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第九話

Side:刹那


あの戦いの後、華琳は陳留の刺史から、更に広い地域を治める州牧へと昇進した。


陳留刺史として十分な実績は上げているし、この辺り一帯の盗賊の討伐による武功もある。順当な結果である。

ついでに桂花が中央の知り合いに手をまわしたらしい。


いきなり州牧なんかになるから、引き継ぎや手続きなどで忙しかったが、やっと一段落ついたところだ。


今日は華琳達がいくつかの街の視察に行くことになっている。


面子は華琳、春蘭、秋蘭、紅、桂花と兵五十人ほどだ。


季衣は今朝、盗賊のアジトを発見したとの報告を得て、自分が行くと聞かなかった。結局、華琳が折れた。


しかし季衣よ。いくら領内とはいえ親衛隊隊長がそばに付いていないのはいかがなものか?まぁ、華琳が許しているので何も言わないが。


俺は有事の際の対処のため居残り組である。


最初は華琳が俺ではなく、桂花と決めたのだが日頃の頑張りの報酬として変わってやった。


『せ、刹那様!!』なんて目に涙を浮かべるほど喜んでいた。華琳のそばで束の間の至福の時を堪能したら、また働いてもらうからな。


ちなみに煉華は興味が無いと言って調練中だ。

別の盗賊が出た時の備えのためにも、残っていたほうが良いのはたしかである。



早朝。出発する華琳達を見送りに行く。


「それでは行ってきますね、兄さん。留守番、よろしくお願いします」


「ああ、気をつけるんだぞ。何が起きるか分からんからな」


「刹那様。お土産いっぱい買ってきますから楽しみにしていてくださいね」


「季衣の分も買わないとな。…しょうがないから煉華の分も買ってやるか」


紅。一つで十分だぞ。

春蘭。煉華の分も買ってきてくれるのか。やっぱ仲良いよな。


だが、お前達ちゃんと視察やれよ。


「あんたたち、観光に行くわけじゃないのよ?」


ほら、桂花から言われたぞ。


「まったく、ちゃんと仕事はしなさいよね」


華琳の注意に元気よく『はい!』と返事する二人。

返事だけは良いんだよな。




華琳達を見送った後、部屋で軽く雑務をしながら今日の日程を計画中である。この調子でやれば昼頃には粗方終わりそうなんだよな。


うーーん。どうしたものか。久しぶりに時間が空くと、何をしていいのか分からなくなるな。


…あ、そうだ。久しぶりに煉華と食事にでもするか。あいつ確か予定だと昼から休みのはずだったしな。


そうと決まれば早速、煉華を誘いに行こう。まだ昼にはかなり時間があるが、こういうのは早いほうが良い。




煉華に会うために練兵場にやってきた。

俺の姿を見つけた牛金が駆けつけてくる。


「刹那様。何か御用ですか?」


「ああ、煉華に少し用があってな。早苗さなえ。悪いんだが呼んで来てくれないか」


「了解です」


この間の遠征で満足できる結果を残したので、真名を預けることにした。俺が預けたので煉華をはじめ、華琳達も預けたようだ。俺が認めた相手なら自分達も構わないとのことだ。


早苗に連れられて、煉華がやってきた。


「刹那様。いかがなさいました?」


「いや、大したことじゃないのだが。煉華、今日の午後空いているか?」


「はい、空いていますが。…それがなにか?」


煉華は俺の質問の意図がつかめないらしく、不思議そうな顔をしている。


「今日、午前中に仕事が終わりそうなんだ。だから久しぶりに二人で食事でもどうかと思ってな。付き当てくれるかな?」


俺からのお誘いが意外だったのか驚いている。


「私などで宜しければいくらでも」


微笑みながら答えてくれた。


その笑顔を見た時、胸が一瞬高鳴るのを感じた。


今のは一体何だったのだろうか?


「それじゃ、俺は部屋に戻って仕事を片付けておくよ。悪いが調練が終わり、準備できたら部屋に来てくれ」


「わかりました」


煉華の返事を聞き、俺は楽しみにしているよと声を掛けて部屋に戻った。





Side:煉華


調練をしていると早苗が呼びに来た。刹那様がお呼びらしい。


要件は今日の昼食のお誘いだった。しかも二人っきりで。私は胸が弾んだ。


…いや、まてまて。あの御方のことだ、深い意味はないだろう。


単純に私との食事する機会が最近無かったので、今回のお誘いなのだろう。


そう思うようにしても、自然と顔が綻んでしまっているかもしれない。


調練は午前で終わり、午後は特に予定もなかったのでお受けした。


「煉華お姉さま!刹那様とデートですね!!」


「でーと?なんだそれは」


早苗の単語には意味のわからないものが多い。最近では誰が呼び始めたのか、早苗(牛金)語などと呼んでいる者もいる。


「あ、そっか。えーと、好きな男女が一緒に会うっていうか。…ああ!逢い引きですよ」


「なっ!?た、ただ、食事に行くだけだ。他意はない」


「いやいや、刹那様は絶対、煉華お姉さまに気がありますって!乙女の勘が叫んでいます!!」


「……で、その乙女の勘とやらは当たるのか?」


「まったく当たりません!ですが今回は自信ありです!!」


……もしかして。いやいや!!変な期待はするな!相手はあの恋愛音痴の刹那様だ

自分に言いかせて、調練を再開した。


いつもより厳しすぎると、早苗は呟きながら倒れていた。




風呂に入り汗を流した後、着ていく服を選ぶ。…選ぶ?


服なんて普段気にしない私が、持っている服のほとんどを並べ吟味している。早苗が変なことを言うので気持ちが浮ついたままのようであった。


気持ちを切り替え、適当に服を着て刹那様の部屋にいった。


ちょうど刹那様が部屋から出てこられた。


「なんだか煉華が来ると思ったが、やっぱり来たな」


超能力者ですか。


「さて、何を食べようかね?」


「私は特にこれといって無いので、お任せします」


「そうか?う~ん、俺も煉華となら何でもいいのだがな」


子供っぽい笑顔で彼は言う。


‘と’という部分におもわず喜んでしまう。


だから、まて私!私だけが特別なのではない。


政略の時などは自分の内心は見せず、巧みな話術で望み通りの結果を勝ち取る。その反動なのか心を開いた相手には結構子供っぽい姿を見せる。思ったことをそのまま言葉にする。


結局、刹那様が以前季衣からお勧めと紹介された店に行った。


質素な店だったが、料理は美味しかった。


会計は刹那様が出してくださった。

私は自分の分は出すと言ったが、『誘ったのは俺だしな。俺に出させてくれ』と言われた。


その後はぶらぶらと街を歩き、店などを見て回った。


とある店で可愛い髪飾りを見つけた。しかし私には似合わないだろう。こういったのは早苗のような可愛い子にあうものだろう。


夕刻になりこの楽しい時間も終わりに近づく。

相変わらず、恋愛とは程遠いものだったが楽しかった。


「今日は楽しい時間をありがとな。おかげで良い気分転換になった」


「私も楽しかったですよ」


「これはほんのお礼の気持ちってことで受け取ってくれ」


刹那様は懐から紙に包まれた、小物を渡してきた。


紙から取り出すと私は驚いた。


私が見つけたあの髪飾りだった。


「えっとだな。なんかお前に似合いそうだと思って思わず買っちまった」


恥ずかしいのか照れくさそうに笑いながら言った。


「……ありがとうございます」


まったく、どうしてこの人はこうなんだ。


これではまた、あなたに魅かれてしまうではないか。


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