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第十話

Side:刹那


この日の朝議もいつもと同じ要件だ。

最近やたらと増えてきた謎の暴徒達。

各々黄色い布を身に付けた彼らは、何の予兆もなく現れては虐殺、略奪と暴れまわる。そのたびに我が軍にあっさりと鎮圧されている。


元はただの町民であるので大した実力はないが、こう頻繁に出てこられると疲労がたまる一方だ。民たちも安心して農耕、商いに集中できず、街の発展の妨げになっている。


おまけに、唯の町人なのだから殺す必要はない。ただ追い払えば良いなどと、言う文官かもいる。

ふざけるなよ。町人だろうと何だろうと、大した理由もなく略奪をし、人を殺せばそれは敵だ。文官どもは現場を知らんからそのような戯言がいえるのだ。

焼かれた家、無残に殺された人々…。


俺の苛烈なやり方を非難する文官どもは、黙らせている。華琳や桂花も俺の言うことも一理あるので今のところ認めている。



桂花によると陳留だけでなくあちこちで、同じような連中が暴れているようだ。


一団の首魁は名前が張角ということしか分かっていない。この情報もはっきり言って確実でない。捕えられた賊を尋問しても、誰一人して話さないらしい。話さない理由の候補は三つほどある。

忠誠心が高い、恐怖による縛り。一つ目だと口を割らせるのは、かなりやっかいだ。

二つ目は簡単だ。言わなければ、さらなる恐怖を味わうと教えてやればいい。

尋問など言わず、拷問にでも掛ければあっさり喋るだろう。


だが、今回は無駄だろうがな。


今回のは三つ目の何も知らない、だろう。中核となるものはいるだろうが、殆どのもが影響を受け便乗しただけの連中だろう。首魁の名前、顔を知らなくても不思議ではない。


早苗の命名により連中を【黄巾党】と呼称した。


華琳により、まずは情報収集を優先させることに決まった。


俺お抱えの間者なら詳しい情報を手に入れられるだろうが、他に探らせたいことがあるのでまわしている余裕はない。まだまだ人数が足りないのだ。





一人の兵が駆け込んできた。


南西の村に黄巾党が出没したらしい。


「休む暇もないわね。……さて、情報源が早速現れてくれたわけだけれど。今度は誰が行ってくれるのかしら?」


「はいっ!ボクが行きます!」


「季衣ね…」


季衣が勢いよく手を挙げるが、華琳は難色をしめす。


当然だな。最近の季衣に出撃の回数は多すぎる。自分の村のように困っている村を、人々助けたいのは分かる。しかし、今は体を壊すかもしれないほど頑張る時ではない。書類仕事なら倒れるだけのことでも戦では死に繋がる。


華琳の説得にしぶしぶ引き下がる。


今回は紅が出撃することになった。


「紅さま!」


「どうかしたの?気持ちは分かるけど、連れて行ってあげられないわよ。私も華琳様達と同じ気持ちだからね」


「そうじゃなくて。あの…えっと……ボクの分まで、よろしくお願いします!」


「任せておいて。季衣ちゃんの想いは確かに受け取ったわ」




やらなければならない仕事があるのだが、先に季衣の話をしておいた方が良いだろう。


季衣は紅達の出発を見送ろうと、城壁の上に腰を掛けていた。


「あ、刹那さま」


「どうした。落ち込んでいるのか?」


俺は季衣の隣りに腰かけた。


「……ボクだって、落ち込むときくらいありますよぅ…」


「ははっ、それりゃそうだな」


俺が頭を撫ででやると、いくらか元気になったかようだ。


「お前は不本意かもしれないが、華琳達の言っていることも尤もだぞ」


「刹那さままでそんなこと言うんですね」


「言うよ。今はまだ無理してまで戦うときじゃない。相手の姿がはっきり分かった時に暴れるためのも、今は体力を温存しておくじゃないのか?」


「……それはわかっていますけど」


「それに、万が一お前の身に何かあったら、誰が俺達を守ってくれるんだ?あの時の言葉は嘘だったのか?」


「……嘘なんかじゃないです!」


要約気持ちの整理がついたらしい。ひょいと城壁の上に飛び乗ると歌い始めた。


大声を出すだけで、決して上手くはなかった。しかし、何だか季衣の元気をそのまま分けて貰えそうな、聞いているだけで元気が出てくる歌だ。


門を出ていく紅と兵達が、こちらを見上げ手を振ってくる。

季衣も歌いながら頭の上で大きく両腕を振っている。

せっかくなので俺も軽く手を振っておく。


「ところで季衣。良い歌だが聞いたことが無いな。なんて歌だ?」


「実はボクもあまり知らないんですよ。ちょっと前に、街で歌っていた旅芸人さんの歌なんですけど……。確か、名前は張角…」


「……一応華琳に報告しておくか」


季衣の見た張角と例の張角が一緒だと謎が謎を呼ぶ。

旅芸人がなんでこんなことを仕出かすんだ?




その晩、紅達が帰還した。

内容が内容だけに主だった者が集められ報告会が開かれた。


紅が行った村の証言や、陳留周辺のいくつからの村からの調査でも同様の旅芸人が目撃されていたのでほぼ間違いようだ。


女三人組の旅芸人。一人が張角。残りの二人が補佐役かな。


「正体が分かっただけでも前進はあるのだけれど…。可能ならば、張角の目的が知りたいわね」


確かにあれから考えていたが、これといった理由が思い浮かばん。


「目的ですかぁ。実は目的なんか無かったりして」


「どういうことなの?早苗」


「えっとですねぇ、華琳様。張角ってのは急にもの凄く人気がでた歌い手だと思うんですよ。急に人気者になったもんだから有頂天になって、『私、大陸がほしいのー』とか勢いで言っちゃって、熱狂的なファンが暴走し始めたとかじゃないかなって」


「ファン?」


「ファンっていうのは特定のものを凄く好きになるっていうか…」


早苗の言葉で一つの仮説が立てられた。


「早苗。ファンとやらは信者みたいなものとも言えるか?」


「信者かぁ。……まぁ熱狂的なのは言えなくもないのかな」


「兄さん、何か考え付いたの?」


「ああ、早苗の話もまんざら馬鹿に出来ないと思うぞ。急に金や権力を手に入れると暴走する奴は多い。そして張角を教祖とする一種の宗教と信者達だと考えるとあり得ない話ではない」


「確かに考えられなくもないですが……」


桂花は俺の仮説にそれもありかもと思いつつ、完全には納得できずにいる。


「まぁ、仮説はいくら立てても仮説だ。大した意味はない。それに目的がどうあれ、華琳の覇業の妨げとなるようなら排除するまでだ」



今日の夕方、軍令が届いた。早急に黄巾の賊徒を平定せよ、と。

対応が鈍すぎる。朝廷の力も確実に弱くなってきているな。


まあ、これで大手を振って大規模な戦力を動かせるということだ。



「華琳様!」


「どうしたの、春蘭。兵の準備は終わった?」


「いえ、それが……また件の黄巾の簾中が現れたと。それも、今までにない規模だそうです」


「……そう。一歩遅かったということね」


「ああ、予想より早かったな」


早くて二日後、明日出れば間に合うと思っていたのだがな。


「……春蘭、兵の準備は終わっているの?」


「申し訳ありません。最後の物資搬入が、明日の払暁になるそうで……既に兵に休息をとらせています」


「間が悪かったわね。恐らく連中は、いくつかの暴徒が寄り集まっているのでしょう。今までのようにはいかないわよ」


いくつかの集団が集まったということは指揮官が現れた可能性が高いな。今までのようにはいかないかもしれないな。


「万全の状態で当たりたくはあるけれど、時間もないわね。さて、どうするか……」


「華琳さま!」


そんな中、手を挙げたのは今まで黙っていた季衣だった。


「華琳さま!ボクが行きます」


「季衣!お前はしばらく休んでおけと言っただろう」


「刹那さまおっしゃいましたよね。『今はまだ無理してまで戦うときじゃない』って。今が無理してでも戦う時じゃないんですか!!」


季衣が力強い目で俺を見つめてくる。華琳の方を見ると俺に任せるようだ。


春蘭がまた季衣に何か言おうとするのを俺が止めた。


「季衣、確かにお前の言う通りだ。華琳、俺が行こう」


「あら、行ってくれるの。兄さん」


「どうせ明日行くのは俺だったんだしな、少し早くなるだけだ。季衣、俺も忙しくて疲れているからな、一緒に来て助けてくれるか?」


「はい!」


「そう。他に連れて行きたい子はいる?」


「秋蘭もほしいな。あっちの守備隊との連携も必要になるからな」


「分かりました。春蘭、直ぐ出せる部隊はある?」


「は。当直の隊と、最終確認をさせている隊は残っているはずですが……」


「兄さん、補佐に秋蘭と季衣を付けます。それらの部隊を率いて、先発隊としてすぐに出発してください」


「了解!任せておけ」



「ん、なんだ春蘭?」


「いや、煉華のことだから補佐には自分が行く、とか言うかと思ったのだが…。お前の隊ならいけるだろう?」


「お前馬鹿だろう。確かに私の隊ならいかなる場合でも直ぐに出撃できる。しかし今回は、本隊が到着するまで籠城戦だ。私の騎馬隊の出番はない」




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