゃいそう。…いやいや違う、違う。
惚れそうになっちゃうだ。まだ惚れてないよ。
…‘まだ’って。