御堂カノン、17歳。ただいまピンチです。
御堂カノン、17歳。
職業、女子高生。
ただいまピンチです。
春になると出現率が高くなる変質者さん。
それは暖かい気候が開放感を助長するのか。
最近では年中、学校で不審者の連絡が回され、注意を呼び掛けられる。
それでもやはり一番多いのは、春だと思う。
というのも、御堂カノンことワタクシ現在、変質者さんに遭遇中です!
見た目は若くてそこそこキレイなのに、変質者さんなんて残念極まりない……なんて、冷静に考えている場合ではない。
「あぁ、ボクのカノン!
やっと会えたね!」
とかなんとか宣う目の前の変質者さんは、金髪碧眼、服装はどこの中世ヨーロッパ?な王子コスプレ。
ここはニッポンの片田舎です。
最近増えているらしい外国人コスプレイヤーとやらは、TOKYOに行ってください。
曲がり間違っても、電車が一時間に一本しかないような田舎にいるべきではない。
浮きすぎ。
やたらと距離を詰めてこようとする日本語ペラペラコスプレ外国人から一刻も早く逃げ出したいのに、そうは問屋が卸さない……。
目の前の金髪とは別にもう一人、私を後ろから羽交い締めする変質者さんがいるのです。
だれか助けて!と叫びたくても叫べないのは、周りに人っ子一人見当たらないから。
ザ・田舎!
冷や汗だけがダラダラと流れる。
理解できない状況に頭がパニクりすぎて、逆に冷静みたいな!じゃない!!
「あ、あ、あの、人違い……」
「そんなわけがない!
木の実のような綺麗な茶髪も、オニキスのような漆黒の瞳も、愛らしいピンクの唇も!
全部がボクのカノンであることを示しているじゃないか!!」
どこの詩人だよ。
外国人は愛情表現が激しいとは聞くけどさ、これは単純にサムイだけだろ。
こちとら日本産日本育ちの純日本人なんだよ!
ちょっと顔を動かしたら触れるんじゃないかってくらい近い顔はキレイ過ぎて迫力がある。
そこそこキレイとか思ってすみません。
マブシイくらいの美貌です。
そんな変態に、日和見シュギな私には、直接文句は言えません。
「と、とりあえず、離してください!」
言った!
言ってやったよ!
「え?やだよ。今から還るんだもん」
あっさりと金髪に流されました。
還るってなに。
私は家に帰りたい。
「わ、私は家に帰ります!」
「うん?だから、家にかえるよ」
話が通じないと思ってたけど、変質者さんは案外話が通じるじゃない!
「シュリオン、離しちゃダメだからね」
「御意」
初めて私を羽交い締めする変質者さんがしゃべった。
芝居がかった口調も魅力的なバリトンにはとても似合っている。
こっちは銀髪蒼目でやっぱりイケメン。
服装は騎士?なコスプレ。
腰に剣の模造品まで付けちゃって凝ってるなぁ。
金髪に比べて愛想がないけど。
でも何気に私、いま役得?
変質者とはいえ、イケメン外国人に囲まれてるって、おいしいシチュエーション?
なんてぶっ飛んでいたら、金髪の方がどこからか身長くらいある杖を持ち出して、くるくる回していた。
あー、王子じゃなくて魔法使い設定だったのか。
「磁場固定。
チキュウ世界日本国発、セレスティア世界ジュディア王国着。
同行者シュリオン・ヴェルド、カノン・アル・ジュディア。
発動者アルト・イー・ジュディア。
界渡り発動」
金髪が淡々と述べ、最後に杖の先をトンっと地面につけたーー途端に、私と銀髪と金髪の足下を囲うように碧に発光する複雑な紋様の円陣が現れた。
なぜか円陣の中で螺旋状に風が舞い上がる。
「な、な、な、なっ!?」
言葉にできずに吃る私に対して、変態(変質者なんかに収まるか!)たちは平然としている。
手ぇ込みすぎでしょ!!
何これ蛍光インク?
ハリウッドの新技術!?
円陣がより一層強く光って、私は思わず目を閉じたーー。
*****
「おかえり、カノン」
金髪の声に、ゆっくり目を開ければ。
「ここどこ?」
な世界が広がっておりました。
ゴツゴツとした剥き出しの地面。
それを取り囲むように四方に建った白い円柱。
何よりも視界を塞ぐ大きな白亜の城に、目を疑った。
「あれは君の家だよ」
城を差しながら、小首を傾げる金髪。
チクショウ、サマになったやがる。
だけど言っている意味はわからない。
いつの間にか銀髪の羽交い締めは解けており、へなへなと地面に座り込もうとした。
「危ない」
なのに、ショックで座らせてもらうことすらできなかった。
というのも、銀髪に腰に手を回され、支えられたからだ。
「なんなの、もーーっ!!?」
脳の許容オーバーに、私は叫ばずにはいられなかった。
御堂カノン、17歳。
職業、女子高生。
どうやら拉致られて、異世界トリップしたようです。
その後、金髪ことアルト・イー・ジュディア(シスコン)から、カノンが実はアルトの実妹で、ジュディア王国の王女で、赤ん坊の頃にチキュウに飛ばされたのだという話を聞かされ、常識が破壊されそうになったのは、また別の話。
さらにさらに、銀髪ことシュリオン・ヴェルドが自分の婚約者だと知って、カノンが逃亡するのもまだまだ先の話。